「あんま、くっ付くなよ」
「なんで?急に寒くなってきたんだもん。。。だめ?」
「ダメ。も少し離れて」
「え〜。。。」
「今したい事あるからさ、お前も他の事してろよ。先に寝て
てもいいから」
「それ、仕事関係?」
「まぁな。でもお前には関係ない事だよ。だからちょっと向こ
う行ってて」
「う。。。うん。。。」


―Naples Yellow―


ここ数日、清寿が業務連絡以外では全く口をきいてくれ
ない。
あまりに露骨に俺だけを無視するので、とうとう羽沙希に
まで「式部隊長とまたケンカしたんですか?」と、訊かれる
始末だ。
またって何だよ?また、って。でも、また、なんだよな。。。
いつもくだらない事ばっかでケンカしてる気がする。
こういう時に限って任務がさくさく終了して、時間が余って
しまった。待機室に一緒に居ても空気が重い。
羽沙希は、気は遣ってはくれるが積極的に話題を振って
くるキャラじゃないから、余計に居づらい。
こんな時には、地下に逃避。
部屋から1歩出てドアを閉めようとした瞬間に、清寿が
大きな溜め息をついたのが聞こえたような気がした。

「。。。で?何があったんだよ?」
保井さんに愚痴ったら、そう質問を返されてしまった。
「それが分かんないんじゃどうしようもないだろ?」
そうなんだけど。。。
確かにそれが問題なんだけど、実はそれが分からない。
返事もせずにデザートイーグルをブッ放し続ける俺を見て、
保井さんは全身で溜め息をついた。
なんか俺、みんなに溜め息ばかりつかれてる?
軽い自己嫌悪。
「そんなんで相談しにくるなよ。こっちも困るだろう」
呆れ返った表情(かお)と口調で云われても。。。
養成所時代からの長い付き合いで何でも相談出来る、
そんな人は他にはあまり居ないから、つい甘えてしまう。
「お前が原因なんだろ?」
斜め上を見上げ首を傾げて、返事の代わりにする。
「また言葉が足りなかったんじゃないのか?言葉にしなきゃ
分からないことってのは多いぞ」
それは分かってる。けど。
黙っていたら、もう一回聞こえよがしに大きな溜め息をつ
かれた。
「いつものことだろ?まだ分からないのかよ」
「何が気に食わなかったんだろう。。。?」
「さぁてな。自分で考えろ」
それ、養成所の卒業試験よりも特刑の採用試験よりも
難しいんだけど。。。
「とりあえず帰れや。もう上がりの時間だぞ。式部、待って
るんじゃないか?」
「。。。待ってなんかないだろ」
「バーカ!そろそろ待ってるって。賭けてもいいぞ」
上を向いて大声で笑った顔を、上目遣いで睨み返す。
「そんな可愛い顔するなよ」
「。。っ!バカにすんなっ」
「してねぇって。そんな顔、式部の前でしてやれば?」
一発で許してもらえるぞ!と、ヤケに嬉しそうな、満面の
笑みを浮かべているのにムカついて、もう一度保井さんを
睨みつけて射撃訓練場を後にした。

「あ、おかえりなさい。お先に失礼します」
更衣室に戻ると、既に着替え終わっていた羽沙希が俺と
入れ替わりに出て行った。
中に居たのは清寿一人で、ちらりとこちらを見ただけで、
ゆっくりと着替えを続けている。
つん、と澄ましていて、話し掛けづらい雰囲気だ。
「あのさ」
並んで着替えながら、もう終わって帰りそうになった清寿に
声を掛けてみた。
「なに?」
ぱしっと弾くような返答。冷ややかな視線。
そんな目にも、ぞくぞくくる。
「待ってろよ。一緒に帰ろう」
その目が伏せられて、ふるっと一回頭が振られた。
さらさらと髪が舞い上がり、肩や背中に流れ落ちる。
「どこまで?。。。途中まで?うちまで?」
感情の無い、事務的な口調。
「お前のうちまで」
着替え終わって、自分を抱くように腕を身体の前で組んで
立っていた清寿の手首を掴む。
「え?なに。。。っ!?」
その手首を引っ張って更衣室を出て、すれ違う誰もに驚い
たような表情で見返されても構わずに、ずんずんと法務省
の廊下を歩き、外に出る。
いつもの通勤路から外れて違う道に入った所で、背後から
不安そうな声が掛かる。
「ねぇ笑太君、どこ行くの?!」
握っていた手を緩めたら、清寿が腕を引っ込めようとしたの
で反射的に指を絡め取って、手を繋ぐ。
「月が綺麗だからさ。遠回りして帰ろうと思って」
はっ、としたように、清寿の目が空を見上げる。
「綺麗な三日月だろ?気付いてなかった?」
「。。。うん」
「いつもはお前の方が先に気が付くのに。珍しいな」
頬が、ぽっ、と、赤く染まった。
「恥ずかしくて笑太君の手ばっかり見てて、上なんて
見てなかったから。。。」
「まだ紅葉には早いけど夜の散歩、なんてどう?」
微笑みが返ってきた。
「了解」
前を向いて、並んで歩く。
視線を合わせはしないけれど、繋いだ指に力を籠めると淡い
笑みが横顔に漂ったような気がした。
「ご機嫌、直った?」
伺うように尋ねると、清寿はまた、つん、と澄ました顔を作った。
「直ってないよ。何が原因か分かってないんでしょ?」
それとももう分かってるの?と呟いて、俺を見上げた。
「いや。。。でも。。。俺、謝るべき?」
困り切っている俺の顔を見て、清寿が吹き出した。
「その表情(かお)!可愛ぃ〜」
纏っていた雰囲気が和らいで、手のひらがふわりと温かくなった
ように感じた。
「仕方ないなぁ。。。」
手を振り払われて、清寿の身体が数歩分前に出た。
「い〜い、笑太君」
出来の悪い子供に話し掛ける母親みたいな口調で人差し指
を俺の目の前に立てて云う。
「僕はね、笑太君と居られる時はず〜っとひとつになっていたい
って。。。そのくらい近くに居たいって思ってるんだよ。一緒に居
られる時間って短いから、ほんのちょっとでも貴重なんだって」
その顔が真っ赤に染まっていて、可愛いな、と思った。
「分かってる?」と、訊かれて、うんうん、と頷いてみせる。
「ホントに分かってるの。。?」
分かってるって。
「じゃあなんで僕が機嫌悪かったか、分かった?」
う。。。それは。。。
「じゃ、それは宿題!」
瞳が細められ、泣き出しそうにも見える笑みが浮かぶ。
「今日はその表情(かお)に免じて許してあげるけど。。。たまに
でいいから僕の気持ちも考えて」
ただ傍に居させてくれさえすればそれでいいんだから。。。
語尾が寂しそうに揺れて、夜空に溶けて消えてゆく。
返す言葉も無く黙っていたら、今度は清寿から手を繋いできて、
軽く腕を引っ張られた。
「帰ろ。寒くなってきた」
掠っただけみたいなキスをされて、俺の顔も赤くなる。
それを見て清寿がまた、ぷっ、と吹き出した。
「そんな顔も可愛いよ」
楽しそうに笑う唇に、今度は俺からキスを返してみた。


―The end―






P.S.
Naples yellow(ネイプルス・イエロー)は
和名では“くちなし色”。
つまりは“栗きんとんの色”のことで、
とっても可愛いらしい黄色です。
秋っぽい色だなぁ。。と思ったんで、
今回は三日月の色、のつもりで
タイトルに使ってみました。
話もね、秋だから
ちょっと甘ったるい感じに。。(苦


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