―13午後の屋上で


少し錆びた、金属製のドアが軋む音。
聞き慣れた歩調の足音がこつっ、と、式部の
頭の上で止まった。
「何してんだよ?」
午後の陽の光が背中の向こうから照り付けて
いて、真っ黒な影が上から覗き込む。
「俺じゃあるまいし、三上部長の呼び出しすっ
ぽかすなんて珍しいな、清寿」
御子柴の声が上から下にゆっくりと移動して、
先刻よりも低い場所に留まる。
「空を見てたんだ」
式部は顎を少し上げるようにして、逆光で全く
表情の全然見えない御子柴を見て答えた。
コンクリートの上に直に寝転んでいた式部の頭
の下で、ざりっと、砂利を踏んだ時の様な音が
した。
「あ〜あ、髪傷むぞ」
御子柴は胡坐を掻いて座りながら指を伸ばし
て、式部の艶のある髪を一筋絡め取った。
「そんなのどうでもいいよ」
思い掛けない返答に驚いたように息を止めた後、
御子柴は式部には気付かれないように笑みを
零した。
「どうでも良くないだろ。折角綺麗な髪なのに」
するすると髪をもてあそんでいる指からは微かに
硝煙の臭いがしていて、式部は何故か安心感
を覚えた。
「なんで僕がここに居るって分かったの?」
法務省の建物で、唯一屋上に出られる所。
狭いのと、防犯上の理由から、法務省職員で
もここの存在を知る者は少ない。
他人が来ないから安心して自分を解放出来る、
ここは式部とっておきの秘密の場所だった。
「お前の行きそうなとこぐらい、すぐ分かるさ」
さらっ、と云ってのけて、御子柴が笑った。
「僕は見付けて欲しくなかったのに。。。」
その笑みに見惚れつつも、式部はわざと強がっ
てみせる。
「あはは!そうか?」
本当は見付けて貰えたのが嬉しくて、つられて
笑ってしまいそうになるのを耐えながら、式部は
御子柴から目線を逸らした。
式部の視線を追って、御子柴も空を仰ぎ見る。
言葉も無く、ゆるゆると時が過ぎる。
肌を撫でる、微かな風。
微かに漂ってくる、桜(はな)の香り。
昼下がりの陽の、眠くなるような温もり。
髪の先に絡まされている指の、優しい感触。
どれもが式部には心地良かった。
「お前時々無茶苦茶するんだよな」
空を見上げたまま呆れたように云った御子柴の
言葉に、式部は身体を強張らせた。
「ものすごく穏やかで冷静に見えんのに。。。」
大きな手のひらが、ぽんぽんっ、と、式部の頭を
軽く叩いた。
「自分の感情が抑えられないなんて未熟すぎる
よね。特刑としては失格だ。。。」
御子柴に頭を撫でられながら、情け無さそうに
式部は目の周りを赤く染めた。
「次は俺が止めてやるから。今日はすぐに気付
いてやれなくてごめん」
責められるかと思っていたのに謝罪の言葉を貰
ってしまい、目を丸くして御子柴を見返した。
「僕が悪いのに、なんで笑太君が謝るの?」
何も云わずに式部を見下ろす眼差しは柔らか
くて、澄んだ色の瞳は御子柴の背景に広がる
青空と同じ色だった。

式部は静かに目を伏せて、大きく深呼吸をした。

「笑太君、これからもよろしくお願いします」
前に伸ばすように差し出した手を引っ張ってもら
い、ゆっくりと起き上がり、立ち上がる。
「とりあえず明日の任務の説明、聞きに行くか」
肩から背中に回された力強い腕に促されるように
して歩きながら、式部はもう一度深く息を吸い、
ゆっくりと吐き出してみた。


―LIFE is...―



羽沙希君入隊前。。
清寿入隊一年目くらいの話。
この屋上の設定は
同人誌『春-sakura-』の為に
勝手に作ったものを転用。
合わせてお読みいただけると
嬉しいんですが(^.^;ヾ


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