―Symptomatic Therapy―


時々、思い知らされる。
そして自己嫌悪。
そんな時はどんな優しい言葉でも、
心の殻を破れない。。。

「おい羽沙希、お前清寿となんかあった?」
部長室に報告に行って、更衣室に戻ってくるなり御子柴隊長
が僕に話し掛けてきた。
「。。。」
はい、とは答えづらい。
でも、いいえ、とは云えないから黙り込む。
探るような空色の瞳から目を逸らし、俯くしかなかった。
御子柴隊長は真直ぐに僕を見詰め続けている。
頭の辺りに感じる視線が、ちりちり灼けるようで、痛い。。。
「何で。。。ですか?」
やっと口に出せたのは、そんな言葉。
視線が合うのが怖くて、目が上げられない。
「向こうで清寿がしょげててさ」
待機室の方を指差して、軽い調子で御子柴隊長が云う。
「アイツがあんな風になんのは、お前と何かあった時だけだから」
意外な言葉に思わず目線を上げたら、視線がバッチリ合ってし
まった。
「式部隊長は何か云っていましたか?」
赤味がかった茶色の髪が、ふわふわと左右に揺れた。
「いや何にも。アイツはそういうことはあんま話したがらないから。
でも伊達に付き合い長いワケじゃないから分かっちまうってだけ」
床に視線を落とすと、大きな溜息が頭の上から降ってきた。
「お前も清寿も強情だからなぁ。。」
ふっ、と鼻から軽く息を吐いてから、呆れたように御子柴隊長
が云う。
「何があったかなんてどうでもいいんだけどさ。今日はこれでお
終いだし。お前が放っとけ、っていうなら放っとくけど?」
原因は僕の方にあると分かっているような口ぶり。
「ただ仲直りしたいんだったら早くしてやってくれ。そうしないと
アイツまた眠れなくなっちゃうから」
そこで言葉を切ってしばらくこちらの反応を待っていた御子柴
隊長は、何も云おうとしない僕に呆れたような吐息をひとつ
残してドアの方を向いた。
待機室で自分を待っている式部隊長を迎えに行くのだろう。
「あ。。。」
思わず漏れてしまった小さな声に反応して、御子柴隊長が
振り返る。
「ん?」
ホラ云ってみ、というような表情で、僕を見下ろしてくる。
「。。。僕が、悪いんです。。。」


それはちょっとした自己嫌悪。
伝説とまで云われる特刑最強の男達の戦い様を目の当たり
にする度に、自分はここまで強くなれるんだろうか?と考える。
今日もまた2人に沢山フォローしてもらって、なんとかという感
じで任務を遂行することが出来た。
僕はこれで一人前の処刑部隊々員と云えるんだろうか。
第一部隊に居ていいんだろうか。
お荷物になっているんじゃないだろうか。。。
多分、険しい表情をしていたと思う。
優しく労りの言葉を掛けてきてくれた式部隊長を、無意識
であったとはいえ、態度で拒絶してしまった。
僕の肩に触れてきた手が引っ込められて、悲しそうに表情
が曇るのを見て初めて、はっ、とする。
1人で居ることに慣れていて他人に対する配慮が足りない
ということに、この部隊に配属になってから気が付いた。
少しづつ治ってきてるよ、と2人はいつも笑って許してくれる
けれど。。。悪い癖はこういう時に出てしまう。


「ばぁーか」
大笑いしながら、御子柴隊長が云った。
「俺達が何年この仕事やってると思ってんだよ。たった数ヶ月
の新人に追いつかれて堪るかってぇの」
大きな手が僕の頭をぐしゃっと撫でる。
「それにお前は俺らが新人の時よりずっとしっかりしてるし強い
から何も心配することなんて無いって、前から云ってんだろ?
自己嫌悪なんて必要ねぇよ」
御子柴隊長は僕に、強いのに気付いてないだけだ、と云う
けれど、果たして本当なのだろうか?
清寿なんて新人の時は他人(ひと)の云う事聞かねぇで勝手
なことばかりするで大変でさぁ。。。と、喋り続けている口元を
見ながらそう考えていた。
「で?羽沙希。どうしたい?」
「。。。謝りたいです」
にやっ、と、ホクロのある方の口元が釣り上がる。
「じゃあカンタン。援護してやるよ」
そう云ってから御子柴隊長は顔を僕の耳元に近付けてナゾ
の言葉をこそっと囁くと、また、にやっ、と笑って更衣室を出て
行った。

