02:甘い囁き


「機嫌悪いな」
「当たり前だよ」
自分で淹れたコーヒーを勧めておきながら、カップ
を受け取る時に指が触れそうになると、すっ、と
式部は手を引いた。
朝、出来心でしてしまった悪戯は式部の自尊心
をかなり傷付けてしまったらしく、あまり口をきいて
ももらえない。
「はは。。。」
いつもはこちらが笑うと嬉しそうな表情(かお)をする
のに、起きた時からずっと拗ねたままだ。
貸してやったバスローブも肌に慣れない様で、先刻
からイスの上でしきりにもぞもぞしている。
「三上さん。。。今日はお休み?」
なるほど。落ち着かないのはそのせいか。
「ああ、たまにはな。お前も今日は非番だろう?」
強い視線を感じて、カップになみなみと注がれた
コーヒーの液面から目を上げると、紫色の瞳に
射抜かれてしまった。
「。。。」
何か問いたげに唇が動いて、しかし何も云わずに
真横に引き締められる。
「なんだ?」
視線が外せない。
「お休みすることなんてあるんだ?」
素直な質問に、笑みが漏れる。
「休もうと思わなければ休めないから、たまに自主的
に休むようにしている」
視線が和らいだ瞬間に、コーヒーを啜る。
「そうしないと身体が保たなくなってきたからな」
今日初めて見せる笑顔。
「そんな時だけおじさんぶって。。。」
頭が軽く傾げられて、長く伸ばされた髪の先が肌理
の細かい胸元に流れる。
「もう少し飲む?」
テーブルの上に置かれたカップの中を覗き込むように
して立ち上がった。
「そうだな」
2人の間に置かれたサーバーを持ちとうと伸ばされて
きた手を横から掬い上げるようにして捕らえ、手前に
引く。
「!」
反射的に反対の手をテーブルの上に付いて何とか
姿勢を保ち、式部は再び不機嫌な表情(かお)をして
みせた。
「も〜っ!もうこれ以上悪戯しないで」
今朝のことを思い出して口を尖らせている頭を抱き
寄せて、耳に掛かった髪を掻き分けるようにして囁く。
「可愛いな」
「からかうの止めて」
「今日は一日一緒に居よう」
息を鋭く吸い込んで、腕の中で全身が強張った。
「呼び出されなければ明日までずっと。。。」
優しく背中をさすって、緊張を解いてやる。
「こうやって傍に居てやる」
甘い囁きで、お前を融かす。
「ね、メガネ、取っていい?」
返事を聞く前に外したメガネを自分でかけて、子供
みたいに無邪気に笑っている姿を見て、ほっ、として
いる私が居た。


―feel at ease―



この関係は倒錯っぽいかな。。と。
若い子とお付き合いするのは大変ね、
という話でもあったりして(笑

三上さんが清寿に
どんな悪戯をしたのか?は、
次の“03彷徨う指先”で。。
R-18指定ですが(汗


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