05:果てゆくもの


――花を一輪買ってこい。

それは符牒のようなもので、この命令が下された時は
花を一輪調達して出頭しないといけない。
いつもは俺一人で行っていたが、今日は清寿も連れ
てこいという。
「一輪?。。。花を選べばいいの?」
仕事が終わった後一旦着替えて花屋へ行き、ちゃん
と説明しない俺の顔を不服そうに見ていた清寿が選
んだのは、冴えない色のバラ、だった。
「何か。。。地味なバラだな」
それを買って帰ってきて、白の制服に着替え直しなが
ら思わず零れた本音に、清寿は軽く眉を顰めて、困っ
たような顔で笑った。
「やだなぁ笑太君。こういうの今流行ってるんだよ。
シャンペンカラーって云ってね。。。」
シャンペン。。。か。
くすんだような色合いが、そう見えなくもない。
それに、ならば"あの場"に合うだろう。
更衣室を出て、早足で廊下を歩く。
どこに行くのか説明されていない清寿は落ち着かない
様子で、透明なフィルムでラッピングされたバラを胸の
前で大事そうに握って、必死に後を追ってきた。

「いい色だな。それ、お前の見立てじゃないだろう?」
そのバラを見た途端、獅洞大臣はそう云いやがった。
「ど〜せ。。。センス無くて悪かったな」
口の中でブツブツ云うと、大臣が座るデスクの手前に
立っていた三上さんが、薄く笑った。
「法務大臣に特刑部長に総隊長って。。。この面子
が揃って今から何が起こるの?」
俺の耳に手を当てて、こそっ、と訊いてきた清寿の口を、
手のひらで覆う。
「今日亡くなったのは女性だから、こんな色の花もいい
かもしれないな」
三上さんの言葉に清寿の唇が強張り、すぅっ、と息を
吸い込んだ形のまま、固まった。
「さぁ、始めるぞ」
大臣の言葉に深く頷いて、低い声が響く。
「本日殉職者一名。第36部隊所属。。。」
淡々と手元の資料を読み上げる三上さんの横顔を、
口元で手を組んで無表情にそれを聞いている大臣の
顔を、清寿は呆然と眺めていた。
「式部副隊長、花を」
突然名を呼ばれて弾かれたように歩み出た清寿が、
おずおずとバラを差し出した。
三上さんはそれを受け取って、厳かな動作で大臣の
目の前に置いてあった、故人に対する辞令の書類の
上に置いた。
個人データも明かされず、身内の無い者が多い特刑
隊員が殉死した場合密葬されるというのは隊員なら
誰でも知っているが、こんな儀式めいたことが行われて
いるとは知らされていない。
自分の身体で隠すようにして腕を後ろに伸ばし、驚き
のあまり全身を強張らせて立ち竦んでいる清寿の手を
探り当て、握ってやる。
びくっ、と緊張した指が、その手を求めていたかのよう
に握り返してきた。

「全然知らなかった。。。こんなことしてるなんて」
大臣室を出てからもずっと無言だった清寿が、もうすぐ
更衣室に着く頃になってやっと口を開いた。
「まぁな。極秘事項扱いだから」
俺の言葉を聞いて、俯く。
「ごめんね笑太君。僕、誤解してた」
歩く速度は緩めずに、横顔で笑って返す。
「知ってたよ。でも云えねぇし」
清寿は半ば駆け足で追い縋るようにしながら、云い訳
をしている。
「だってさ、呼び出されて花買って一人で大臣室に行く
ってさ。。。誤解するって普通」
ぴた、と急に足を止めて、頭を抱き取る。
「俺の時は桜がいいな。お前の時は何がいい?」
そんなっ!と唇だけが動いたが声にならなかった代わり
に、目の縁に大きな涙の粒が湧き出してきた。


―Requiem―



果てゆくもの、ではなく、
“散りゆくもの”という感じの話
になってしまいました(汗
もしかしたらこのお題の中で
唯一のカタい話かも。。


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