―12夜の浜辺で


「そろそろ帰んぞ」
処刑の事後処理を終えて、処理班も
諜報課も撤収を始めていた。
「うん。。。」
砂浜の上に背中を丸めて蹲るように
座って、式部は顔も上げずに答えた。
「まだだめか?」
御子柴は、風に飛ばされてきた砂粒
を式部の髪から払い落としてやりなが
ら、労るような声で訊いた。
「。。。」
真っ暗な海から聴こえ続ける波の音が、
式部の声を掻き消していた。

「新生児、ですね」
それを見た瞬間、式部は眉を顰めて
口元を押さえた。
膝を付きそうになった式部の身体を
支えながらも、御子柴も吐きそうに
なっていた。
「自分の。。。か?」
「ええ、多分」
死刑囚が第一に追い詰められても
最後まで抱き締めたまま離さなかった
ものは、真っ白なタオルに何重にも包
まれた新生児の屍骸、だった。
「いつ産んだんだ?」
「生後1〜2日ってとこですかね」
処理斑の1人が事務的に答えた。
「昨日とかってことか。。。」
「そうですね。臍の緒も付いてますし、
自力で産んで処分したと思われます」
「処分。。。」
御子柴が唸るように呟いた。
「この子はさ!」
式部が突然、食ってかかるようにして
言葉を発した。
「死んでから産まれたの?産まれて
から殺されたの?」
その場に居た全員が、すぅ、と、息を
飲んだ。
「解剖してみないと詳しいことは分か
りませんが、出産後かと。。。」
「じゃあさ、海に返してあげようよ!」
タオルの中の小さな死体に手を伸ば
そうとした式部を、御子柴は後ろか
ら抱き締めるようにして引き止めた。
「なんで?!この子は何にも悪くな
いのにっ!もう一度、今度はちゃん
と産まれ直さなきゃいけないんだから、
海に返してあげなきゃ。。。っ!」
最初は強い力で抵抗していた式部
の身体が、御子柴の力には敵わな
いと分かると、ぐったりと脱力した。
「親の勝手で産まれてすぐに殺され
ちゃったなんて。。。そんなの可哀想
すぎる」
御子柴に引き摺られるようにして現場
から離されて、波打ち際に座らされて
からずっと、式部は膝を抱えて蹲って
いた。

「あの子は解剖されちゃうの?」
「最後の被害者、だからな」
横に腰を下ろした御子柴に、式部は
先刻とは全く違う、いつも通りの柔らか
い口調で話し出した。
「夜の海って胎内みたいじゃない?」
顔を上げて前を見詰めた瞳には、涙
は無かった。
「だからね、返してあげなきゃっ!って
思っちゃったんだ。。。どうにかしてたね」
寂しそうに微笑んでいる横顔に向かっ
て、御子柴は囁いた。
「後で散骨してやろうか」
式部は目を丸くして、目の前の暗い海
を見詰めている御子柴の、整った横顔
を凝視した。
「海に返しにきてやろう」
視線を前に戻した式部の顔に、ふわり、
と、嬉しそうな笑みが浮かんだ。
「うん。。。そうしてあげられるかな?」
「ああ。俺が交渉してみるよ」

これはまだ、御子柴が式部の過去を
知らなかった頃の話。。。


― 無題 ―



シチュエーションのお題の
最後の話は、
ちょっと暗くなっちゃいました(汗
清寿が第一に入隊して間もない頃、
「もうひとりじゃない」の後くらい。。
という設定で。
夜の浜辺。。だったんだから
もっと可愛い話にすれば
良かった!←大後悔中


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