―Asleep or Awake―


"しーっ!"
待機室に入った途端、ソファに座っていた藤堂が唇の前
に人差し指をぴんと立てて当て、入口の方を振り返った。
「えっ?!」
声を出しそうになった藍川の口を、背後から佐伯が手で
塞ぐ。
"どうしたの?藤堂君?"
久宝が小声で話し掛けると、口の前に立てられていた指
が下を向き、藤堂が座っているのと向かい合っておいてあ
るソファの上を指し示した。
「あっ。。。」
思わず久宝は自分の手のひらで、自分の口を押さえた。
3人掛けのソファの上で式部が眠っていた。
長身を持て余すように膝を曲げ、ブーツを履いたままの足
を肘当ての部分に乗せて、手を腹の上で組んで穏やかな
寝息を立てている。
"副隊長が寝てるなんて。。。珍しくない??"
藍川も事態を悟って、藤堂の耳元に口を寄せて小声
で云った。
式部が不眠症だというのは、特刑上層部なら誰でも知っ
ている。
"はい。昨日からずっとターゲットを追っていて、先刻やっと
処刑を終えて帰ってきたところで、僕や御子柴隊長は間
で仮眠取ったんですけど、式部隊長は寝てなくて。。"
緑の瞳が、労るように式部を見下ろす。
"夜通し?で、今?もう通常の出勤時間よ"
藍川が壁に掛かった時計を見ながら云うと、こくんと藤堂
は頷いた。
"正確には昨日の朝から夜中ずっと、です"
大変だったわね、というように、藍川の手が藤堂の髪を
くしゃっと撫でた。抵抗もせずに片目を瞑って頭を撫でられ
ている藤堂を見て、佐伯と久宝は思わず笑みを漏らした。
"ところで総隊長は?"
佐伯の質問に、藍川の顔が一瞬強張った。
"そうそう!あのセクハラ隊長はどこ行ってんの?こんな所
に寝かせてないで、早く帰らせてあげればいいのに"
まぁまぁ、と佐伯が宥めるように藍川を見る。
"三上部長のところに行っています"
"報告書出しに行ったんでしょ?1人で行くって云ったん
だったら、先に帰って良かったんじゃない?"
 "御子柴隊長もそう云ったんですけど、式部隊長が待っ
てるって云って。。。"
さらっと返された藤堂の答えに、藍川の艶やかな唇がぷくっ
と尖る。
 "藤堂君さぁ。。。ほとんど寝てなくてこのお肌なの?"
藍川の鮮やかなアップルグリーンの目が間近から、舐める
ように藤堂の顔を覗きこんだ。
"え!?あ。。。はい"
"いいわねぇ。若いって"
手袋をはめたままの指がつーっと藤堂の頬の上を滑った。
"若いって。。。藍川隊長とあまり変わりませんが?"
あ、まずい。。。悪い予感がして佐伯が藍川を見た時には、
もう遅かった。
藍川のもう片方の手も藤堂の頬に触れていて、両頬を軽
く抓むようにして口を横に伸ばしていた。
「らっ。。。!」
突然の行動に驚いて出しそうになった大声を飲み込んで、
佐伯は藍川に走り寄って背後から手を伸ばし、藤堂の顔
を掴んでいた手を離させた。
"蘭美っ!何するのっ??"
「だってさ、不公平だと思わない?」
しーっ!と、藤堂と藍川の間に立ちはだかった久宝が唇の
前に指を立てる。
"私達は手間もお金もかけてお手入れしてんのに。この人
達なんて何もしてないのに、なんでこんなにお肌綺麗なの?"
佐伯が押さえていた腕を離すと、その責めるような視線から
目を逸らせて藍川は、ぷんっ!と頬を膨らませた。
"蘭美〜。。。"
溜息をひとつついて、佐伯が藤堂の頬を軽く撫でた。
"痛かった?ごめんなさい。。。"
きょとんとしていた藤堂はそれでやっと我に返った様で、首
を左右に強く何回か振った。
"い。。いえ。ちょっと驚きましたけど"
久宝も心配そうに藤堂の顔を覗き込んできた。
"指の跡。。。ちょっと赤くなってる"
2人に頬を撫でられて赤くなっていた藤堂の顔が白くなり、
ふっ、と、真直ぐ前に向けられていた視線が固まった。
"。。。あ!"
悪い予感が佐伯の背筋を走ったその時だった。
「んっ!」
すぐ近くで上げられたその声に佐伯と久宝が振り返ると、
藍川は藤堂としたのと同じように、式部の頬を両手で掴
んで左右に伸ばしていた。
「あいふぁわたいちょぉ〜??」
瞳が見開かれ、式部が驚きの声を上げた。
口を横に引っ張られて伸ばされているので、ちゃんと喋れ
ていない。
「も〜っ!蘭美っ!!」
「藍川隊長っ!やめてくださいっ!!」
佐伯と久宝が飛びつくように、藍川の腕を取って式部の
頬から指を剥がし取った。
突然手が離されて、呆然としたまま式部はソファに背中から
倒れこむ。
「だって絶っ対ズルいわよ!徹夜してこの顔、この髪何って
感じ!そう思わないっ??」
「あ〜も〜!思う思う。アナタの云いたいこと分かったから」
押さえつけていた2人を振り払うと、つん!と上を向いて、
藍川は大股でずんずんと歩いて待機室を出ていってしま
った。

