―Take You、Take Me―    
     藍川&御子柴's side.         


昨日までは、ここに来たらあれ見よう、これも欲しいな、と色々考えていた。
でも実際に来てみたら、そんな事はどうでもいいような気がしてきた。
人が多すぎてはぐれそうになった時に右手を握られて、
そのまま手を繋いだまま歩いていた。
手のひらが汗ばんでないかしら?この動悸が伝わってないかしら?
まるで普通の女の子みたいでなんだかオカシイ。。。
藍川は顔を上げられずに足元だけを見て歩いていた。

「見たいとこ、チェックしてあるんだろ?」
急に御子柴が振り返って云った。
俯いて歩いていた藍川は、どきどきしながら顔を上げた。
「うん。一応。でもこんなに混んでるからどうでも良くなっちゃった」
「でも折角来たんだから行こう。どこら辺にある店?」
御子柴は近くにあったフロアガイドを手に取って、
辛うじて人があまり居なかった壁際に藍川を連れていって立ち止まった。
フロアガイドを開く為に、握られていた手が離された。
自由になった右手を握り締めて、藍川はそっと胸に当てた。
「ここ、と、ここ、と、ここ。。。に行けたらいいなぁって」
御子柴は周りをきょろきょろ見回して、現在位置を確かめた。
背が高くてイケメンな御子柴は、人混みの中に居ても相当目立っていた。
何人かが、立ち止まって見て行くくらい。
でも当の本人はそんな事は全然自覚してなくて、
藍川の方が落ち着かなくなる。
「じゃあここから行こう」
自然な動作で、御子柴の手が藍川の右肘の辺りを掴んだ。
そんな事をされるとは思っていなかった藍川は、
ビックリして一瞬振り払ってしまった。
御子柴が目を丸くして、それから爽やかに笑った。
「あーごめんごめん!ちょっとクセで。。。」
癖って。。。いつもは誰かにやっているってこと?
自分の中に生じた嫉妬に似た感情を否定するように、
藍川はちょっと怒っているような顔をしてみせた。
総隊長の事なんて何とも思っていないんだってば!
そう自分に云い聞かせても、それはウソだと自分で分かっていた。
「清寿の奴マイペースだから、急ぐ時はいつもこうやって掴んじゃうんだよ」
御子柴の口から式部の名前が出てきて、心臓の辺りがずきっ!とする。
2人の関係は公然の秘密ならぬ公認の事実みたいになっているんだけど、
本当のところはどうなんだろう?
そんな事に気を取られてまたはぐれそうになった藍川の右手を、
御子柴はしっかりと握って前を歩いていく。
そしてまた、藍川は俯いてしまう。

