―Secret Relation―


「な、清寿。ちょっと待て」
振り返った式部の額に、御子柴はぺたっと手のひらを当てた。
「やっぱお前、熱あるんじゃねぇ?」
そういえばなんとなく顔が赤いか、と思いながら藤堂は式部の顔を見た。
「あ、やっぱり?なんとなくそ〜かなぁ。。。とは思ってたんだけど」
御子柴の手を額にくっつけたまま、式部は首を傾げた。
「顔、相当赤いぞ。朝、鏡見ねぇの?」
「見たよ。歯も磨いたし」
「じゃ気付けよ(笑)」
御子柴の言葉に、式部は困った顔をしてみせた。
「頭ぼーっとするし、怠いし、ノドも変だし。。。風邪かなぁ〜?」
そんな2人のやりとりを目の前で見て、藤堂は結構ドキドキしていた。
総隊長と副隊長、どちらも"人形"と仇名される通りの美形だ。
でも藤堂のこの動悸の原因は別にあった。
「有休あるんだから帰れ」
「え〜でも。。。うちで寝てたって治るワケじゃないでしょ?」
「今日1日休養取れば良くなるんじゃねぇの?って云ってんだよ」
意地になって帰ろうとしない清寿を、御子柴は呆れたような顔で見た。
「じゃあ今日は俺と羽沙希が現場に出る。お前は諜報課で後方支援。な!」
「。。。了解」
渋々という表情(かお)で式部は答えた。
何でそんなに意固地になるのか?藤堂でも不思議に思うくらいだった。
「で!具合悪くなったらすぐ帰れよ!これ、総隊長命令だからな」
御子柴はそう云い捨てるように云って、御子柴は廊下を大股で歩き出した。
その後を慌てて追いながら、藤堂は式部をちらっと振り返り、目で会釈した。
行ってらっしゃ〜い!
式部は少し寂しげな微笑を返し、言葉には出さずに口だけでそう云って
軽く手を振り2人を見送っていた。


「ね、副隊長」
柏原は背後に立つ式部に声を掛けた。
「?何?」
その呼びかけが唐突だったので、返事をするのがちょっと遅れた。
「今日は"居残り"?」
最近柏原の、自分に対する態度がぎこちない、と式部は感じていた。
その理由に心当たりは。。。有り過ぎる程に有る。
「そう。居残り。体調悪くって。。。」
顔を少しだけ横に向けて、柏原はそう答えた式部の方をちらっと見た。
「そういや顔赤いね〜!熱あるんじゃない?」
「あ。。。やっぱりそんなに赤いんだ。。。」
手の人差し指を軽く曲げて唇に当てる。
これは考え事をする時の式部のクセだ。
そのどこか女性的な仕草を見た時、柏原の頭にカーッと血が上った。
"目の部屋"での特刑隊員の部屋の監視は諜報課の仕事で、見たい訳では
ないのにプライヴェートな場面を目撃してしまう事が多い。
身近な人達の秘め事を知っているというのは後ろめたい。
特に第一部隊は他の部隊と違って独自に捜査する場合が多く、情報収集の
為の諜報課への出入りも頻繁で顔を合わせる機会が多いので、監視(み)て
しまった日から後は、気まずさを隠すのにいつも苦労する。
「風邪?裸で寝るからいけないんじゃ。。。!」
云いかけて、途中で柏原は慌てて口を噤んだ。
マズった!失言!!。。。と思ったが、もう取り返しがつかない。
御子柴と過ごしている時の式部のしなやかな身体は男である柏原から見ても
官能的で、忘れようとしても脳裏に灼きついてしまって離れない。
だから最近、距離を置いて接するようにしていたのに。。。
振り返らなくても、背後の空気が重くなったのは分かった。
「うん。そうだね。それに。。。」
ちょっと沈んだ声で式部は云い出して、一旦言葉を切ってから続けた。
「いいよ、気を使わなくても」
柏原は表面上冷静さを装っていたけれど、内心激しく動揺していた。
口から飛び出そうな程に激しくなった心臓の鼓動を押し隠し、モニターに表示
されてくる情報に集中しているフリをする。
最悪な事に、今この部屋には柏原と式部しか居ない。
そして居る筈の式部は気配を殺し、空気と同化してしまっている。。。
背中に冷や汗をかきながら、柏原は背後に注意を向けた。
と、その時突然、式部の声がすぐ近くで聞こえたので飛び上がりそうになった。
「諜報課の上層部は僕達のこと知ってるんでしょ?知ってて隠してくれてるの?」
熱い息が耳元をくすぐり、ふわりと式部の髪が肩に触れる。
その一見甘いシチュエーションに似合わない、有無を云わせぬような口調。
誤魔化しは通用しないだろうと観念し、本当の事を答える。
「そう。一応2人の事は特刑トップシークレット事項の一つになってるから」
「ふ〜ん。。。」
興味の無さそうな、気の抜けたような反応に驚いて、思わず柏原は反る
ようにして背後を振り返ろうとした。
すると、ほぼ真上からじーっと柏原を見下ろしていた式部と目が合った。
熱のせいか少し潤んだ紫色の瞳とほんのり紅潮した頬が色っぽくて、柏原は
更にパニくった。
式部の顔が自分の顔にゆっくり近付いてきた時も、我が身に何が起こっている
か解らないくらいに。
唇が、唇に触れてきた。
柔らかい感触に驚いて、柏原は思わず息を止めて目をきつく閉じた。
その顔を手のひらで包んで持ち上げるようにしている式部の手が、
触れ合っている唇が、
息が熱い。。。
ほんの数十秒。だけど、柏原には相当長い時間に感じた。