「あっはっはっは!そりゃ〜災難だったな」
「笑い事じゃないよ。ホントに驚いたんだから」
「だけどさ、ありえねーじゃんそんな事!」
「だからぁ。。。笑い事じゃないってば。。。」
まだ少し赤味の残る頬を押さえて、式部が恨みがましく
云った。それを見て、御子柴が眼を細める。
藤堂の頬の赤味はもう取れていて、腫れも残っていない。
「お前の方が強くやられたんじゃねぇ?まだ腫れてんぞ」
式部の顎を掬うようにして上を向かせ、御子柴が左右の
頬を見比べるように眺めて云った。
顎に当てられていた手を叩くようにして払いのけて、式部
は御子柴を睨んだ。
「それにしても清寿がびょ〜んってされてるとこ、見たかった
な!」
ぷぷっ!と御子柴が、さも可笑しそうに吹き出した。
「じゃ今度ベッドの上ででもやってみればっ。思いっきり指
噛んであげるからっ!」
そう云い捨てて式部がぷいっ!と横を向き、藤堂は慌て、
冷えた保冷剤を持ってきて偶然そこに居合わせた佐伯は
目を丸くして頬を赤く染めた。
「これ、笑太君のせいだって。分かってる?」
状況が分かっていない様子でけろりとしている御子柴に、
式部は少し嫌味な口調で責めるように云った。
「へ?俺のせい?」
式部の横で、藤堂もこくこくと頷いている。
「ごめんなさいね。。。」
佐伯が眉根を寄せ、表情を曇らせた。
「自覚が無いから始末が悪いよね。これどう見てもとばっちり
なのに。。。」
受け取った保冷剤を両頬に当てて、冷たっ!と呟いて首
と肩を竦めた式部が、もう一度御子柴を睨むように見た。
「お前が綺麗なのがいけないんじゃねぇの?」
「違うって!」
「違いますよっ」
式部と佐伯に一斉に突っ込まれて、今度は御子柴が顔
を顰めて首と肩を竦める。
「なんだよ〜!」
「ホントに分かってないの、笑太君?」
はぁぁ。。。と、藤堂まで大きな溜息をついた。
「今回の件は後で蘭美に謝らせにくるから。。。」
「いいよそんなの。あんな所で眠ってた僕も悪いし」
式部は佐伯に少しだけ困ったような微笑みを向けた。
「いつもならあそこには笑太君が寝てるから、次は僕らじゃ
なくて直接本人にやってほしいなぁって」
「云っとくわ」
「よろしく」
「ごめん。話見えてないんだけど。。。」
おずおずと切り出した御子柴の言葉を、式部も佐伯も軽く
無視して話し続けた。
「前途多難だっていうのは伏せておいた方がいい?」
「そうだね。そこら辺は任せるから。佐伯さんも大変だね」
「そうね。でも大変さでは副隊長には敵わないと思うわ」
ふぅ。。。と太い息を吐いて、もう一度式部に丁寧に謝った
後、佐伯は待機室から出て行った。
「なんだかさ、俺だけ仲間外れ?」
ぼそっと呟いた御子柴を、式部はもう睨む気にもならなくて、
呆れた顔で見返しただけだった。
「ところで笑太君、今日はもう帰れるの?」
「そうそう。まだだって。あと1件、今日の分があるってさ」
「ええ〜っ!?ちゃんと眠れなかったのに。。。」
「でも目は覚めてるだろ?早く片付けて早く帰らせてもらおう。
ホラ、羽沙希も。行くぞ」
「顔だけでも洗いたい」
「全然キレイだよ。大丈夫。さぁ、早く」
「抓られ損。。。?した気分」
「ワケわかんねぇって。気ぃ散ってるとケガすんぞ」
「。。。鈍感」
「はぁ?」
「なんでもないよ。行こ、羽沙希君」

その日一日、式部の頬はほんのり赤いままだった。。。


                ―The end―






P.S.
本誌連載も第二部隊メインの話だし、
こちらも第二の話にしてみました。
蘭美ちゃんにしか出来ないこと何か無いかな?
と、考えてみたところ、
清寿の顔みょ〜ん(笑)になりました。
美人はね、やきもち妬いても可愛いの♪(笑


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