―SA・KU・RA・1


「泣かねぇよ。お前じゃあるまいし」

本当は僕より泣き虫なのに、こういう時に強がりを云うの
は笑太君の悪い癖。
「。。。う、うん。ならいいんだ」
口から出そうになった言葉を飲み込んだら変な顔になっ
ちゃっていたみたいで、額の真ん中を人差し指で、ぴんっ、
と軽く弾かれた。
「口尖ってんぞ。云いたいことあるんなら云えよ」
云ったって、どうせ否定するでしょう?
そう云い返すとヘソを曲げそうだから、だから云わない。
上目遣いで見詰め返して黙っていたら、いきなり帽子の
ツバを掴まれて、思いっきり下に引かれた。
「。。。っ!」
予期せぬ動作に対応しきれず僕があたふたしているのを
見て、笑いを噛み殺している気配がする。
「気ぃ遣いすぎなんだよ。大丈夫だって」
ホント?
本当に大丈夫。。。?
なら何で、そんな顔、してるの?
ここが処刑後の現場じゃなくて、近くに羽沙希君や柏原
班長や処理班の人達が居なかったら、ぎゅ〜っと抱き締
めていそうなくらいに、今にも泣きそうな表情(かお)、して
るんだよ。。。
ぐいっ、と腕を掴まれて、躓くように数歩前に出た。
「何て顔してんだよ?」
「え。。。?」
髪についた桜の花弁を指で抓んで取るフリをしながら額
に軽くくちづけてきて、笑太君が云う。
「清寿、お前、泣きそうな顔してんぞ」
憎らしいくらい、カッコイイ笑顔。
本当はツラいクセに。
先刻から無意識に左肩に触れているのがその証拠。
左肩に置かれていた指に僕が伸ばした手が触れたら、
はっ、とした感じで手を引っ込めた。
驚いた表情は誤魔化せても、目元に漂った動揺はすぐ
には消すことは出来ない。

「今の死刑囚。。。“あの人”に似てた。。。よね」
笑太君の肩が小さく震えて、僕を見る瞳が凍りついた。
「だから撃つの、一瞬躊躇ったでしょ?」

今朝、任務の説明を受けながら写真を見せられた時、
実際に会ったことが無い僕でも、似てる、と思った。
特刑最大のタブーである、桜澤元総隊長に。。。
横に立っていた笑太君の顔色がみるみる悪くなって、
羽沙希君以外、三上部長も五十嵐課長もそのことに
気付いていたハズなのに、そ知らぬフリで説明を続けた。
笑太君が必死に平静を装おうとしているのが分かった
から僕も気付かないフリをしたけれど。。。
現場に向かう間も笑太君はずっと無言で、どう声を掛
けたらいいか分からなかったから、僕も黙っていた。
潜伏場所に踏み込んで追い詰めて明るい場所で対峙
した時、横に立っていた笑太君の口元から食いしばっ
た歯がカチカチと鳴る小さな音が聴こえた。
肩が張ってがっしりした体型、髪の色、髪型。。。
こちらに向かって構えられた銃はデザートイーグルでこそ
なかったけれど。。。
それを除けばあまりにも似過ぎていた。
「笑太君っ!!」
トリガーを引く指が一瞬の躊躇ったのを見て、僕の声と
ワイヤーが先に飛び出した。
死刑囚の銃口が上に逸れ、羽沙希君の白刃が頚を
切り落とした後の身体に、笑太君は狂ったように銃弾
を撃ちこみだした。
「もう止めてっ、笑太君!」
鋭い声で制止すると、弾が切れてもトリガーを引き続け
ていた笑太君の顔に正気が戻った。
そして両腕をだらんと身体の横に下ろして、横目で僕
を捕らえてから、悲痛な笑みを浮かべた。
「。。。任務完了、だな」
処理班に連絡しながらも、笑太君の様子が気になって
しょうがなかった。
上を向いて顔を見せないようにしていたから泣いている
のかと思っていた。けど、その目には涙は無かった。
そればかりか笑って、大丈夫、だなんて強がりすぎだよ。

笑太君の瞳が揺れている。
目頭に力を籠めて、泣くまいと耐えている。
その時突然強い風が吹き抜けて、僕達の間を淡い色
の花弁が激しく舞って散った。
まるで笑太君を庇うように、その表情を桜が隠す。
それが、それ以上責めるなよ、と、云っているみたいに
見えた。。。

「もう少しだから。。。頑張って」
抱き付いてきそうになった笑太君の身体を、胸に手を
当てて押し返す。
ここの後処理が終われば本日の任務は全て完了。
三上部長のところに報告に行って、帰るだけだ。
「笑太君なら大丈夫。傍に居るから」
耳元で囁いた言葉に、溜め息と頷きが返ってくる。

そして後ろを振り返った時にはいつもの顔。。。
総隊長である御子柴笑太の顔、に戻っていた。


―To be continue―






P.S.
Happy Birthday♪の
花月すばる様に捧ぐ。。

<SA・KU・RA・2>に続きます。
そちらはR-18で。。(汗

久々の季節ものです(喜
サイト1周年記念で発行する
『桜-HARU-』の話とは
全く正反対の設定での
リクエストでしたので、
かなり楽しんで
書いてみました♪
読み比べてみて欲しいな、
なんて、
密かに思っております。。
08/04/09


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