「今日は和食が食いたい」
唐突に、御子柴隊長が式部隊長の方を向いて云った。
私服のシャツの襟のボタンを閉めていた式部隊長は一瞬
目を丸くして、横で着替えている御子柴隊長の顔を見た。
そしてその視線を前のロッカーに戻すと、ふぅ。。。と、軽い
溜息をついた。
「うん。了解。一応確認しとくけど、それって今夜うちに来れ
るってことなんだよね?」
いつもならこれだけでゴキゲンになるのに、今日の式部隊長
はテンションが低い。
自分が原因だと分かっているだけに、心が痛む。
「なぁ羽沙希、お前も飯食いにくれば?」
御子柴隊長の首がぐるんと回されて、僕の方を向いた。
意味ありげに片目が瞑られているのは、式部隊長の方から
は絶対に見えない。
"今夜何か予定入ってたら断って、絶対に空けとけよ"
式部隊長を迎えに行く前に囁かれた言葉の意味がやっと
分かった。
「お邪魔じゃなければ。。。いいですか?」
御子柴隊長の肩越しに見える式部隊長の表情が、ふわっ
と和らいだ。
「え?羽沙希君も来てくれるの?」
嬉しそうに、瞳がきらきら輝いた。
大袈裟ではなく、本当にそう見えたのだ。
「迷惑でしょうか?」
頭が強く左右に振られ、綺麗なストレートヘアがその動きに
合わせて広がって落ちる。
「嬉しいよ。羽沙希君には朝ご飯なら何回もご馳走してる
けど夕飯は初めてだし。それにうちに来るの初めてだよね?」
浮き立った気持ちが周囲にまで伝わってくるような笑み。
「羽沙希君、何食べたい?食べたいもの云って云って」
「お〜い。俺のリクエストは聞いてくれないのかよ」
御子柴隊長までつられて笑ってしまっている。
式部隊長の笑顔を見てたらどうしても謝っておかなきゃいけ
ない、という焦燥感に煽られて、
「。。。先刻は、すみませんでした」
ぺこっと頭を下げ、顔を上げたら式部隊長と目が合った。
「何の話だっけ?忘れちゃった」
紫の瞳が細められて、唇が美しい弧を描く。
見惚れるほどの極上の微笑み。
やっぱりこの人には笑顔が似合う。。。

「腹減ったから早く帰ろうぜ」
「ね、何作ろうか?笑太君は何食べたい?」
「炊きたての飯と味噌汁」
「。。。じゃ笑太君はそれだけにしよっか」
「ええっ!?マジ?そりゃね〜だろ」
「羽沙希く〜ん!何食べたい?お肉?お魚?」
「ちゃんと答えとけ羽沙希。お前にかかってるぞ」
こちらに向けられた笑顔が眩しくて少しだけ目を細めたら、
「あ!笑った♪」
「お。笑った?」
と、楽しそうに云われた。

この人達には敵わない。
でも、今はそれでも仕方ない。
いつか追いつけるように頑張ればいいんだ。

そう思ったら気が楽になって、自然に笑みが零れてしまった。


               ―The end―






P.S.
久々の仲良し第一部隊の話。
清寿のことを一番分かってるのは笑太
ってことで。
2人がきゃっきゃっ♪してる話って
書くのがとっても楽しい。
原作者さん達は清×羽推奨のようですが
乾はやっぱり笑×清派(^-^*
この話には続編アリ。
<Affair of DOLLS>の方へUP。
どうぞよろしく。。


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