―Catch a Nasty Cold *笑太→清寿編*


合鍵を使って入った部屋の中は静かで、ひんやりしていた。

「ひゃっ!冷たい!」
布団の端からちょこんと覗いていたおでこにアイスクリーム
のカップの底を押し付けたら、小さな悲鳴を上げて清寿が
目を覚ました。
「ただいま」
驚いた表情(かお)が半分以上布団に潜り、申し訳無さそ
うな目で俺を見る。
「。。。おかえりなさい」
声はすっかり嗄れていて、聞き取りづらかった。
「アイス買ってきたんだけど、食える?」
布団から出ている頭の天辺を、ぐいっと撫でてやる。
「俺が出掛けてからずっと眠ってた?」
「う。。。ん。笑太君がここに居るってことはもう夜なの?」
熱を帯びた瞳が、今にも泣き出しそうに潤んで見える。
「朝から一度も起きなかったのか?」
「ううん。何度か目は覚めたんだけど、起きようとする度に
くらっときて、あ〜そうだ今日は風邪でお休みしたんだ〜
って思い出して。また横になるとすぐうとうとしちゃってた」
目も目の縁も赤くなっているのが気になって、指先で瞼の
縁をなぞってみる。
「泣いてた?」
「え?。。。なんで?目、赤い?」
布団を被ったまま起き上がった清寿が、ごしごしと目の上
を手の甲で擦る。
「バカ。もっと赤くなっちゃうだろ」
手首を掴んで顔から引き離すと、えへへ、と照れたように
笑った。
「笑太君、手、冷た〜い。手袋してたんでしょ?外、そん
なに寒いんだ」
ワイヤーを仕込んだカフスをしていない手首は、いつになく
温かかくて、どきっとした。
「お前が熱いんだよ。はい。これくらいなら食えるだろ?」
手の平を上に向かせて、そこにアイスを乗せる。
「ありがと。いただきます」
ゆっくりと味わうようにアイスを食べ始めた清寿の横に座っ
て缶ビールを飲みながら、髪の乱れを直してやる。
「ん?」
「ううん。なんでもないよ」
髪が整った後もずっと頭を撫で続けている俺のことを横目
で盗み見るようにして、うふふ、と清寿が笑う。
その嬉しそうな表情を見て、なんだかほっとする。
「美味しかった。ご馳走さま」
空になったカップを受け取って、ゴミ箱まで捨てに行く。
「もっと食えるんだったら何か作ろうか?」
清寿ほど美味しいものは作れないけれど、料理が出来な
い訳じゃない。たまに簡単なものを作ったりするから、キッチ
ンのどこに何がしまってあるかも知っている。
「ううん。要らない。もうお腹いっぱい」
清寿が首を左右に振ると、折角整えた髪がまた乱れた。
「もっと食べられそうなモノ、何か買ってくれば良かったな」
清寿の横に戻り、髪を撫でる。
「抱き心地悪くなるから、痩せるなよ」
「。。。ど〜せ僕は抱き心地悪いですよ〜だ。。。」
清寿が拗ねたように俯く。
誰と比べているワケでも無いのに。。。何を考えているのか
分かって可愛くなる。
「バーカ。そういう話してるんじゃないって」
唇を舐めるようにくちづけをしながら、ベッドに押し倒す。
「うん、甘い。バニラの味」
上から覆い被さるようにしている俺を見上げて、清寿は呆
れたような笑みを浮かべた。
「笑太君のべろ、苦かった。。。」
「アルコール消毒しといたから」
「ビールで??」
声を上げて楽しそうに笑った口元に、もう一度唇を重ねて、
深いくちづけを交わす。
最初は軽く抵抗していた腕から力が抜けて、ふわりと首に
回されてきた。
「風邪感染っちゃうからダメだって」
「だからアルコール消毒しといたって」
「だから〜。。。ビールじゃ無理だってば」
「1日心配してたんだから、このくらい許せよ」
すうっ、と、清寿が次に云おうとしていた言葉を飲み込ん
で見開かれた瞳が伏せられると、涙が瞼の隙間から溢れ
出してきたので、今度はこっちが驚く番だった。
「やっぱ泣いてたんだろ?」
「変な夢ばっかり見るから、僕も心配してた」
「お前は心配ばっかしすぎなんだよ」
ぎゅっ、と熱っぽい身体を強く抱き寄せると、清寿もしがみ
付くように抱きついてきた。
「ただいま、清寿。帰ってきたよ」
その背中を上から下まで、そして下から上までを、ゆっくり
と撫でる。
「笑太君、髪から硝煙と。。。血のニオイがする」
くんくんくん、と犬みたいに鼻を鳴らして俺の臭いを嗅いで、
耳の間近で清寿が囁く。
「シャワー浴びてきたんだけどな。まだ臭う?」
一日お風呂に入っていないのだろうに、清寿の髪からは
いい匂いしかしない。
「ううん。これ、笑太君のニオイ。ちゃんと任務を遂行して
きたぞっていう、特刑総隊長のニオイ」
俺の頬に頬摺りしながら、掠れた声で呟く。
「おかえりなさい、笑太君。お疲れさま」
呼吸(いき)からも甘い香りが漂う。
「明日はちゃんと出勤するから、今日の任務の話、聞か
せてもらってもいい?」
枕の上にふんわりと頭を乗せてやると、清寿は俺の首か
ら腕を外し、視線を合わせてきて微笑んだ。
「今日の一件目はな、羽沙希が頑張ってくれてさ。。。」
清寿の右、枕の横に、壁と窓に寄りかかるように座って
話し出す。
俺の左手を清寿の右手がしっかりと掴んでいて、絡めら
れた指が愛しい。
しばらく合いの手を入れて話を聞いていた清寿が黙り、
指先の力がほんの少しだけ弛んだ。
あれ?と思って覗き込んでも瞳が開かれることは無くて、
すぅ。。。すぅ。。。と、規則正しい寝息が聴こえてきた。

いつまでこうやっていられるのか?と思う。
こうやって、いつまで一緒にいられるのか?と、そう思う。

愛しさは切なさになり、ぎゅっと、指に力を籠める。
清寿の口元に微かに笑みが浮かんだような気がしたけれ
ど、起こしはしなかったようでほっとする。
家具の少ないがらんとした部屋でも徐々に暖まってきてい
て、ぼんやりと清寿の顔を眺めて寝息を聞いているうちに、
俺も眠ってしまったようだ。。。


―The end―






P.S.
異常な程の暖冬で、
関東では未だコートの要らない日々ですが、
“冬”も“雪”も好きなので冬の話を。。
<Affair of DOLLS>の方へは
風邪ひき笑太の話をUPしてあって、
これは清寿編です。

しかも実験的な作品で。。
シチュも台詞も全く同じで、
一人称が笑太の場合と清寿の場合を
書いてみました。
背景も、似ているようでちょっと違う(笑
*清寿→笑太編*もどうぞよろしく。


Back