―Take Me、Take You―  
        式部&佐伯's side. 


「じゃ後はお若いお2人でって。。。私達はお見合いの付き添いおばちゃんか!?って!」
藍川はどん!とコーヒーが入ったマグカップを置いた。
弾みでテーブルの上に飛沫が飛び散る。
それを見て佐伯が眉を顰めた。
「蘭美〜言い出したのは貴方なんだから我慢なさい」
式部は笑顔を浮かべたまま、ペーパータオルでテーブルの上を拭き取った。
「"蘭美さん"も見て歩いてきたら?ここに来るの初めてなんでしょう?」
こちらを見た藍川が、ちらっと視線を横へズラしたのに式部は気が付いていた。
「でもぉ〜カップルばっかりだもん。1人じゃイヤっ」
ぷーっ!と頬を膨らませた藍川が目をつぶって斜め上に顔を向けた隙に、式部は隣に
座っていた御子柴の足の脛を軽く蹴った。
ぃて!
御子柴は声には出さなかったが、肩を竦めて非難めいた視線を式部へ向けた。
少しは気を利かせて!
口だけ動かしてそう云った式部が、また足を軽くこんこんと蹴ってきた。
ふーっと藍川に聞こえないように短い溜息をついた後、御子柴は立ち上がった。
「じゃ藍川、付き合うよ」
笑顔で片手を差し出す。
え?と御子柴の顔を見上げた藍川の顔は真っ赤になっていた。
「も〜笑太君、それじゃ色気も何も無いじゃない!こういう時は名前で呼ぶもんだよ」
式部が失笑しながらそう云うのを、佐伯は微笑ましく聞いていた。
う〜ん。。。と一瞬考えた後、御子柴は再び笑顔を作った。
「じゃ蘭美、行こうか」
「。。。仕方ないわね。妥協するわ」
藍川は御子柴の手を取って渋々という感じで立ち上がりながら、そう虚勢を張った。
「行ってらっしゃ〜い」
御子柴は苦笑しながら、笑いを噛み殺しながら手を振っている式部を振り返ってから、
藍川と肩を並べて歩き出した。
そして2人はすぐに人混みの中に見えなくなった。


「私ね、第一の藤堂クンと綾寧ってお似合いだと思うんだけど、どうかしら?」
そう云い出したのは藍川だった。
「確かにそうね。。。2人共仕事の時以外はほわ〜っとしてそうだし」
唐突な意見ではあったが、佐伯は妙に納得して笑ってしまった。
「でね慈乃、今度の日曜日って空いてる?」
藍川の提案は、第4セクターに最近オープンしたばかりのショッピングモールに第一の
3人を誘って行こう、というものだった。
「スゴく広くって、初出店のお店も多いんだって!行きたくない??」
「。。。それって自分が行きたいだけじゃないの?」
「それもあるんだけどね」
藍川はバレたか!という顔で笑った。
「でもそういう所の方があの不器用そうな2人でもなんとかなるかな〜?と思って。
それにいきなり2人きりっていうのは無理だろうから付き添い付きでって。。。ダメかしら?」
いつもムスッとしているが、笑うとこんなに可愛いのに。。。と佐伯は思った。
「でね、副隊長に予定を聞いてきて欲しいの」
「え?私が?」
「そう。だって副隊長と同期でしょ?」
確かに式部と佐伯は養成所の同期生だった。でもそれだけで、今は立場が違う。
ヤル気満々の藍川に煽り立てられて困っていたら、本当に偶然に廊下で式部と会った。
藍川の提案を伝えると式部は満面の笑みを作り、それいいかもね!と話に乗ってきて、
それを御子柴に伝えてくれて、2人で渋る藤堂を引っ張り出してきてくれたのだ。
駅前で待ち合わせして目的地に向かい、
ゲート近くにあったオープンエアのカフェで軽くお喋りしながらお茶した後、
ちょっと見て歩いてくれば!と皆で盛り上げて、戸惑う藤堂と久宝を無理矢理送り出した。
とりあえずこれで目的達成。
日曜の、しかも出来たばかりのショッピングモールはすごい人出で、しかも圧倒的に
カップルが多くて、それを眺めているうちに藍川がヘソを曲げてしまったのだ。


