―Li Lium―


任務が完了しても、処刑モードが解けない時が時々ある。
いつまでピリピリと神経が張り詰めていて、怒りが漲っているのが
伝わってくるようだよ、と、そんな俺を見て清寿は笑う。
そんな、俺の名を呼んでいつも現実に引き戻してくれる清寿でも、
たまに処刑モードがなかなか解けない時がある。
子供が絡む事件を起こした死刑囚の処刑の時は特に。
清寿の場合は怒りが内に籠もる。
処刑が終わった後の死体を前にして、返り血を浴びたまま、すっ、
と立ち、顔を正面に向け目を伏せて佇んでいるその姿は、ゾクッ
とくる程美しい。
自分の中の感情を整理しようとしている間は誰とも視線を合わ
せようとはせず、口もきかずにまるで人形みたいになってしまう。
そんな時は俺か羽沙希が処理班に連絡をする。
処理班が来るまではそのままそっとしておいて、到着したら肩を
抱くようにして諜報課一班のバンに連れていく。
その頃になると周りに気を遣って無理に喋ったり笑顔を作ったり
するのだが、そんな姿も痛々しい。
ちょっと前なら頭をぎゅっと抱き寄せればすぐに落ち着いたのに、
羽沙希の前だと嫌がるので、何も出来ずに見守るしかない。

今日もそんな感じだった。
いや、いつもよりヒドかったかもしれない。

あの柏原ですら声を掛けられず、毛布に包まってしまった清寿を
皆で気遣うようにして、法務省に戻ってきた。
溜まっているデスクワークを片付けたい、という清寿を、じゃあ僕も
書類仕事を片付けます、という羽沙希に任せて、射撃訓練場
へ行く。
何も出来ない自分にイライラしているせいか、照準が定まらない。
めちゃくちゃにぶっ放していたら、保井さんに話し掛けられた。
「なんか浮かない顔だな。何かあったか?」
ちょっと愚痴ってみる。
しょうもない話を最後まで聞いてくれてから、保井さんは大きな声
で豪快に笑って、俺の頭を太い指でぐしゃぐしゃっと掻き混ぜた。
「お前ら、可愛いなぁ!」
逃げようとしたら、首を後ろから太い腕でホールドされた。
「。。。!やめろよっ!」
抵抗を試みるが、もがくばかりでどうにもならない。
射撃場に居合わせた他の隊員達が固まっている前で頭を撫で
回され続けているのが、恥ずかしくてしょうがない。
「お前さぁ、なんでそんなに遠慮してるんだ?」
耳元で、小声で云われてハッとする。
「遠慮。。。?」
「式部にとっちゃ藤堂が初めての直属の部下だからな。その前で
お前に甘やかされるのは気恥ずかしいんだろうけどさ」
口の端ににやにやとした笑いを浮かべて、保井さんは俺の表情
を伺っている。
「人間の中身なんてそんなに変わるもんじゃねぇぞ」
首を腕で固められた格好のまま、黙り込んでしまうしかなかった。
「そんな顔すると昔に戻ったみたいだな。。。最近段々総隊長
ヅラが板に付いてきたな、って思ってたけれど、お前も本当は変
わってないんだろうな」
突然、また頭をぐしゃぐしゃ撫でられた。
「。。。っ!」
無言で嫌がる俺を見て、保井さんはアハハハッ!と上を向いて
笑った。
「おにーさんが協力してやるぞ。どうだ?」
「はぁ?オニーサンって誰だよ?!」


定時になって清寿と羽沙希を迎えに行き、更衣室で着替える。
いつものようにさっさと帰る羽沙希が出て行ったのを見届けてから、
無言で着替えている清寿に声を掛けた。
「あのさ。ちょっと付き合って」
小首が傾げられ、訝しげな視線が向けられる。
「いいケド。。。どこか行くの?」
意味有り気に薄く笑っただけで、その質問には答えない。
「今日は少し疲れてるんだけど。。。」
目が伏せられて、溜息まじりの返事が返ってきた。
「大丈夫。車借りたから」
紫の瞳が大きく見開かれ、俺の顔を直視した。
「車??一体どこ行く気?」
「いいから。行くぞ」
「。。。笑太君、横暴」
低い声で非難めいたことを云ってはいるが、やっと笑ってくれた。

