―From Somewhere or Other―


ベッドの上で寝転んで、掲げ持ったものを眺めてはにやにや
している式部の顔を見て、御子柴はふぅ、と息を吐いた。
「それ、すっかりお気に入りだな」
ベッドの端に腰掛けて自分を見下ろしている御子柴に向か
って、式部は嬉しそうな微笑みを返した。
「だって、これ、すっごくいい感じだと思わない?」
御子柴は上半身を屈めるようにして、上機嫌な式部の額に
唇で触れる。
一旦離されたそれを、くすぐったそうに笑っている唇が追ってき
て、啄ばむようなくちづけを交わす。
「ね、これさ、例えば3人一緒に何かあったりした時には飾っ
て貰おうよ」
下から回した腕で御子柴の首を捕らえたまま、冗談めかして
式部が云う。
「これをか?」
大きな瞳が、くりくりっと動いて、うん、と頷く。
「だってとっても僕等らしいって、思わない?」
どうやら本気らしい。
困ったなぁ、という顔で、御子柴が笑う。
「もしも皆で一緒に死んじゃうようなことがあったら。。。ね」
そんなこと無いだろう、とは云えない。
刑罰という名の死を与える任務に就いている自分達は、それ
故に常に死と隣り合わせている。
――― 3人一緒に。。。か。でもその方が一人残されるより
はツラくないかもしれないな。。。
御子柴は一人で残されてしまった、あの苦しい日々を思い
出していた。


「写真。。。?」
「写真〜!?」
青い瞳が疑り深かそうに細められ、紫の瞳がまんまるになり、
緑の瞳はいつもの様にぼーっとしていた。
この取り合わせが何か妙に可笑しいんだよな、と、五十嵐
は失笑を漏らす。
その日、諜報課第一斑の部屋に突然現れた五十嵐課長
が手にしていたのは一眼レフのデジカメで、肩の上辺りに捧
げ持たれていたそれを見て、御子柴と式部は不思議そうな
顔をした。
「何企んでんだよ?イガグリ」
探るように訊いた御子柴に、五十嵐は不敵な笑みさえ浮
かべてみせる。
「笑太、お前総隊長何年やってんだ?もっと余裕持てよ」
軽く鼻であしらわれ、御子柴は口を尖らせてぷいっと横を向
いてしまった。
「でも、なんで写真?」
そんな御子柴をちょっと気にしながら、式部が尋ねてきた。
「記録に残しとこうかと思ってさ」
「記録。。。って?何の?」
答えを要求するように五十嵐を見て、小首を傾げる。
「特刑隊員達の記録を撮っておこうかと思ってね」
「それって特刑部も落ち着いてきたから、ってこと?」
「まぁそういうことだ。ここまでくるのに10年かかったけどな」
「そっか。僕達はいつ死んでしまうか分からないし。。。第一
もやっと3人になったしね」
年間何名かの殉職者が出る。
欠員のある部隊も稀ではない。
プロフィールを一切公表されない特刑隊員達は、殉職しても
ただの“死亡”と処理されて、その名誉を称えられることは無い。
今まで意識していなかったそんなことが実感として藤堂の胸に
も迫ってきて、唇を横にぐっと引き締めてしまった。
式部が緊張した顔の藤堂の手を掴み、引き寄せる。
そしてもう片方の腕を、まだ不満気な表情で横を向いていた
御子柴の腕に絡ませて、軽く引っ張った。
「笑太君も!拗ねてないで撮ってもらおうよ」
式部の楽しそうな笑顔を見て、はぁ、と溜息をひとつついて、
御子柴は素直にカメラの前に立った。
「まずは3人並んで立って」
御子柴を中心に、左右に式部と藤堂が立つ。
静かなシャッター音が響く。
「え〜!今の硬すぎない?!」
式部の抗議の一声で、もう一枚撮り直す。
撮る側からもう一枚もう一枚、と、式部が嬉しそうに囃す。
「ねぇねぇ羽沙希君、どれも同じ顔じゃつまらないよ」
「そ〜だな、そのほけーっとした顔なんとかしないと」
藤堂を中心に据える。
そして背後に立った御子柴がその口の両端を指で抓んで
笑みの形に引っ張り上げ、横から頬に顔を寄せた式部が、
ウィンクしながらピースサインを作ってみせた。
「おい、いい加減にしろよ!」
言葉と口調は怒っていたが、五十嵐が吹き出しそうになる
のを耐えているのは一目瞭然だった。
それが最後で、結局撮った写真は5枚にもなった。
「ね〜ね〜見たい!見せて見せて!」
式部がお願いすると、五十嵐はやれやれという感じでデジカメ
を手渡す。
小さなモニター画面に顔を寄せ合って、御子柴と式部が画像
をチェックして、最後の一枚を見た時、同時に笑いが弾けた。
「これ好き〜!プリントアウトして頂戴!」
式部がねだる。
「全部隊撮った後になるけれど、いいか?」
「え〜?それじゃあいつになるか分からないね。。。すぐ欲しい
のに」
残念そうに目を伏せる。
すると横からさっと柏原の手が伸びてきて、カメラを攫う。
「今やってやるよ」
「ありがと〜柏原班長!ちゃんと3人分よろしくねっ」
抱きつかんばかりの式部の様子に、五十嵐がまた失笑する。
――― こうしているとただの歳相応の若者達で、日々重責
を負って厳しい任務をこなしている精鋭達には見えないな。。。
そんなことを考えながら第一部隊の面々をぼんやり見ていた
五十嵐は、手元にカメラが戻ってきて我に返った。
「副隊長、はい」
式部の手には数枚の写真が渡される。
「ありがと!」
それを大事そうに胸の前に当て、式部は花のような笑みを
零す。
柏原は少し頬を赤らめて片手を軽く上げると、PCの方を
向いてしまった。
式部は自分の分だけ取って、他の写真を御子柴に渡し、
御子柴は後ろに立っていた藤堂を指で呼び、近付いてき
た彼に写真を渡す。
「。。。?羽沙希?」
呆然と写真に見入ってしまった藤堂の肩を、御子柴が叩く。
我に返ったように上げた目の端には、うっすらと涙が浮かん
でいるように見えて、式部が慌てる。
「羽沙希君?!」
藤堂が見ていたのは最後に撮った写真だった。
以前こうやって口の端をぎゅい〜っと引っ張って、無理矢
理笑うことを教えてくれた友は、もうこの世には居ない。
僕が殺したようなものだと何度も悔いた夜を思い出して
いた、と、説明する気には藤堂には無かった。
「なんでもありません」
口を固く噤んで何も答えようとしない藤堂から無理に理
由を聞き出そうとはせず、2人の上司は優しく微笑んで
その頭をぽんぽんと叩くように撫でた。
「もうこれはいいから、そろそろお前ら働けよ!」
五十嵐が痺れを切らして云ったのを機に、3人は本日の
現場に向かった。


