10:誰よりもあなたが


誰よりもあなたが傍に居てくれればいい。
抱き合っただけで、それ以上何もしなくてもいい。
温もりだけをくれればいいから。。。


数日前から、街路樹の八重桜が咲き出した。
枝の一本がぐっと、うちの窓のところまで張り出して
いて、そこにも沢山花がついている。
笑太君が桜が苦手だっていうのは知っていたから、
その枝が八重桜のものと知って安心して。。。
あれからもう季節が一巡したのか、と、思った。
花弁を集めて作った毬みたいな、ピンク色で丸くて
ふわふわの八重桜の花は可愛くて、見ているだけで
心が癒される。
窓際にベッドが置いてあるので、横になる場所によ
っては寝たまま花見が出来る。
眠れないからついでに、どこから見上げるのが一番
綺麗か研究してみたら、いつも笑太君が横になっ
ている辺りから見るのが良いらしい、と分かった。
けど笑太君は大概窓に背中を向けるようにして、
部屋側に居る僕の方を向くようにして横になること
が多いから、きっと気付いてないだろう。
もしかしたらこれが八重桜の枝だってことにすら気付
いてないかもしれない。
去年この花が咲いていた頃は、もっとお互いの事を
知ろうと必死になっていた時期で、笑太君にだって
窓の外を見ている余裕なんて無かっただろうと思う。

「花が散っちゃうまでに来てくれるといいな。。。」
普通の桜じゃないからきっと不機嫌にならないで、
綺麗、って思ってくれるんじゃないかな。。。

穏やかな気持ちになって目を閉じても、眠りに入れ
る感じがしない。
眠れないという事よりも、ご飯の作り甲斐が無くて
食欲が出ないからあまり食べてないという事よりも、
ひとりで居るのがツラくて、一晩に何度も泣きそうに
なるけれど涙が出ないのは、笑太君が傍に居てくれ
ないからだ。
「なんか子供みたいだ。。。」
自嘲気味に薄い笑みを浮かべて呟いてみる。
子供の時にされた以上に甘やかしてくれちゃうから、
こんなに気持ちが弱くなっちゃうんだ。。。
「情けないな」
けど、寂しい。
人肌の温もりが恋しくて、自分で自分の身体を抱き
締めて悶え苦しむ。
もう何日もこんな狂おしい夜を繰り返していて、昼間、
普通の顔で接しているのが苦痛。
そろそろ限界が近くなってきた。

「今日はお前んとこ行けるから」

今朝、着替えの途中で笑太君に告げられた時には、
思わず笑顔が零れてしまった。
嬉しくて逸る心を抑えながら頑張って任務をこなし、
久しぶりに張り切って夕飯作って食べた後の記憶が
。。。無い。
眠ってしまったらしくて、視界が明るくなって、あれ?と
思って目を開けたら、整った寝顔がすぐ間近にあって
驚いた。
裸だけど2人共下着は付けていて、シーツもそんなに
乱れてないところを見ると。。。
笑太君、我慢したんだ。。。エラいなぁ。
僕が笑太君だったら無理矢理起こして襲っちゃうのに。

「でも。。。ちょっと残念?」

小さな声でも口に出して云ってみたら可笑しくなって、
ベッドの下に放り投げられていた昨日着ていたハズの
服を笑いながら回収して、今夜も一緒に過ごせます
ように!という願いを込めてコーヒーを淹れながら、
苦しそうな表情で眠っている笑太君の唇に啄ばむよう
なキスをしていたのを。。。

八重桜の花達に覗かれてしまった。


―Double cherry blossoms―



“09とまらない欲望”と
対になる話です。
倒錯のお題の最後の2作は
可愛い感じでまとめて
みました。

どこが倒錯なのかと云うと。。
“会えない間、悶々としている
各々の様子”と
“翌日の激しい夜”を
ご想像ください。。
と、云うことで
お許しをっ(汗


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