06:紅い指先


式部は太陽に手を翳すようにして、
血液で赤く染まった手袋を脱いだ。

「何してるんだ?」

真夏の午後の太陽を遮るように上げた手を
見上げたままの式部に、御子柴が怪訝そうに
声を掛ける。

「こうやって陽の光に透かすと、手が真っ赤に
見える」

式部はそう答え、軽く笑みを浮かべた。

「そりゃそうだろ。これだけ陽射しが強けりゃ」

赤い唇が綺麗な弧を描いて、紫の瞳が物云
いたげに細められた。

「真っ赤で。。。血で汚れてるみたい」

凄惨なまでに美しい微笑み。

「この手にはこの3年間処刑してきた死刑囚
の血が滲みこんでいて、どんなにキレイに見え
たって本当は血だらけなんだよね。。。」

目を伏せて、俯く。
ふわりと広がった髪が青く煌めいた。

「手、貸せよ」

え?という表情で顔を上げた式部の片手を
掴んで、御子柴は自分の方へ強く引いた。

「笑太君っ?何する。。。!っ?!」

握られた式部の手の甲に、軽く、啄ばむように
御子柴の唇が触れる。

「汚れてなんかない」

呆然とする式部とは対照的に、
御子柴は悠然と微笑んだ。

「私利私欲の為に殺人を犯すヤツラと俺らは
違うだろ」

短く切り揃えられた爪のひとつひとつにくちづけ
ながら、囁く。

「まだキレイだ。大丈夫」

式部の顔に浮かんでいた空ろな笑みは、いつの
間にか本物の微笑みに変わっていた。

「笑太君。。。ありがとう」

御子柴に触れられたところが熱を持ち、紅く染ま
っていくような気がして、式部は慌てて手を引っ
込めようとした。


End.



清寿入隊3年目。。
という設定の話。
や〜っと
ショートショートな
長さの話が
書けました(汗


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