―an Unexpected Day Sep.21―


このヒトの、上司を上司と思っていないような態度はいつもの
事だけど、今日のはちょっとヒドすぎる。。。と、思った。
「ええ〜っ!マジぃ〜!?俺らが若いからってこき使いすぎじゃ
ねぇ?なぁ、三上サン」
聞き苦しい、とさえ思う。
先刻から数分、ずっとこんな感じで文句を云い続けている。
やるならやる、やらないならやらない、で。
もういい加減にどっちかに決めて欲しい。
「もう止めてください。御子柴隊長」
自分でも驚くぐらい冷たい声が出て、彼が青い目を大きく見開
いて僕の方を振り返った時には、大袈裟じゃなく心臓が止まっ
てしまうんじゃないか、と思ったくらいだ。
「でもさ、今日4件目だぜ。フツ〜2件が限度だっつ〜のにさ」
三上部長の隣で、諜報課の五十嵐課長が渋い顔をしながら、
分かってるというように、数回深く頷いてみせた。
「だがな、この事件は第一にどうしても頼みたいんだ」
口を開いたのは五十嵐課長で、三上部長は口の前に両手を
組んだまま、何も云わずにじっと僕達を見詰めている。
これはこの人の癖で、元々無表情なのに、このせいで余計に
表情を読みづらくしている。
「それ、急ぐの?」
「第15部隊が失敗して、急遽フォローしなきゃいけなくなったん
だよ」
五十嵐課長の言葉に御子柴隊長は、けっ!と短く罵るような
声を発する。
「けどさぁ俺らにも限界があるんだって。命賭けることになっちゃう
しさ。それじゃなくてもヤバいのばっかり当てがわれてるんだし」
御子柴隊長が食い下がる。
「たまには予定ってもんもあんだよ」
ああ。だからか。約束か何か、きっとあるんだ。
そう云えば朝から少し落ち着きがなかったっけ。
「今夜何か予定が入ってるのか?」
三上部長がそう尋ねると、御子柴隊長は言葉を詰まらせた。
「うっ。ま、まぁな」
こんなに動揺している姿を見るのは初めてだ。
「怪しいなぁ。ホントは予定なんか入ってないんじゃないか?」
五十嵐課長が探るような目線で御子柴隊長を見た。
隊長はその視線を無視して、三上部長と話し続けている。
その、舐めるような視線がイヤらしい、と、感じた。
そう思った途端、それが伝わってしまったように目が合って、その
視線が今度は僕に向けられた。
視線で犯されているような気分になって、目を伏せる。
総隊長はこの人のことが嫌いなようだが、それが何故か分かった
ような気がした。
「だからさぁ、今日だけはごめんなさいっ!ど〜しても今夜はだめ
なんだって。だからさっ、お願い!三上サンっ」
部長の目の前で土下座しそうな勢いでお願いしていた御子柴
隊長が課長の視線に気付いて、その肩を張り飛ばす。
「何してんだよっ!うちの新人にやらしいことすんなっ!」
はははっ!と声を上げて五十嵐課長は苦笑いを浮かべて。。。

「式部が呆れてるぞ。お前少しは上司としての自覚持てよ」

そう云いながら、僕の顔を盗み見るみたいにちらっと見た。
「だけどさぁ。。。」
御子柴隊長も、僕の顔をちらちらと見ている。
「あの。。。僕1人でやる、じゃダメですか?」
目の前の3人が全員、目を剥いた。
「バッ!バカ!新人だけにさせられるワケないだろっ!」
それはそうだ。自分でも無謀だと思うもの。
三上部長は意味ありげに穏やかな笑みを浮かべているし、
五十嵐部長は心底呆れたって顔をしている。
「そ。。。それにっ」
それに?
どうしたんだろう?御子柴隊長、顔が真っ赤だ。。。
「今日はお前も予定あんだろう?」
。。。え?予定。。。?あったっけ??
頭の中をスケジュール表がぐるぐる回る。
「とにかくっ!体力も気力も限界だから無理。定時過ぎたしタイム
アップ!明日頑張るからさ」
御子柴隊長が両手を顔の前で合わせ、拝むように2人に頭を下
げてみせる。
「夜中に呼び出しても文句を云わないのなら」
三上部長が重い口を開いた。
「それなら一旦帰ってもいいぞ」
はあぁ。。。と、聞こえよがしの大きな溜め息をついて、御子柴隊
長が渋々頷いた。
「分かった。。。とりあえず用事は2時間くらいで済むから」
ぽんっ!と勢い良く肩に手が置かれ、
「行くぞ、清寿」
と、促されて部長室を退室する。
振り返りもしない御子柴隊長の代わりに、ドアの所で僕がお辞儀
をした。

「ご予定があるんですか?」
数歩前を歩いてゆく御子柴隊長に声を掛ける。
大股でずんずん歩いて行ってしまうので、早足で追い掛けても追
いつかない。遅れないようにするので精一杯だ。
御子柴隊長が少し歩を緩め、後ろを振り返った。
また真っ青な目に捉えられて、心臓が止まりそうになる。
「まさかホントに忘れてんの?」
。。。?僕、もしかして大事なこと忘れてる??
御子柴隊長と何か約束なんてしてたっけ。。。?
呆れたように、くすっと笑われた。
綺麗な顔に、優しい笑顔。一瞬、見惚れてしまった。