「で?どこ行くの?」
ぱたん、と車のドアを閉めて、助手席でシートベルトをしながら
清寿が訊いてきた。
微笑んでみせただけで、あえて何も答えない。
そんな俺に、溜息と呆れたような笑みが向けられる。
「この四駆、保井さんの車でしょ?」
「そう。貸してくれたんだ」
法務省の敷地を出て、カーナビが示してくれる方向に向かって
車を走らせる。
肝心な質問には答えようとしないと察して、清寿は他愛も無い
話しか振ってこない。
そんな会話もやがて途切れ、清寿は静かに目を閉じた。
眠ったのかと思ったらそうでもないようで、時々目を開けて少し
不安そうな表情で外を見ている。
そんな顔は確かに入隊した頃と変わらない気がする。
精一杯強がっているのに不安そうで、俺も今より更に未熟だ
ったから、どうしてやったらいいか分からずに接していたあの頃と。
カーナビが目的地に到着したと告げた。
路肩に寄せて停車して、清寿を促して車から降りる。
「。。。!すごい香りだね」
車外に出た途端に清寿が云う。
その肘を掴んで、強い芳香が漂ってくる方に向かっていく。
人気の無い遊歩道のようなところを進むと、突然視界が開けた。
「わぁ。。。」
黄昏時を過ぎてやっと暗くなってきた頃で、夜を背景に白い焔が
燃え立つように、真っ白な百合が一面に咲いていた。
風が吹くと白い花が一斉に揺れて、橙色の花粉が炎の残像の
ように舞い上がる。
見惚れて立ち尽くす清寿の横顔に、話し掛ける。
「紫陽花見逃しちゃったから、これで。どう?」
清寿は花の方を向いたまま、感極まったように呟いた。
「こんな所があるなんて知らなかった。。。ここどこ?」
「第7セクターの外れ。こっちまで来ることなんてあまりないだろ?」
今日保井さんに教えてもらうまで、俺もこんな所があるなんて知ら
なかった。
「まだまだ東都も捨てたもんじゃないね」
俺の顔を見て清寿が、ふわり、と、優しく微笑む。いつもの顔だ。
安心して、笑い返す。
「少し歩こう?」
今度は清寿が俺の左肘を軽く掴んで引っ張る。いつもの様に。
ゆっくりと歩いているうちに、清寿の顔が和んでいくのが分かった。
「ご機嫌、直ったか?」
俺の言葉に、肘を掴んでいた指が一瞬強張る。
「。。。うん。もう大丈夫」
今日何度目かの驚いた表情が弛んで、目を伏せながら俯いて、
そんな答えを返してきた。
その頭を抱え込むようにして、ぎゅっと抱き寄せた。
「こうしてもらうとなんか落ち着く。。。ありがとう、笑太君」
左肩に、清寿の頭の重みと息が掛かる。
「お前、昔と全然変わってないんだな」
ふっ、と、清寿の息が笑う。
「笑太君だってヒトの事言えないクセに」
ふふっ、と、俺も笑う。
ホントにな。。。少しづつ経験を積んでも、肩書きや立場が変わ
っても、俺もお前もこんなにも変わっていない。。。

「帰ろうか。。。今晩のメシ、何?」
ぷっ!と清寿が吹きだして、腹を抱えて笑う。
「笑太君ってばいっつも花より団子だね!何食べたい?」
そうやって素直に笑っている様子を見て、安心する。
「旨いモン」
「まったくぅ。いつもそれじゃ困るよ」
左右に百合が咲く歩道の真ん中で、清寿が振り返って云う。
「百合、似合うな」
唐突な俺の言葉に、照れたような綺麗な微笑みが返ってきた。
「それって、オトコを褒める言葉にしちゃ。。。どうなの?」
「お前だってこの前、俺と羽沙希に向日葵が似合うだとか云って
なかったか?」
「だってホントに似合ったんだもん!」
声を上げて笑ってからくるっと正面を向いて車に向かって歩き出
した、そんな後姿には聞こえないようにそっと息を吐く。
帰ろう。。。
そしてもっとちゃんと抱き締めてやりたい。
花壇の端の方で茎が折れて倒れかけていた百合の中から何本
か、まだキレイなのを選んで拾って、清寿の後を追いかけた。


―The end―






P.S.
タイトルは百合の属名Liliumの語源から。
ケルト語で“白い花”という意味らしい。
響きが美しかったので使ってみました。
別に背景に血飛沫は要らなかったんですが、
綺麗だったんでなんとなく(笑
最後の方に出てくる“向日葵ネタ”の話は
近々UPの予定。

この話の続編“Take An Oath”をUPしました。
とりあえず季節モノですが、18禁です(汗
よろしかったらそちらもよろしく。。


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