―A Scar In The Memory―
             after“シチュ20題;19薄暗い地下室で”


――見ないで、笑太君!見ないで。。。っ!!
そう叫んでいた悲痛な声が耳の中に灼きついてしまって、
離れない。。。


落ち着かせる為に抱き寄せようとしても全身で俺の腕を
拒み、目を固く閉じて顔を見られまいと髪を振り乱して
いる姿が可哀想で、背中側から押さえつけた。
舌を噛み切るんじゃないかと心配して口にタオルを突っ
込もうとした指に、軽く歯列が当たった。
「っつ!」
思わず発してしまった俺の声を聞いて、清寿の瞳にほん
のちょっとの正気が宿った。
「清寿、落ち着いて」
「だめだよ。僕に触っちゃだめ。汚いから」
処理班から受け取った毛布で全身を包み、抱きかかえる
ようにして諜報課第一斑のバンに連れ込む。
「いや。。。見ないで。。。触らないで。。。っ」
俺だって、こんなお前の姿なんて見ていたくない。
だからそんなに暴れないでくれ。。。
口移しでなんとか水を飲ませ、鎮静剤を打つ。
「笑太君。。。ごめん。。。」
薬が効いてきてぐったりしてきた身体を、毛布でしっかり
包み直す。
「総隊長、とりあえず医務室に行く?」
「いや、シャワー室が先だ」
柏原が無言で頷いて、他の者に指示を出す。
カフスを外してやる時に掴んだ手首から伝わった鼓動が
浅くて速い。
弱くて不安定な呼吸。苦しげにつぶられた目元。
何をしてやったらいいか分からないのが歯痒い。

俺の判断ミスだった。

単独で逃亡しているとばかり思っていたその死刑囚に
は仲間が複数居て、清寿を一人で潜伏現場に向か
わせたら逆に拘束されてしまった。
記章が発信している電波を追いながら、現場に突入
した時に咄嗟の判断で通信状態に切り替えたらしい
インカムマイクが拾う音声をイライラしながら聞いていた。
どんどん悪化していく状況。
怒りで身体中の血液が沸騰して噴き出してしまいそう
だった。
やっと特定出来た監禁場所へ乗り込んだ時、清寿は
辱めを受けながら頚を絞められて、殺されかかっていた。
それを見て理性がふっ飛んだ。
清寿の上で蠢いていた男の頭を一撃で砕き、残った
肉塊をゴミのように取り除く。
しがみ付いてくるかと思った清寿はパニック状態に陥って
いて、差し伸べた俺の腕から逃げようとした。
見ないで!と叫び、抵抗して暴れ続けた。

俺が悪い。お前をこんな目に合わせるなんて。。。!

鎮静剤が良く効いて熟睡している清寿の身体を無言で
抱き締める。
頚に残る、鬱血した指の形の跡。
傷こそ出来ていないがくっきりと残る赤黒い痕を、舐めて
やる。
こんな痕、薄くなってしまえばいい。。。
本当は消してやりたいが、一度付いたキズはすぐには
消せない。
法務省に着いて羽沙希を先に帰し、シャワー室で全身を
洗ってやって、医務室でメディカルチェックを受け身体的に
は異常なしと診断されたので、さっきのより強めの鎮静剤を
もらって清寿のうちへ連れて帰る。
その間清寿は昏睡にでも陥ったように、一回も目を覚まさ
ずに昏々と眠り続けていた。

