―Pure Mischief―


「副隊長っ、手、出して」
云われるがままに並べて差し出された式部の手のひらの上
に、ちょこん、と、小さなカボチャが乗せられた。
「はい!これあげる♪」
目の前には藍川の上機嫌な顔。
佐伯と久宝が微笑んでいるのが、その肩越しに見えた。
「わぁ、これ、ハロウィンのだね!可愛い。。。」
「そ!可愛いでしょ〜!!」
本当に嬉しそうに、目を細めて藍川が云う。
「花屋さんの店先にずら〜っと並んでてね、あんまり可愛い
んで買っちゃったの。シールは私が貼ったから、"蘭美ちゃん
特製ジャック・オ・ランタン"、先着10名様限定品!」
手のひらに丁度ちょこんと乗る大きさのオレンジ色のカボチャ
には、黒いシールで三角の目や鼻、大きく開いた口が貼ら
れていて、小さいながらも立派にカボチャの提灯みたいに見
える。
「それは光栄だね。ホントに貰っていいの?」
語尾と一緒にカールした髪も揺らして笑う藍川を微笑まし
く見守りながら、式部も楽しそうに答える。
「いいの。でもそれ、副隊長にあげたんだからね」
式部の横であまり興味なさそうに眺めていた御子柴に向か
って、藍川はべーっ!と舌を出してみせた。
「あっちの興味無さそうな人になんかあげないもんっ」
ふっと御子柴の方に視線を遣ってから、式部は少し俯いて、
声を殺すようにしてくすくすと笑った。
それが気に食わなくて、御子柴はぷいっ、と、横を向く。
「ねぇ藍川隊長。これ、もう1個貰えない?」
「だ〜か〜ら〜!アイツの分はあげないって今云っ。。。」
「違う違う!笑太君の分じゃなくて、羽沙希君の分」
「あ。。。そうね」
怒ろうとした表情を引っ込めて、藍川の視線が上を泳いだ。
「実は羽沙希君の誕生日ってハロウィンのすぐ前で。。。
あの調子だからきっと予定も無いだろうし、なんかびっくりさ
せたいな、とは思ってるんだけど、全然思いつかなくて。。。
多分ハロウィンにも興味ないと思うから、気分だけでも盛り
上げといてあげようかな、って思ってさ」
真剣に困った顔で云う式部を見て、藍川は思わず吹き出
して笑ってしまった。
「そんなことなら。。。いいわよ」
もう1つ、ぽんっと手のひらで受け取って、式部が微笑む。
「ありがとうっ」
「。。。ところで藤堂君、どうしたの?」
背の高い2人の向こうに隠れて藤堂が見えない、という訳
ではなく、どうやらここには今居ないようだった。
「なんか用事があるとかで、保井さんとこに行ってる」
御子柴の身体をさも邪魔そうに手で押しのけるようにして
向こうを覗き込む藍川の仕草に失笑しながら、式部が答
える。
「ふ〜ん。そう。じゃ、よろしくって云っておいてね」
ひらひらと頭の上で手を振りながら藍川が去り、その後ろ
で軽く会釈をしてから佐伯と久宝が去って行った。

「ね、笑太君。手、出して」
条件反射で出してしまった手のひらの上に、先刻のカボチャ
が1つちょこん、と、乗った。
「。。。あのさ、これ、何?」
「ジャック・オ・ランタン。ハロウィンの飾りだよ。先刻の藍川
隊長と僕の話、一応は聞いてたんでしょ?」
「いや。。。だからさ、そ〜じゃなくて」
満面の笑みを浮かべて答えた式部を見ながら、御子柴は
がりがりと爪を立てて頭を掻いた。
「じゃあ笑太君、ハロウィンっていつだか知ってるの?」
「う。。。それは。。。」
にっこりと、式部が微笑む。
「蓮井警視ってそういうの、好きそうじゃない?」
確かにアイツは記念日とかイベントとかそういうの好きだからな、
でも忙しくて大概遅れちゃうんだけど。。。等と、口の中でもご
もごと云っている御子柴を見て、もう一度ゆっくりと式部は微笑
んだ。
「笑太君最近僕んちに来てるの多くなったから。。。だからね、
これ、僕からのお詫びの気持ち。部屋に飾ってあげて」
「でも、お前のは?」
見様によっては悲しそうにも見える微笑みを浮かべたままで、
首を軽く左右に振って式部が答える。
「いいよ。僕んち何も無さ過ぎて、こういう可愛いの似合わな
いもの」
くれる、と云い出したら、受け取るまで引かないのだろう。
そんな式部の性格は充分に承知している。
御子柴は、はぁぁ。。。と小さく溜め息をつきながら、手のひら
の上の小さなカボチャをロッカーにしまった。