唇が離れて目を開けてみると、式部が悪戯っぽい笑顔で見詰めていた。。
「口止め料。それとも手数料、かな?」
にこっ。
明るい口調で云った式部を、はーっ!と止めていた息を吐き出してから柏原は
恨めしげに見返した。
「ヒドいよ。副隊長」
「羽沙希君じゃあるまいし、キスしたの初めて、なんて云わないでね(笑)」
「そりゃ〜初めてじゃないケド。。。でも男とは初めてだし。。。」
ぶつぶつ云っている柏原を見ながら、たいがいのヒトなら魅了されてしまうような
笑みを浮かべて式部は云った。
「もしかして足りない?」
ぶんぶんぶんっ!と頭を、飛んで行きそうなくらいに激しく左右に振って
柏原は全力で否定した。
そこへ丁度御子柴からの無線が入って、救われたような気持ちでモニターに
向き直る。
背後から聞こえる、声を押し殺したような笑いに敗北感を感じながら。。。


御子柴と藤堂が処刑が終えて本部に戻った時、式部は医務室で眠っていた。
「なんかスゴくシアワセそうでムカつく」
そう云って式部を起こした御子柴は、式部を送って帰って行った。
藤堂は帰る前に少し調べ物がしたくて、諜報課一班の部屋に寄った。
その顔を見た途端、柏原の表情が崩れた。
「お〜藤堂〜!お前、第一でいじめられてないか〜?」
「。。。?気を使ってもらう事はあっても、いじめられてはいませんが?」
「ホントにホントに〜?」
「?」
首を傾げる藤堂を見ているうちに、柏原の目に自然と涙が滲んできた。
「?!何かあったんですか?」
「いや。ちょっと副隊長にからかわれただけ。。。」
涙を手できゅっと拭いて鼻をぐずぐずと啜り、柏原はモニターに向き直ったきり、
二度と藤堂の方を振り向こうとはしなかった。
困った藤堂が周りのスタッフを見渡したけれど、皆視線を逸らせて“お手上げ”
のポーズをしてみせるだけだった。


数日後、式部の風邪はすっかり治っていた。
そして今度は柏原と御子柴が風邪をひいていて、赤い顔をしていた。
「羽沙希君居るから帰っても大丈夫だよ、笑太君。有休あるでしょ?」
意地悪く式部は云った。
「誰のせいだと思ってるんだ」
御子柴がブツブツ云うと、式部はつん、と云い返した。
「そもそも最初にうつしたの、笑太君だもん。お返しだよ」
「なっ。。。!?」
御子柴の顔が一気に真っ赤になった。
このやりとりを見て、藤堂はまた鼓動が早くなるのを感じていた。
「お前、柏原にもうつしたろう?」
「うん!"ちゃんと"うつした(笑)」
その答えに、御子柴は呆れたように溜息をついた。
「アイツ泣いてたぞ。何したんだ?全く。。。」
"ちゃんと"って??と引っ掛かっている藤堂を促してドアから出ようとして、
ふと、という感じで式部は御子柴の方を振り返ってこう云い残した。
「総隊長たるもの自分の体調くらい管理出来なくちゃダメじゃない。
具合悪くなったら帰ること!これ、副隊長命令だからね」
にっこり。
「さ、行こ。羽沙希君」
鮮やかな笑顔を残して式部は廊下をどんどん歩き出した。
藤堂が振り返って見た時御子柴は俯いていて、前髪で隠れてしまって
その表情は見えなかったが、口元は笑っていたような気がした。

――― どんなに疎い僕だっていい加減解るよ。。

藤堂は、上機嫌で出口に向かう式部の背中に向かって心の中で呟いた。
すっかり忘れていたけれど遡ること数週間前、最初に風邪をひいていたのは
御子柴だった。それが式部にうつり、また御子柴がひいて。。。
その理由がなんとなく解ってきてから余計に、2人が接している場面を見ると
ドキドキしてしまう。
仕事の時はいつも通りだから、そんな事気にならないんだけど。。。
式部が振り返り、藤堂がついて来ているのを確認して笑みを漏らす。
その微笑にまた鼓動が早くなる。
第一で一番強いのは式部隊長だ。。。と、藤堂は確信を持った。


                 ― The end ―






P.S.
自分が風邪をひいた日に書き出した話。
手直ししてたら発表順が冬春逆になってしまいました(汗
小悪魔系清寿(笑)ですが、
本人にしてみたら誰でもいいから風邪をうつして
早く楽になりたかっただけ。。そんな設定です。
熱ある時はツラいから、ね(笑


Back