01:命の無い僕、生きているあなた*R-18*


素肌に息が、触れる。
そこから熱が吹き込まれて、僕に命が与えられる。
全身を緩やかに、愛撫される。
手と唇の温もりが、僕を人間(ひと)に変えてゆく。
君に触れられてこじ開けられるまで、
僕はただの人形だった。
過去を壊すことだけを考えていて、
自分の生命(いのち)も現在(いま)も未来(さき)も
どうでも良い、人の形をしたもの、だった。


「いい?」
抱かれることよりも、他人に触れられること自体に
慣れていない僕を気遣って、笑太君は最初から
無理をしようとはしない。
「ん。。。まだ。キツいだけ」
もう何回か身体を重ねているのに、時間をかけて
丁寧に扱って貰っているのに、いい、とは感じない。
「力抜いて。腕を俺の首に掛けて」
云われた通りに首に腕を回して、背中の上で手を
組む。
肌に粒になって浮いている汗と、首元に耳を寄せ
た時に伝わってきた強い鼓動が、笑太君の“命”
を感じさせる。

君は最初に会った時から“人間”だった。
僕とは違うって、そう感じた。

「何考えてるんだよ?」
顔を押し付けるようにして髪の上からくちづけを
しながら、責めるような口調で問われた。
「何も」
耳朶を甘く噛まれながらも、何の感情も無くそう
答える。
「してる時ぐらい俺の事考えろよ」
「そういうもの?」
「そういうもんだろ」
そうなのか、と、思う。
「俺のこと、どう思ってんだ?」
「う〜んとね。。。好き?」
今日何度目かの、呆れたような溜め息。
「好きって意味、ちゃんと分かって云ってんのか?」
僕のこと好きって云ってくれるからそう返すだけで、
実感は全くない。
昔は分かっていたと思うけど、もう何年もそんな
感情を抱いたことが無かったから忘れてしまった。
太腿に掛けられた手が僕の股関節を更に押し
広げて、腰が浮いた格好で激しく穿たれる。
「あっ。。。うぅ。。。あ。。。あぁ。。。んっ」
甘い喘ぎ声が出てしまうのも反射的なもので、
涙が出るのも生理的な反応みたいな気がする。
「良くなってきた?」
「ダメ、苦し。。。」
「こんなに濡れてんのに。。。まだキツいか?」
笑太君だって眉間にシワを寄せて汗だくになって
動いていて、苦しそうにしか見えない。
「笑太君はこんなことして気持ちいいの?」
「清寿、お前さ、“好き”でこうやって愛し合うことが
どういう意味なのかが分かってねぇんじゃねぇの?」
強く抱き寄せられて、耳元で囁かれた。
「好きだから欲しいってどんな感じか教えてやるよ」
今まで繋がった時よりもより深い所を繰り返し突き
上げられて、すぐに意識が朦朧としてきた。

忘れていた方が楽だった、好き、という感情が、
僕の世界を壊してゆく。
そんなものもう要らないって、思っていたのに。。。

「怖い。。。っ」
肩にしがみついて、引き離されないように爪を
立てる。
「大丈夫。ちゃんと俺を感じて」
背中を支えられて、もっと奥を求められる。
「ああ。。。っ!」
沸点を越えて水が湯になるように、違和感が
突然快感に変わり、下半身が蕩けそうになった。
「あ。。。いい。。。」
笑太君が甘い声で、いいか?と訊いてきた。
「うん。。。気持ちいい。。。って、分か。。。る」
身体がびくんびくん跳ねて、震えが止まらない。
「笑太君、キス、して」
初めて、自分からねだった。
笑太君はものすごく嬉しそうに微笑みながら、
何回もくちづけをしてくれた。
「俺のこと、好き?」
「好き、大好き。だから笑太君を頂戴」
全部欲しい。
そう願うのは好きだからだ、と、思い出した。

その時、僕はやっと人間(ひと)に戻れたんだ。。。


君を喪ったら、僕はまた人形になってしまう。
だから、僕より先には逝かないで。。。
何があってもずっと見守っていてあげるから。


―Premonition―



お題が“倒錯”系なもんで
こんな話になりました(汗
こういう関係になって
まだ間もない頃というか。。
そういう頃の話(大汗

M様より頂いたメールより
発想してみました。
ありがとうございましたm(_ _)m


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