―09:笑


「遅かったな」
「。。。前の処刑が手間取ったんだよ」
その時、俺は不機嫌だった。
面倒な処刑を一件片付けた直後に、三上部長か
ら呼び出された。
まだ一件残ってんのにその間に至急戻って来いなん
て横暴だよな、と、ブツブツ云いながら部長室に行っ
たら、先客が居た。
「今度第一に新人を入れることにした。」
この台詞、前に一度聞いたことがある。
あの時は俺が紹介される側だった。。。
思い出したくもない記憶が脳裏に映し出されていた。
「はじめまして。本日第一部隊に配属になりました
式部清寿です」
にこ。
三上さんのデスクの前に立っていた、長身で長髪で
卒なく制服を着こなしている新人が、笑った。
「変わった名前じゃねぇ?清寿、って」
初めて紹介された時に拒否されるツラさを知っていた
から、努力して、極めて友好的に声を掛けた。
「良く云われます」
また、笑った。
こちらの顔は決して笑っていなかったと思うのに。
初日からイラッとした。
そんなのはやたらとハッキリ覚えている。

あれから数年。
清寿は相変わらず笑っている。
それを見てもイライラしなくなったのは、近い存在に
なったからか。
「慣れただけじゃない?」
って云うかね、と、勿体ぶるように言葉を切ってから
こう続けた。
「笑太君が変わったんだよ」
そうかもしれない。
清寿が配属になった頃は例の事件の後で心も体
も一番ボロボロになっていた時で、世の中の全ての
ことにイラ立っていた。
「入隊する前も入ってしばらくもスゴく遠い存在だって
思っていたのに、今はこんなに近くに居るんだよね」」
俺だけに向けられた微笑みが眩しくて、目を細めた。
「。。。そんなに俺、遠かった?」
「うん。遠かった」
清寿は間髪入れずにそう答えてから、両手を振り上
げるようにしてしなやかに背筋を伸ばした。
「紹介された時すぐに歓迎されてないって分かったから、
どうやったら近付けるんだろう、上手くやっていけるん
だろうっていつも考えてたんだよ。。。そうは見えなかっ
たかもしれないけど」
腕の間から覗くように横目で俺の方を見て、恥ずかし
そうに微笑む。
「僕、頑張ったでしょ?」
今度は俺が笑う番だった。
「ああ。そうだな」
「明日入るコには最初からそうやって笑ってあげてね」
真直ぐ上に伸ばされた腕の先には、灰色に霞んだ空
が広がっていた。


End.



羽沙希入隊前日
という設定で。。


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