―10:翔


「清寿ヤバい。。。死刑囚が居ない!」
御子柴が足元に散らばる屍骸を数えて顔を上げた。
「羽沙希君っ!笑太君、羽沙希君は?!」
式部が焦った声を上げる。
填め殺しになっている窓ガラスは割られてもいない。
外部と繋がっていた唯一のドアの前には式部が居た。
「上かっ!?」
「上だっ!!」
天井を見上げて同時に叫んだ。
部屋の奥には諜報課からのデータには無かった階段
があって、上に向かって伸びていた。
一気に駆け登る。
一見天井と見分けがつかないように偽装された扉を
探し出し、先に居た御子柴が頭と肩を使い、全身の
力を込めて押し上げた。
勢い良く室内に流れ込んできた夜気と舞い上がった
埃と塵を避けて屋上に飛び出した御子柴と式部は、
その場の状況を見て凍りついた。
藤堂が周囲を囲んだフェンスに背を向ける格好で、
死刑囚に追い詰められていた。
「羽。。。っ」
名を呼ぼうとした式部の口を、御子柴の手が塞ぐ。
「動くなっ!」
左右に展開しようとした2人に、制止の声が飛ぶ。
「少しでも動けばコイツを斬るぞ!」
藤堂と相手との実力はどう見ても互角。
狡猾な分だけ相手の方が上かもしれない。
御子柴はぎりっと歯を食い縛り、式部は血が滲むく
らいにぎゅっと下唇を噛みしめた。
藤堂との位置が近すぎて、銃もワイヤーも使えない。
相手はそれを逆手に取って、わざと離れようとしない。
藤堂は自分に向けられた刃を凌ぐので精一杯で、
じりじりと間合いが詰められていく。
「っ!」
その時藤堂がフェンスに全体重を預け、反動を使って
死刑囚の顎を下から蹴り上げた。
予想もしていなかった攻撃に大きく反り返った首を、
式部が咄嗟に放ったワイヤーが捕らえ、切り裂く。
「羽沙希っ!」
駆け寄った御子柴が差し出した手は中空を掴み、
藤堂の身体はフェンスを越えて、翔ぶように舞って闇
の中に見えなくなった。
「笑太君っ!ここ5階っ!!」
式部が悲鳴に近い声で叫びながら身を乗り出すよう
にして下を覗き込み、御子柴は階下に向かって駆け
降りて行った。

「羽沙希君、ホントにどこも痛くしてない?」
藤堂が無表情に、こくん、と頷く。
隣のビルの屋上に着地した藤堂は、必死にその姿を
探していた御子柴と式部の前に何事も無かったかの
ような顔で現れた。
「隣の建物とほとんど隙間が無いのと、高低差が1階
分くらいしか無いのを資料見て把握してましたから」
はぁぁ。。。と、御子柴と式部は全身を使って溜め息
をついて、藤堂の頭を撫で回した。
「俺の下につく新人はなんでこんな無鉄砲なヤツばっ
かなんだよ」
御子柴が嫌そうに片目を細めながら舌打ちする。
「それ。。。僕のことも云ってる?」
式部が失笑して、云い返す。
「自分を棚に上げてさ、よくそんなこと云えるよね」
大笑い出した御子柴と式部を、藤堂は不思議そうな
表情(かお)で見上げていた。


End.



羽沙希君が入隊してすぐくらい
という設定。
漢字一文字のお題のラストは
真面目な第一の話で。。


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