「ここ見たら戻りましょ」
最後に寄ったのは、
このショッピングモールのオリジナルグッズを扱っている店だった。
情報誌に載っていた、洒落たデザインのグラスが気になっていた。
写真でも可愛かったが、実物も可愛かった。
他のどの店でも何も買わなかったから
(その原因は御子柴が気になって買物に集中出来なかったからなんだけど)、
このくらいは自分へのお土産に買おうかなぁ。。。と思いつつも悩んでいたら、
横からすっ!と手が伸びて、目の前のグラスを2つ掴んだ。
「!?」
その手の主は御子柴で、それを持って真直ぐレジへ持って行く。
プレゼント包装をしてもらっているみたいだし。。。
他の物を見るフリをしてみたけれど、そちらが気になって仕方が無い。
それ、誰へのお土産なの?
いつものようにそう聞けばいいだけなのに、
意識しすぎてしまって聞けない自分が情けない。
「藍川。。。じゃなくて、蘭美、手出して」
御子柴はその店を出てすぐの所で藍川に云った。
不思議そうな顔で藍川が差し出した手のひらに、
ちょこんと先刻の店で買った包みが乗った。
「はい。お土産」
にこっ、と御子柴が笑った。
「今日は羽沙希の為にありがとう。
上手くいくかどうかは分からないけど、とりあえず先にお礼。
それ欲しかったんだろ?1個だとナンだから、2個にしてみたけど」
藍川は感情が抑えきれず、泣き出しそうになっていた。
「あ。。。ありがとう」
心臓が爆発しそうだ。
「ねぇ御子柴君」
「ん?」
「今付き合っている人って居る?」
勇気を出して聞いてみた。
「えーっと。。。居るには居る」
「それって副隊長?」
「う〜ん。。。まぁそんなところかな」
横目で藍川を見て、照れ臭そうにちょっとだけ笑った。
否定はしないのね、と藍川は御子柴を見上げる。
「でもアイツは多分、自分は誰のモノでも無いって思ってるだろうけど」
「なんで??」
「俺は他人を束縛出来るほどの人間じゃないんだ」
初めて見る、自信無さげな、気弱な微笑み。
バカじゃないの!!アンタ男なんでしょうっ!?
藍川がそう怒鳴ってしまいそうになったその時に、
御子柴のケータイが鳴った。
メールだったようで、御子柴の視線がケータイの画面に移る。
「そろそろごはん食べに行こう、って。戻ろうか」
短く返事を打って、送信している。
これもまた、初めて見るような優しい眼差し。
きっとメールの相手は副隊長だろう。。。
先を歩く御子柴の背中を、藍川は無言のままで追いかけた。

「おかえり〜!どうだった?ちゃんと見て歩けた?」
式部の満面の笑みが2人を出迎えた。
それって余裕?と、ひがんでしまった自分がイヤで、
藍川はちょっと落ち込んだ。
式部の横には久宝と藤堂がちょこんと並んで座っていた。
ぎこちなくはないが、親しくもない、そんな感じで。
「あら?慈乃は?」
「ちょっと見てくる、って行ったから、そろそろ帰ってくるんじゃない?」
式部の耳元で御子柴が何か囁き、
それは後で、と笑いながら小声で返した後、
式部は藍川の質問に答えた。
ウワサをすれば何とやら、で、その話をした途端、
遠くに佐伯の姿が見えた。
藍川は思わず、そちらに向かって駆け出していた。
「ちょっと待ってて!化粧室行ってくるっ」
そう云い残して。

「蘭美。。。ほら、ちゃんと化粧直して」
メイクはそんなに崩れていなかったが、目が真っ赤になっていた。
佐伯は目薬を取り出して、藍川の顔を上に向けて目に点してやる。
「もともと総隊長なんて好きじゃなかったもんっ」
「はいはい。でも今日は綾寧の為にもう少し頑張って。
その後でゆっくり話を聞いてあげるから」
戻ってきた2人に、御子柴があくびをしながら声を掛けた。
「長いトイレだったなぁ〜!」
「もうっ!笑太君、無神経すぎ!」
式部に足を蹴られて、痛みで御子柴は蹲った。
「この近くに僕のお気に入りのイタリアンがあるんだ。
ランチ予約してあるから、行こう」
文句を云おうとした御子柴の口を片手で塞ぎながら、
式部は皆を促して席を離れた。

春よりも白味を帯びた初夏の陽射しが木々の緑を際立たせる道を、
ゆっくりと進む。
風も無くて、上着も要らないくらいの気温。
こんなに爽やかな初夏の日曜日なのに。。。
それが当然とでもいうように並んで歩く御子柴と式部の後ろを、
藍川と、それを見守る佐伯は複雑な気持ちで歩いていた。


―The end―                  






P.S.
普通じゃない話ばっかり書いていた反動で書いた
ごく普通(?)の恋愛モノ。
“Take Me,Take You”の別サイドのストーリィに
なってます。
蘭美ちゃん大好き♪なんですが。。
実はこの手の恋愛モノ書くのも初めてで。。
やおい書くより難しかった〜(汗
ちゃんと可愛く書けてるでしょうか?


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