「あっれ〜?これ、ここにもあんの?」
次の任務の説明を聞きに来いと呼び出されて、第一部隊3人
で揃って部長室に出向き、そこのドアを開けた途端、御子柴
が素っ頓狂な声を上げた。
「あ、ホントだ。"藍川隊長特製ジャック・オ・ランタン"。。。」
三上は指先でそれを軽く弾きながら、唇の端をほんのちょっと
だけ持ち上げた。
「朝、任務の説明で呼び出した時に置いていったようだ。気が
付いたらそこにあった」
御子柴と式部が顔を見合わせて、くすっと笑う。
任務の説明が終わると三上はいつも、早く現場に行けとばかり
にPCに視線を落とす。
その隙をついてこっそりデスクの端にカボチャを置く藍川の様子
が目に浮かんで、思わず笑ってしまったのだ。
しかも部屋を出た途端にぺろんっと舌を出しているその表情ま
でもが容易に想像出来て、余計に可笑しい。
「そんなことより次の任務はこれだ。五十嵐君」
御子柴と式部がにやにやと笑っているのなんて全く気にせずに、
三上は五十嵐に任務の説明を始めさせた。

「おい、清寿。手、出してみ」
なぁに?という表情で御子柴を見上げながら差し出した式部の
手のひらに、ちょこん、と、例の小さなカボチャが乗った。
「え。。。ええ〜っ?これ、どうしたの!?」
紫の瞳をまんまるにした式部の顔を照れ臭そうに見ながら、鼻の
横をぽりぽり掻きながら、御子柴は最初、言葉を濁した。
「ああ。まぁな。それはお前にやる」
「やる、じゃないよ!これどっから持ってきたの?もしかして。。。」
多分その勘は当たっている。
式部がこういう時鋭いということも、御子柴はもう充分に承知の
上である。だから下手な言い訳はしない方がいい、と判断して、
正直に答えてみた。
「三上さんとこから、パクってきた」
あ〜もぅ〜!と云うような表情で、式部はこれ以上は無理だと
思われるくらいに大きな溜め息をついた。
「あのねぇ笑太君。。。どこでそんな言葉覚えてくるの?」
「清寿お前さぁ。。。怒るのそこじゃないだろっ?!」
2人のやりとりを聞いて、すぐ近くに居た柏原が盛大に吹き出す。
「怒ってはいないよ、呆れてるだけ。笑太君いっつもそうだもの」
式部の目が悩ましげに御子柴を見詰める。
「こんなんで怒ってたら、笑太君となんて付き合えないよ」
そして視線を外して中空を見上げ、はぁ、と、もう一度溜め息
をついた。
それを横目で見ながら、ちょっぴり意地悪な顔で御子柴が云う。
「ど〜せ三上さんなんてこんなの興味無いんだし。。。お前んち
に持ってって貰えるんならきっと文句も云わないだろうしさ」
「それ。。。どういう意味?」
式部が嫌そうに眉を顰めて、上目遣いで見上げる。
「さてね。。。どうでもいいだろ?そんなの」
薄っぺらい笑みで誤魔化した御子柴を、軽く睨む。
「とにかく、それ、やるよ」
御子柴は強張ってしまった式部の頬に、ちゅっ、と、触れたか触
れないか微妙な感じのキスをして、式部の手に外から自分の手
を添えて、手の上のカボチャをそっと握らせた。
「ハロウィンは悪戯OKなんだろ?」
「。。。なんかきっと間違えて覚えてるよ?笑太君ってば」
「は〜い。そこまで!」
いつもの如く、柏原が間に割って入る。
「現場着いたよ。まずはお仕事して。ねっ!」
「了解っ!」
御子柴と藤堂が歯切れ良く返して、諜報課第一斑のバンの後
部ドアから降りていく。
「了解。。。」
式部が吐息混じりに返し、その後を追おうとしてふと立ち止まる。
「柏原班長、悪いけどこのコ、看ててくれる?」
「りょ〜かい!。。。でもホント、副隊長って苦労してるよな」
PCの横にちょこんと置いていかれたジャック・オ・ランタンが、ひっそ
り笑って3人の後姿を見守っていた。


―The end―






P.S.
。。こうして式部の部屋にも
ジャック・オ・ランタンが来たんですよ、
という話。。
“Trick with Treat”という
Halloween話第一弾の伏線というか。。
そんな感じの話です(^-^;;
悪戯=mischiefから
思い出したんですが。。
数年前の冬、某化粧品ブランドが
期間限定で発売した香水の名前が
“Pure Mischief”で、
熟れた杏の香りがして、
名前通りとってもpureな印象のする
でも茶目っ気もある素敵な香りでした。
使い切ってしまった時、
本当に本当に悲しかった。。
で、タイトルに使ってみました。。とさ(笑


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