―03:扉


このドアを他の誰かが開けて入ってくるなんて、想像した
ことすら無かった。

「おはよ」
朝食のにおいで目が覚めることにも、自分の隣のシーツ
の上に他人の温もりが残っていることにも、最近やっと
慣れてきた。
「羽沙希君は偉いよねー。目覚まし時計無しでもちゃん
と起きれて」
テーブルの上に食器が置かれる音が聞こえる。
「寝起きもいいし、誰かさんとは大違いだ」
ぼんやりと起き上がった僕に、声が掛かる。
メガネを掛ける前のぼやけた視界で見ると、フリル付きの
白いエプロンを掛けて長い黒髪を1本に束ねている後ろ
姿は、ちょっと背が高すぎて肩幅がありすぎるのを大目に
見れば、女性とも見間違えそうだ。
「おはようございます。今日も来てたんですね」
くすくすと笑っていた明るい表情が引っ込んで、眉間に
軽くシワが寄る。
「迷惑だった?」
「いえ。いつも朝食を作っていただいてすみません」
微笑みが戻ってきた。
「今朝はねぇ――」
嬉々として献立の説明を始めた式部隊長の横顔を、
ぼんやりと見詰める。
「どうしたの?羽沙希君」
「いえ、なんでもありません。いただきます」
改めて投げ掛けられた微笑みに、笑みを返す。
「どうぞ。いっぱい食べてね」
向かい合ってもくもくと朝食を摂る。
会話は無いのに、式部隊長は嬉しそうだ。
「あの。。。」
なぁに?と云う顔で、首を傾げる。
「いつここに来るんですか?」
「羽沙希君が眠っちゃった後」
「何故僕が起きている間に来ないんですか?」
視線が下に逸らされて、また僕の顔に戻ってきた。
「“また?”とか“なんで?”とかって顔されるとツラい
から。。。かな。。。」
俯いた時にちらっと見えた困った顔は、上を向いた時
には優しい笑みに変わっていた。
それがどこか悲しげに見えるのは、僕の思い込みかも
しれない。
「しません。僕はそんな顔、絶対にしません」
今、目の前にあるこの微笑みが、式部隊長と出会っ
てから今まで見たどの笑顔よりも綺麗だ、と思った。
「じゃあ、また来てもいい?」
「今度は僕が起きている時間に来てください」
ころころと表情が変わる。今度のは悪戯っぽい笑み。
人形、という仇名は、この人には似合わない。
「ふふ。気が向いたら、いつか、ね」

この部屋のドアを開けてこの人が入ってくるのを見る
ことは、この先も無いんだろうな。。。


End.



羽沙希君の隣に
勝手に清寿が寝てる
っていうのは
オフィシャルですから。。
しかも気付かないうちに
来てるらしい?(笑
「開けゴマ!」で開くのは
羽沙希の心の方、
という話。。


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