「。。。シャワー、浴びたい」
丸一日眠って起きた清寿の第一声はそれだった。
「ひとりで入れるから。大丈夫だよ、笑太君」
仕事から帰ってきたばかりの俺に向かって無表情に云って
バスルームに入ったきり、もう1時間近く経っている。
最初はベッドの上で寝転んで、そのうちソファに移動して、
今はバスルームのドアの前に座りこんで、清寿が出てくるの
を待っている。
途切れることのない水音。
湯船に浸かる時は止めるだろうから、ずっとシャワーを浴びて
いるってことか?
にしては長すぎる。
「清寿」
痺れを切らして、外から呼び掛けてみる。
返事は、無い。
もう1回。やっぱり返事が無い。。。
ドアをこじ開けてみたら、浴槽の側面に寄り掛かってシャワー
の飛沫を浴びている、小さく丸まった背中が目に飛び込んで
きた。
「清寿っ!」
意識はあるようだったが、ぼんやりしていて返事もしない。
シャワーを止めて、無理矢理立たせてバスルームの外に連れ
出して、バスタオルで包んで拭いてやりながら部屋の中を誘導
する。
ぐらつきもせずしっかりした足取りでベッドの横まで歩いて来て、
崩れ落ちるように身体を投げ出した清寿の上半身を抱え上げ
るようにして仰向かせて、薄く開いたままの唇に唇を重ねた。
「清寿、しっかりしろ」
唇を腕から肩、首筋、顎へと滑らせて、身体の横に無造作に
放り出された手に手のひらを重ねて、強く握った。
握り返されてきた手が、微かに震えていた。
「ごめん。僕ね、あいつらに犯されて、何度も何度も中で出され
ちゃった。。。」
ざらついた怒りの感情を抑える為に、もう一度指に力を籠めて、
ぐっと握ってやる。
「洗っても洗ってもキレイにならない。。。」
うわ言みたいに呟いた言葉を飲み込んでやるように唇を塞ぎ、
ぐったりしている身体を引き寄せる。
「頚の跡も。。。擦っても消えなくて。。。」
虚ろに開いていた瞳から、涙が流れ出してきた。
「。。。泣けるか?清寿」
「う。。。んっ」
「ちゃんと声出して泣け」
俺に縋り付くようにして声を上げて泣きじゃくりだした清寿の背中
を撫でてやった。
「ごめん。。。ごめんなさい」
「もう謝るな。悪いのは俺だ」
「笑太君お願い。。。嫌いにならないで」
濡れた髪に頬擦りをして、背中を抱き寄せる。
気が済むまで泣いて疲れて眠ってしまうまで、震える身体をただ
抱き締めていた。
「嫌いになんて、ならねぇよ」
ベッドの上に清寿の身体を横たえて、上から顔を覗き込むように
して静かに声を掛ける。
首筋に唇を当てるとびくっと全身が痙攣して、ひゅっと息を吸い込
んだで呼吸を詰めた。
「。。。怖かったんだな」
髪を梳くように撫でていると、細く目が開いた。
「起こしちまった。すまない」
枕の上で頭を軽く傾げるようにしてから、清寿はふわりと笑った。
「笑太君、僕のこと嫌いじゃなかったら、抱いて」
そう云うと目を閉じて、くちづけを待っているような表情(かお)をした。
何も答えずに唇を重ね、身体を重ねる。
「怖かったら云えよ」
時間をかけて愛撫して残っていた身体の強張りを取り、痛みを感じ
ないように解してやる。
「ん。。。怖くない。。。笑太君だったら怖くない」
背中にしがみついていた手が強く握り締められた。
「でも。。。もう笑太君以外の前では出来るだけ肌を出さないように
する。汚い痕が残ちゃってる気がするから。。。」
膝の後ろを持ち上げて、その中心にゆっくりと熱の塊を埋め込んでいく。
「う。。。あぁ。。。っあ。。。ああ。。。ん。。。っ」
感じるところだけを擦り上げて、愉悦だけを与えるように揺さぶってやる。

抱いてやることで俺の気持ちが伝わるのなら、愛されてると実感出来る
と云うのなら、満足するまで何度でも抱いてやる。
お前は唯一無二の俺のパートナーなんだから。
今までもこれからも、お前だけが、ずっと。。。

卑劣な死刑囚に対する憎しみが、俺の中で増幅していった。


―The end―







P.S.
ショートショートの部屋の
シチュエーションのお題で
“19薄暗い地下室で”
というのがありまして、
それで書いた話の中で
清寿があまりにも可哀想
だったので。。

シチュ19番目の話と
合わせてお読みくださると
状況がお分かり頂けるかと
思うのですが。。(汗
08/04/28mon.


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