その時の事を思い出して、式部が独り言のように呟いた。
「羽沙希君はあの時、あのお友達の事を思い出していたん
じゃないかと思うんだよね。。。」
「藤澤か。。。」
そう、と、式部は頷いてから、御子柴の顔を盗み見る。
御子柴は写真を凝視したまま、だった。
「笑太君、今何考えてる?」
「いや。。。時生とは写真撮ったこと無かったなって思ってさ」
その泣き出しそうな表情には、そういう意味があったのか。
時生、という言葉の響きに嫉妬にも似たもやもやした感情
を覚えて、式部の表情が曇った。
「お前、最初に写真見た時緊張したよな?あれ?と思った
んだけど。なんで?」
そんな式部の様子には気付かずに、今度は御子柴が問う。
「うん。。。僕、段々ママに似てきたなって思って」
式部が、彼の両親が殺された歳に近付きつつあるのだろう
と思い当たり、訊いた御子柴の方が言葉を詰まらせた。
「お前のママは美人だったんだな」
「お世辞云ったって何にも出ないよっ!」
大真面目な顔で云った御子柴を驚いたように見返してか
ら、式部は明るく笑った。
この不器用な思い遣りが心地良い、と思いながら。
「ホントにこの写真、好きだなぁ。。。」
しみじみと云って、式部が微笑む。

「僕に何かあった時にはこれを一緒に柩に入れて。ね、約束。
これだけは絶対に覚えていてね」

幸せそうな笑顔の下にある不安が、御子柴の心に刺さる。
「だから後で、じゃなくてすぐに欲しかったんだ。。。」
返す言葉も無く、御子柴はただ式部の身体を強く抱き締め
ていた。


                 ―The end―






P.S.
ヴィクトリア女王様に捧ぐ。。
リクエスト頂いたお題の話より先に
“清寿がピース”の話が
出来上がってしまいましたっ
すみません。。(汗
しかもこんな話で。。
重ね重ね、すみませんっm(_ _)m
書いてる時のBGMは
嵐の“アオゾラペダル”でした。。

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