―Gaze at You―


「羽沙希君っ!それ、ど〜したの?!」
式部隊長が向こうで驚いたような声を上げた。
"ような"じゃなくて驚いているんだろうけれど、視界が遮ら
れていて見えない。
「。。。さっき、渡されました」
答えた拍子に両手に抱えたものを取り落としそうになり、
持ち直す。
「誰に?」
のんびりとした御子柴隊長の声。
「分かりません。知らない人に渡されました」
「知らない人?」
式部隊長の手が、僕の抱えているものに伸ばされてきた
のが見えた。
「はい。制服を着てたんで特刑隊員だとは思うんですが」
「う〜ん。。。とりあえずそれ、どこかに置こうか?」
式部隊長の提案に、御子柴隊長がつっこみを入れる。
「。。。どこに?無理だろ」
はぁぁ。。。と2人の大きな溜息が聞こえた。
「どうしようか。。。」
今、僕の腕の中にあり、上司2人が持て余しているのは
ひまわりの束、だった。
1輪1輪は大きくない。
花の直径が10cmくらいだから、むしろ小振りな方だ。
でも問題は大きさではなく量で、両腕でやっと抱えられる
ほどの沢山のひまわりで、一体何本あるの?と数え出し
た式部隊長が途中で諦めてしまったくらいの本数だ。
ただ茎の途中で切ってあるだけで葉も付いたままなので、
花束とは云い難い、ただの"束"だ。

さっき、処刑が終わって帰ってきて、先に更衣室に向かっ
た2人から少し遅れて廊下を歩いていたら、曲がり角で
出会い頭に突然押し付けられるように渡された。
「。。。にっ、渡してくださいっ!」
花や茎、葉に邪魔されて、相手の顔は全く見えなかった。
手渡された時のガサガサした葉擦れの音で、何を云われ
たのか、半分聞き取れなかった。
見えたのは足元だけ。
男性用の白制服の紺色のプリーツが揺れてくるり、と向き
を変え、走り去っていく足音が聞こえて。。。
呆然としたままの僕とひまわりだけが取り残された。

「誰だろう。。。?隊員は全部で140人くらいいるからね。
内部で会ったなら本物の隊員だと思うけど。羽沙希君が
知ってる人なんて数えるくらいだし。。。」
右手の人差し指を曲げて、口元に軽く当てて考え込ん
でいる式部隊長の様子が見えるような気がした。
興味も無かったから、同期卒で入隊した人の顔さえろくに
覚えていない。
だから僕が知っていると云えるのは、この2人と第二・三
部隊の6人くらいだ。
「"渡してください"だから、お前か俺のファンってことか?」
御子柴隊長が、多分、腰に手を当てて首を傾げながら
云った、と思う。
「ファン?なんているの?」
疑わしそうに式部隊長が聞き返す。
居ると思う。。。と、僕が云うのもオカシイと思ったので黙っ
ている。
「いるんじゃねぇか?俺ら結構有名人だからな」
笑い出しそうな声で御子柴隊長が答える。
僕が入隊した時に三上部長も云っていたけれど、特刑の
ツートップを知らない隊員なんて居る訳が無い。
僕を知らない隊員は居るだろうけど。。。
「羽沙希君も特刑内じゃ有名人だからね〜」
え?
「そ〜だな。養成所を主席で卒業後すぐに第一に配属だ
からな。知らないヤツは居ないな」
。。。知らなかった。。。
「誰なんだろう。。。?それに、どっちに渡したかったんだろ
うね?」
「それよりさ、このひまわりをどうにかしてやらないと。。。
羽沙希、疲れてきただろ?」
御子柴隊長の言葉の後に、横から覗きこんできた式部
隊長に、こくこく、と頷いてみせる。
落とさないように力を入れているので、ちょっと手が痺れだ
していた。
「さて、と。まずはこのひまわりの出所を捜索しないとな」
「笑太君?どうする気?」
「とりあえず"あそこ"へ行って、それから事情聴取だ」
「あそこ?」
式部隊長と同時に訊き返してしまったが、御子柴隊長
はニヤリと笑っただけだった。

前方が良く見えない僕は式部隊長に片肘を掴まれて、
誘導されるように廊下を進んだ。
「情報集めるならまずはここ、だろ?」
部長室の前で一旦立ち止まり、もう一度御子柴隊長
はニヤリと笑った。
「お!それっ!どうした、そのひまわり?!」
ノックして室内に入った途端、五十嵐課長が大声を出
したので、3人共驚いて立ち止まってしまった。
「五十嵐課長、このひまわりの出所知ってるの?」
質問した式部隊長の顔を、五十嵐課長は斜め上から
見下ろすような顔で見返した。
「ああ、知ってるとも。何でお前達が持ってるのかこっちが
訊きたいくらいだ」

