―Come to Light― The right side


「これ。。。僕に?」
不思議そうに小首を傾げて見返す式部に、柚原は柔らかく
微笑んでみせた。
「はい。この前ランチをご馳走になったお礼だそうです」
この人は一見穏やかだけど何か裏がありそうで苦手だ。。。
式部はそう思いながら、上目遣いで柚原の顔を見返した。
柚原の後ろにはいつものようにデスクに両肘をついて口元で手
を組んでいる三上が居て、何の興味も無さそうな、しかしそう
思って見れば軽く微笑んでいるような表情(かお)で2人のやり
とりを見守っていた。
「お礼だなんて。。。別にそんな。。。」
式部はもごもごと口籠もった。
突然の呼び出しに慌てて白制服に着替えて、ノックもそこそこ
に部長室に入って行った式部を待っていたのは、法務大臣室
長の柚原であった。
2人は式部を見ると会話を中断し、ふわりと微笑んだ。
そして柚原が式部に手渡したのは、鬼灯(ほおずき)の一鉢と、
ずしりと重みのある包みが一つ。
「こちらは先日、大臣が海外視察に行った際のお土産です。
料理上手の副隊長にはこれがいい!と、ご自分で選ばれた
んですよ」
最初に紙包みの方を指しながら説明した後、柚原は視線を
鉢植えの方へ移した。
「こちらの鬼灯は頂き物ですが、大臣室に置くよりはちゃんと
世話して貰えそうな所へ、と、云うことで」
「で?僕のところへ?」
式部に向けられた柚原の笑みが、肯定の返答の代わりになっ
ていた。
「ええ。大臣のご指名です。大臣室の"あの"惨状をご存知で
しょう?あそこに置いておくのは忍びなくて、どこかに差し上げ
ましょうと進言したのはわたくしですが」
確かに甘いモノ切れ発作中の大臣の傍若無人ぶりは相当
なもので、あの広くて立派な大臣室を、強盗に荒らされた後
の現場よりも悲惨な状況にしてしまう。
「受け取っていただけますか?」
そう云われれば受け取るしかないじゃないか。。。
式部は戸惑いながらも頷いてみせた。
「では、大臣からの伝言です」
柚原は滑るような動作で式部に近付き、口元を手で覆って、
その耳元で何事かを囁いた。
予想すらしていなかった柚原のスキの無い動きに対処が遅れ、
式部は身体を硬くしたままその言葉を聞く羽目になった。
そして柚原が云い終えて、耳から顔が離れると同時に、眉根
を寄せて実に嫌そうな表情(かお)をした。
紫色の瞳が、疑わしそうに歪む。
「。。。そういうのって誰が調べるんですか?大臣が自分で?」
否定しないところを見ると、その通りなのだろう。
式部の方に顔を向けながら数歩後ろに下がって三上のデスク
の前に戻った柚原は、実に綺麗な微笑みを浮かべてみせた。
その顔を見て、今の自分の反応もきっとそのまま大臣に報告
されるんだろうな。。。と気付き、式部は唇を噛んだ。
癪に障るが、顔に出てしまったものは引っ込めようが無い。
これでは大臣の思うツボだ。
長い前髪越しにニヤリ、と笑う様さえ見えるような気がした。
だけど、器が一枚も二枚も上で到底敵わない。
式部がこの鉢植えを受け取らざるを得ないのを分かっていて、
こんな伝言を柚原に預けるくらいだから。。。
「今から返す。。。ってのはダメですよね?」
「受け取っていただけないと?」
「。。。いいえ。ありがとうございます、と、お伝えください」
式部の浮かべた笑みは強張っていて、口調も硬かった。
そんな式部を見てまた微笑んでから、柚原は三上の方を振り
返って場所を借りた礼を云うと、式部に向かって軽く頭を下げ
て部長室を出ていった。
「なんかこれ。。。うちに持って帰りたくない」
柚原が去ってしばらくしてから発せられた式部の沈んだような
声に、三上は意外そうな顔をした。
「大臣は何だって?」
「云いたくない」
鬼灯を見詰めるように俯いて、前髪で顔を隠したまま式部が
ぼそっと即答した。
そして数分の沈黙の後、式部は何か思い付いたようにぱっと顔
を上げた。
「ね、三上さん。これしばらく預かって」
「。。。」
「近いうちに取りに来るから。お願い!」
三上の返事を待たずに、式部はソファセットのテーブルの上に
鉢植えをぽんっ、と置き、身を翻した。
ブルーブラックの髪が広がって遠去かってゆく鮮やかな軌跡を
呆気に取られてみているうちに、三上の前から式部は消えた。
「??どうしたんだ?副隊長?」
式部と入れ違いに部長室にきた五十嵐が、部屋に入ってくる
なり非難がましい声を上げた。
「なんか不機嫌そうだったけど。。。何したんだ?三上さん?」
「とんだ濡れ衣だな。私のせいじゃないぞ」
三上は苦笑して、顎でテーブルの上の指し示した。
「何?鬼灯??これが式部の不機嫌の素?」
「そう。事情は良く分からないが」
説明したくても説明のしようが無くて、三上は興味津々の
五十嵐の顔から視線を逸らし、彼から手渡されたばかりの
書類の端をとんとん、と無言で揃えた。
ふぅ。。。と諦めたような太い息を吐いて、五十嵐は仕事の
話をし始めるしかなかった。


引き取りには来ないな、という三上の確信にも近い予想に
反して、数日後、式部は鬼灯を取りに来た。
「確かめたいことがあって。。。」
後ろ手に部長室のドアのロックを掛けながらそう切り出した
式部の整った顔を、もうほとんど終わりかけの夕焼けが染め
ていた。
この時間にふたりきりで会うのは久しぶりだった。
なんとなくぎこちない空気が漂う。
それを破るように差し伸べた手に、おずおずと手袋をはめた
ままの細い指が触れてきた。
何かを決意したような表情が気になったが、三上は静かに
式部を抱き寄せた。


                ―To be continued―







P.S.
この話、続きます。。

なんとなく以前ちょっとだけ
<Affair of DOLLS>sideで書いていた
三上×式部の通称“不倫シリーズ”(笑)の
続きみたいになっちゃったので。。
この話の続きも18禁になります(汗
こちらは“表=right side”で、
後編は“裏=inside story”。。
主役はあくまで鬼灯なんですけどね(^-^;;

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