05:きいろい鳥


「このコは啼かないの?」
殺人事件の現場に残されていたのは、真っ白な針金
で出来た、サイズは大きいけれど瀟洒な作りの鳥籠。
中には綺麗な小鳥が一羽。
小さな戸が開いているのに、外に出ようとはしない。

フローリングの床には、夥しい量の血の跡。
ズタズタに切り裂かれ、人の形を留めない死体。

部長室で現場写真を見せられた時、清寿は露骨に
目を背け、苦しそうな表情を浮かべ手で口元を覆った。
特徴のある凶器ですぐに割り出された容疑者は、数日
前にROT法による死刑が確定していた。
既に他の部隊が追っていたが、次の犯行を防ぐ為にも
早急な処刑が必要ということで、話が第一に回ってきた。
引き継いですぐに捜査を開始したところ、検死とDNA
鑑定の結果から、被害者の身元が割れた。
「う〜ん。。。容疑者だと思っていたのが被害者だとは」
柏原が難しい表情(かお)で、大きな溜め息をついた。
「顔や手足の指先はぐちゃぐちゃだったみたいだからな」
俺も同じ格好をして、同じ様に溜め息をつく。
三上さんは無表情で、五十嵐は無言。
部長室には重い空気が漂っていた。
「ねぇねぇ、君は啼かないの?啼けないの?」
そんな俺たちの背後で、清寿がしきりに黄色い小鳥に
話し掛けていた。
「ご主人様が殺されたのを目の前で見ちゃったんだもん
ね。そのツラさや悲しさ、よく解るよ」
優しく声を掛けられても、小鳥は怯えたように全身の
羽毛逆立てて、清寿が居るのとは反対の側面に小さ
な身体を押し付けて、近付かれるのを拒んでいた。
「僕もね、子供の頃に目の前で大事な人を殺されて
ね――」
そんな話、鳥にしても分からないだろう。。。
そう思っても話を遮らなかったのは、過去の話を清寿
自身が語っているのを聞いたのが、初めてだったから。
「あ、あれ。。。?」
唐突に言葉が途切れ、背筋を伸ばして清寿が振り
返った。
「ね、このカナリヤ、足に怪我してる?」
「いやぁ、小鳥はなんとも無かったハズ」
質問の意図を量りかねて眉を顰め、柏原が答えた。
清寿はいつもこんな調子で、いきなり突拍子も無い
ことを訊いてきたりするが、1年も一緒に居ればそれに
も慣れる。そしてその問いかけが意味のないものでは
ないことも、段々と分かってきた。
「なんでそう思ったんだ?」
清寿の横に並んで、頬が付きそうになるくらい近くに
顔を寄せて、鳥籠の中を覗き込む。
「だってこっちの足に。。。乾いた血みたいのが付いて
ない?」
小鳥の片足の爪の間に、そう云われれば血痕だな、
というような黒いシミが、確かにある。

「このコがケガしてないんだとしたら。。。あれって。。。
誰の血?」

鑑識を呼んで大至急で鑑定してもらったら、それは
以前この被害者と組んでいた、別の死刑囚のものと
一致した。

「お前は偉いね。喋れなくてもちゃんと犯人を教える
ことが出来て。僕と大違いだ。。。」
軽く傾げられた首の動きに合わせて、髪が、肩へと
さらさらと流れ落ちる。
顔に細い傷。。。まるで鳥の爪で引っ掻かれたような
傷のある死刑囚の処刑を終えて戻ってきて、部長室
に置き去りにされていた小鳥に、清寿が話し掛ける。
“証拠物件”から“遺品”となった小鳥は、明日には
遺族に手渡される。
「元気でね。優しくして貰うんだよ」
鳥籠の隙間から清寿が躊躇いがちに差し入れた指の
先に寄ってきて、黄色い小鳥がか細い声で囀った。

「あ、啼いた!今啼いたよね?聞いた?ねぇ笑太君」

最近、清寿は俺のことを名前で呼ぶようになった。
少しづつでも、やっとここまで近付いてきてくれたんだな。


End.



清寿がやっと
笑太君、と呼べる
ようになった頃の話。
一応、
清寿が入隊して
1年目の終わり頃。。

この“色のお題”の話は
過去から
最終話の“未来”
へ向けて
進めていく感じで。。


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