「清寿、お前今日誕生日だろ?おめでとう」

ああ、そうだった。。。そんなのきれいさっぱり忘れてた。
でも、御子柴隊長と約束なんかした覚えは無い。
誕生日だって、教えた覚え、無いもの。。。
「。。。?」
呆気に取られている僕の顔を、悪戯が成功した時のガキ大将みた
いな顔で御子柴隊長が覗きこんだ。
「だからさ、これから誘うんだって。驚かせようと思って黙ってたんだよ」
「なんで。。。誕生日。。。って?」
「そんなの。一応俺、こう見えても総隊長だから。隊員達の基本的
なパーソナルデータくらいならすぐ分かるんだよ」
楽しそうに目が細められた。
「サプライズ成功?」
「あ。。。ありがとうございます」
降参。本気で驚いてしまったから。
「レストランも予約してあんだよ。時間ぎりぎりだから急ぐぞ」
え。。。?ええ〜っ?!
不意に手首を掴まれた。
御子柴隊長は最初に手首に触れた時だけ、カフスの下に巻きつけ
られたワイヤーの感触に戸惑った表情をして見せたけど、次の瞬間
にはそんなこと気にしないかのように握り直して、僕を引き摺るよう
にして更衣室まで連れて行った。
「み、御子柴隊長、レストランって?予約って??」
「お前の誕生日祝い。イタリアンだけど、そういうの好きだろ?美味
しいし雰囲気もいいって。柏原が調べてくれた店だから確実だ」
まだ混乱してる。
自分の誕生日を祝ってもらうなんて、何年ぶりだろう?
パパとママが殺されてから。。。特刑の養成所に入ってから。。。
そんなことしてもらったこと、無い。
嬉しいという感覚がない。現実感が無くて、ふわふわしてる。
信じられない思いで、急かされるままに着替えを済ませた。
「祝二十歳!でアルコールも解禁だったのにさ。呑めねぇな」
「御子柴隊長。。。」
つっ!と目の前に人差し指が1本、突き出されてきて、息を飲む。
「外に出たらその"御子柴隊長"っての、止めろよ」
真剣に、嫌そうな顔で云う。
「ホントはさ、普段だってそう呼ばれんのイヤなのに。性に合わな
いんだよ。仲間に隊長だの総隊長だのって呼ばれんの」
じゃあ。。。なんて呼べばいいんだろう?
「お前の好きなように呼んでくれ。苗字でも名前でも」
また手首を掴まれて引っ張られるように法務省の外まで連れてい
かれて、タクシーに押し込まれた。

「でもな、苗字より名前がいいかな?」
「。。。笑太。。。さん?」
「なんか余所余所しくね?う〜ん。呼び捨てでもいいんだけど」
それ、無理っ。
そう思ったのが表情に出たらしい。
「笑太。。。くん?」
「あ、それいいな。これからどこでもそれでいいや」
「でも、上司を名前でなんて。。。」
にやり。
唇を歪めるように笑うと、口元のホクロも持ち上がった。
「俺がいいって云ってんだからいいんだよ。お前だから許すんだ。
総隊長命令だぞ?きけないってことはないよな?」
そう云い終えてから、眩しいくらいの満面の笑みを寄越す。
滅茶苦茶な人なんだけど、抗う気になれない。
どこか惹かれる。。。強いけれど、脆そうな所とかに。

目的のレストランの前に着いたようで、タクシーから降りる。
一軒家のお店みたいで、庭の向こうにエントランスが見える。

「たった2人の第一なんだから、もっと近付いてきてくれよ」
並んで歩いていたら、耳元でそっと囁かれた。
息がかかる程唇が耳朶に近くにあって、背筋がぞくっと、した。
「御子し。。。」
鼻先についっ!と人差し指が突き出され、驚いて立ち止まる。
「違うだろ?はいっ、練習!」
「う。。。っ、しょ。。。笑太君」
良く出来ました!というように僕の頭をぐしゃっ、と1回撫でて、
御子柴隊長、もとい、笑太君、は、すたすたと前を歩いて行く。
「清寿、早く来いよ。呼び出される前に腹ごしらえくらいは終わ
らせとかなきゃ」
その後姿を、追いかける。

敵が多そうなこのヒトの、この無防備な背中を守っていかなきゃ
いけないって最初に思ったのは、この時だったかもしれない。。。


―The end―






P.S.
Happy Birthday to 式部清寿♪

以前から気になってた、
“御子柴隊長”が“笑太君”に変わった瞬間を
勝手に書いてしまいました(汗
原作者さん、書いてくれるかな?
楽しみにしすぎてフライング?って感じ?
大きな目で見てくださいませm(_ _)m
清寿が特刑に入隊して初めてのお誕生日
という設定なんで、
笑太も清寿も少し初々しくしてみました(笑


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