「佐伯さんも見てきたら?僕が留守番してるから行ってきていいよ」
ぼんやりとコーヒーを啜っていた佐伯に式部が声を掛けた。
「貴方は1人じゃイヤ、ってタイプじゃないでしょ?」
その言葉に佐伯は華やかな笑みを返す。
「そうね。却って気楽でいいわ」
「養成所時代からそういう人だったよね」
ふふふ、と式部は穏やかに笑いながら、読んでいる本から視線も上げずに云った。
佐伯は昔から、式部とは話しやすかった。
近付きすぎず余所余所しすぎず、適度な距離感が保てるので一緒にいて気が楽だ。
でも今日は踏み込んで聞いておかなきゃいけない事があった。
「ねぇ、式部君。聞きたいことがあるんだけど。。。」
こんな話をするのは始めてで、緊張しながら言葉を選ぶ。
「何?」
女性とも見間違われる美しい顔に、ふわりと花のような微笑み。
「ちゃんと正直に答えてね」
その言葉に、了承した、と云う表情をして、頭が軽く傾げられた。
そのゆったりとした動作に合わせてさらさらと髪が流れ落ちる。
そんな仕草も綺麗で目を惹く。
何人かの客がちらちらと横目で見たり、こそこそと耳打ちしながら横を通り過ぎた。
「総隊長と貴方が親密な関係だって。。。本当?」
あはは!と目を細めて笑ってから式部は、真剣な眼差しの佐伯を見返した。
澄んだ紫の瞳に真直ぐ見詰められるとどきどきしてしまう。
「それ、藍川隊長の為に聞いてるんでしょ?」
可笑しくてしょうがない、といった口調で質問が返ってきた。
そうだと云わんばかりに一瞬口籠もってしまった事を、佐伯は後悔した。
「藍川隊長可愛いよね。羽沙希君を口実にこんな所まで笑太君を引っ張り出して」
その言葉に嫌味は全く無かった。
「でも笑太君結構そういうの鈍いから、正直にならないと伝わらないと思うよ」
そしてまた、目を細めて優しく笑った。
「そう伝えといて」
式部は視線を本に戻した。
「全部お見通し、ってワケね」
ふーっ!と大きな溜息を付き、佐伯はお手上げだ、という様にこめかみに手を当てた。
そう、この男(ひと)は話しやすいけど油断しちゃいけない人物だった。。。
佐伯は今頃それを思い出して、彼らを誘った事を後悔した。
「でも大丈夫。。。それとも残念、かな?笑太君は多分、何も気付いていないから」
昔から頭の回転が速くて、状況判断や人の感情を把握するのが速かったっけ。。。
「ねぇ。。。それだけ?」
その言葉に目を上げて、式部は驚いたように佐伯を見た。
「ちゃんと質問に答えてくれてないわ」
式部の瞳が曇って、口元が寂しげに歪んだ。
「僕は誰のモノでも無いよ。。。多分」
「それって。。。否定?」
答えは無く、ただ困ったような笑みが返されただけだった。
「それとも否定はしない、ってコト?どっち??」
沈黙。
佐伯はカップに残っていたコーヒーを一口啜った。
例え待っていたとしても、答えてはもらえないだろう。。。
何事も無かったかのように本を読み続けている式部の横顔を、佐伯は軽く睨んでみた。
冷め切ってしまっていたコーヒーの、苦味だけが咽喉に残っていた。
「まぁいいわ。私もちょっと見てくる。お留守番よろしく」
そう云いながらイスから立ち上がり、踵を返して店のある方へ向かった。

「。。。分が悪いわね」
佐伯は独り言のように、周りには聞こえないくらいの声量で呟いてみた。
聞けばきっと否定するだろうけれど、藍川が御子柴を意識しているのは誰から見ても
明白だった。
藍川のそういう所が不器用で可愛くて仕方ない、と思う。
上司だけど年下だし、友みたいに思えて放っておけない、そんな存在だった。
だからなんとかしてあげたかったけれど、あの人がライバルじゃ敵わない。。。
なんとなく気持ちが重くて買物する気分にもなれないまま、ぷらぷらと歩いていた。


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P.S.
第一部隊と第二部隊の健全な話(笑
式部と佐伯、参謀役同士が同じ歳だったので、
勝手に養成所同期生にしてしまいました。
この2人ならこういう会話もありそうかな、と。
続きは藍川と御子柴側の話の予定。
一応羽沙希君と綾寧ちゃんがメインの話の筈なんですが、
影が薄いなぁ〜(汗


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