03:木々の緑


「“あぁ新緑だ。綺麗ですね。まだこの世の中ってこんな
に美しいんだ”ってさ、何寝惚けてんだ?って感じだろ?」

毒づいた御子柴を見る三上と五十嵐の表情は、云った
本人が予想していたのと正反対だった。
苦笑するか、呆れるかだろうと思っていたのに。
「それ、本当に式部が云ったのか?」
五十嵐に疑うような口調で訊かれて、御子柴はその顔を
睨み返す。
「あ〜そだよ。アイツ何なんだ?ちょっと休憩あると外でも
制服のままぐ〜ぐ〜寝やがって」
組んだ手を口の前に当て、三上が目を細めた。
「寝る?」
「ああ。ちゃんと夜寝てんのかぁ?ってくらい居眠りすんだ
けど。夜に何か別の事でもしてんじゃねェのってくらいにさ」
む〜。。。と、五十嵐が低く唸った。
三上はいつに無く険しい表情をして、御子柴の事を見詰
めている。
そのまま数分が経過して、沈黙に耐えかねた御子柴が
怪訝そうな表情で口を開いた。
「。。。何だよ?」
何かオカシイ。
休憩の時間とは云え、任務中に居眠りをする相棒に呆れ
果て苦情を云いに来ただけなのに、反応が変だ。
御子柴は口を噤み、目の前に居る上司達が口を開くのを
待つことにした。
「五十嵐君」
口火を切ったのは、三上だった。
横に立って唸っている五十嵐を横目で見上げて、促すよう
に名を呼んだ。
「あ、はい。でも。。。いいんですかね?」
五十嵐は三上を斜め上から見下ろして、戸惑いを隠さずに
尋ね返す。
「“横に居ても眠れるような相手”だ。こちらから話しても怒り
はしないだろう」
三上はいつも通りの冷静な顔で目の前の資料を手に取ると、
とんとん、とデスクの上で揃えた。
「総隊長。式部が不眠症だって本人から聞いたことないか?」
御子柴は目を見開いて、強く頭を左右に振った。
「いや。そういうプライヴェートな事は全く話したことが無いから」
「式部の、過去の話は?」
「だからぁそんな話は。。。」
面倒臭くなって云い捨てようとした御子柴の心に、一つの言葉
が引っ掛かった。
「。。。過去?」
「そうだ。式部は子供の頃目の前で両親を殺されて―――」

それは悲惨な内容で、御子柴は言葉を失ったまま呆然と聞
いていた。

「―――現在でも酷い不眠症で、定期的にメンタルチェックも
受けて、薬も貰っている。それでも眠れてなさそうだがな」
「。。。なんで眠れてないなんて解るんだよ?」
五十嵐はシマッタという表情で押し黙り、三上が代わりに口を
開いた。
「目の部屋は、隊員の精神や身体の管理の為にも使われて
いる」
同情に最も近い怒り。そんな感情が、御子柴の中で爆発しそ
うになったが、唇を噛んで投げつけてしまいそうになった罵りの
言葉を飲み込んだ。
「ほんの少しでも精神的に壊れる兆候が見られれば、どんなに
優秀な隊員であっても即刻対処する。お前達は法を護る為の
番人であるが故に公人であり、プライヴェート等無いに等しいと
いうことを自覚していた方がいい」
三上が冷たい表情と口調で云うと、御子柴は黙って踵を返し、
ドアを力任せに閉じて出て行った。

「清寿。。。おい、清寿、起きろ」
「あ。。。ああ、すみません」
式部が目を覚まして、上を見て何回か瞬きをした。
「清寿、今日も世界は美しい、か?」
上半身を起こした式部は目を丸くして、前髪で顔を隠すよう
にしていた御子柴を見詰めた。
「。。。はい。寝転がって空を見上げると、真っ青な空に木々
の緑がキラキラ光ってすごく綺麗なんですよ。御子柴隊長も
やってみませんか?」
その笑顔が眩しくて、御子柴は目を細めた。
「次の現場へ行くぞ。ほら、立てよ」
立ち上がった御子柴が差し伸べた手を驚いたような表情で
見て、手の主の顔をもう一度見て、式部は、ふわり、と、花
が綻ぶような微笑みを浮かべた。
「ホラ。ぐずぐずすんなっ」
「はい!」
握り返された手をしっかりと握り返して式部を引っ張って立
たせた御子柴の頬は、照れたように淡く染まっていた。


End.



清寿が入隊してあまり
経ってない頃の話。。
シチュ20題の
“02木漏れ日の中で”と
LINKしてます。


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