五十嵐課長の話を要約すると、こんな感じだった。
先程、警備員が法務省内の巡回をしたところ、中庭に
咲いていたひまわりが全部、茎の途中から切られていた。
使われた道具は鋭利な刃物と判明。目撃者は居ない。
外部からの悪意ある侵入者の仕業か!?ということで、
警備から各部署と特刑部諜報課に連絡が回ってきたとこ
ろだという。

その話を聞いて、御子柴隊長と式部隊長は、僕の頭の
上で目を合わせた。
「鋭利な刃物か。。。刃物使いは多いから、何の参考に
もならないね。これは探すの大変そうだ」
「ワイヤー使いは清寿だけ、ってのと違うからな。。。」
訝しそうに2人の会話を聞いていた三上部長と五十嵐
課長に、このひまわりがここにある経緯を説明する。
「う〜ん。。。ファン??お前達、目立つからなぁ」
また、隊長2人は僕の頭の上で視線を合わせた。
「とりあえず犯人を捜してみますよ。警備には心配ないと
伝えておいてください」
御子柴隊長が、馬鹿丁寧に五十嵐課長に云った。
その横から式部隊長が耳打ちする。
「笑太君、心当たりあるの?」
「ない。自分で名乗ってくれない限り、多分見付からない
と思うよ」
はぁ。。。と式部隊長が目を伏せて、溜息をついた。
「ところで三上さん、この部屋にもたまには客ぐらい来るん
だろ?殺風景すぎるよ。ひまわりなんて、飾らない?」

まずは省内に居た特刑隊員を片っ端から捕まえて、
それから特刑関係の各部署を回って歩き、事情を聞く。
「もう無理だね」
式部隊長が云いだしたのは、ほぼ全部の部署を回った後
だった。
「疲れたでしょ?羽沙希君。着替えもしてないし」
他の2人は白制服を着ているけれど、僕は現場から帰っ
てきたまんまの格好だ。返り血も付いている。
緑の汁がついちゃうと目立つから、と式部隊長が云ったの
で着替えなかったし、このひまわりのせいで着替えること
自体不可能だったから。
「定時も過ぎたし、もう諦めて帰ろう」
「清寿。。。このひまわり、どうするんだよ?」
ひまわりの束は、今はもう片手で持てる程になっていた。
事情聴取に応じてくれた人、部署に何本かづつ渡してきた
からだ。
「う〜んと、ね。羽沙希君、今日も弟さんのお見舞いに行く
んでしょ?」
突然思ってもいなかった話題が振られて、驚いた。
「あ。。。はい」
僕に向けられた、紫の瞳が優しく微笑んでいる。
「じゃあさ、何本か弟さんかナースさん達に持ってって。
で、残りは笑太君、持って」
数本取ってその残りを、え?俺??と自分を指差していた
御子柴隊長に渡す。
「羽沙希君はひまわり、似合うね」
ふふふ。。。と、式部隊長が笑った。
「目の色と葉っぱの色がおんなじだ。綺麗なグリーン」
僕の横で目を瞠って、呆れたような顔で見返していた御子柴
隊長にも式部隊長は云った。
「笑太君にも似合うよ。目が真夏の空の色だから」
ひまわりよりも華やかな微笑みが、僕達に返される。
「こんなに沢山のひまわり。。。僕だったら、僕より笑太君に
あげたいなぁっ、って思うけどね」
確かに。その気持ちは少し分かるかもしれない。
式部隊長にはもっと落ち着いた感じの花が似合いそうだ。
ふぅ。。。と、御子柴隊長が太い息を吐いた。
「清寿、お前。。。マイペースすぎ。。。」
「そう?」
式部隊長がこちらに視線を寄越したけれど、僕はどきどき
してしまっていて、反応出来なかった。
「だってこのままじゃひまわり弱ってきちゃうよ。お水あげないと。
だから羽沙希君は病院へ、笑太君は僕のうちまでそれ持っ
てきて」
そう云って、式部隊長は先に着替えだした。
もう下に置けるくらいの本数になっていたので、僕と御子柴
隊長はひまわりの束を床に置いて着替える。
「それにね、笑太君が持って歩いてるの、どこかで見てるか
もしれないじゃない?」
犯人は御子柴隊長のファンと決め付けて、式部隊長が云う。
「だからさ、少しそれ持って歩いてあげてよ」
御子柴隊長も僕も式部隊長には弱い。
仕方ないなぁ。。。という表情でひまわりを持つ御子柴隊長
と、特に表情もなくひまわりを抱えた僕を、式部隊長は満面
の笑みを浮かべて見守っていた。


                ―The end―






P.S.
百合がモチーフの“Li Lium”という話に
伏線としてちょこっと出てくるひまわりの話。
両手いっぱいのひまわり抱えてオタオタしている
羽沙希君ってのも可愛いかなぁ。。と思って。
いかがでしたでしょうか?(^.^;;
ひまわりの花言葉は「あなただけを見つめている」。
そのまんまのタイトルを付けてみました。。


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