―11夕暮れのブランコで


「分かってるわよ、そんなの」
俯き加減で蘭美が呟いた。
綺麗に巻かれたアッシュピンクの髪が、
ゆらりゆらりと前後に揺れている。
「でもね、あの日諜報課一斑の部屋
に行ったらね、柏原班長がものすごく
メンドクサそうな顔で、入口の横に置
いてあった紙袋を指差してこう云った
のよ」
両目を潤ませて、唇を軽く噛むように
して、子供っぽい口調で喋る蘭美は
ただの乙女で、優秀な特刑隊員には
とても見えない。
「“第一部隊宛てのチョコはそこの袋に
入れてって。外に名前書いてあるから
間違えないようにね”って」
ぷっ、と、笑ってしまった。
「慈乃〜、笑うなんてヒドい。。。」
「ごめんなさい!悪気は無いの」
あの柏原班長ならやりそうな事だ。
「でね、その紙袋の中覗いて見たら、
もういっぱいチョコ、入っててね。。。
どうしようって思ってたら“第一は今日
はずっと外で、こっちに帰ってくるのは
夕方以降だよ”って云われちゃって」
チョコの箱を持ってもたもたしていたで
あろう蘭美に向かって班長は、いつも
のあの揶揄うような軽い口調で云った
んだろう。
ひとつひとつが想像出来て、可笑しく
なってしまう程だ。
「それがなんか癪に障って。。。」
そうして蘭美はバレンタインにチョコを
渡し損ね、もう何日も経っているのに
ずっとうじうじしている。
「夕方もう一回行って、渡しちゃえば
良かったのに」
「それがね。。。待ってたんだけど帰っ
て来なかったの。。。」
きいっ、きいっ、と、蘭美を乗せたブラ
ンコが、揺れに合わせて音を立てる。
「そっか。。。」
「そうなの」
ぎいっ、ぎいっ。
私が乗った方は、揺らす度に錆び付
いたような音がする。
「ところで蘭美、今日その渡し損ねた
チョコ、持ってきた?」
「う、うん。でもこれ、どうするの?」
こちらを怪訝そうに見詰めている、
夕陽を浴びてうるうると光るアップル
グリーンの瞳に微笑み返す。
「賞味期限、まだあるんでしょ?」
「。。。大丈夫だけど。ねぇ慈乃、
どういうことなの?こんな所に呼び
出して。。。」
その時、公園の回りを囲む生垣の
向こう、蘭美の背後から、赤味がか
った茶色い頭が近付いてくるのが見
えた。
なんていいタイミングなんでしょう!
上手く誘導してくれた副隊長に感謝。
後でお礼と。。。お詫びも入れとかな
きゃ、かな。
「お、藍川!用事って何だ?」
その声を聞いて、蘭美のお尻が15cm
は飛び上がった。
「よ、慈乃?!これどういう。。。?」
「じゃ、頑張って。ちゃんと渡すのよ」
地面を蹴って大きく漕いだブランコか
ら飛ぶように降りて、言葉にならない
声を発して動揺しまくっている蘭美に
片目を瞑ってみせ、その後は振り返
ることなく公園を出た。


―WINTER SONG―



たまには可愛い話を(笑
<Seasonal Stories>の
バレンタインの話に
ちょっとだけLINKした
設定で。。


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