―The Time before Lunch Break―



「先に片付けしちゃうから。笑太君、お風呂に入ってくれば?」

それに返事も返さずに、俺はソファの上で伸びをした。
後味の悪い任務を終えた夜はいつもこんな感じだ。
最も、後味の良い処刑なんてものは有り得ないけど、な。。。
気になることが一つでもあると、他のこと、自分の生活なんかもどう
でも良くなってしまうのは悪い癖だと分かっている。
多分俺ひとりだったら、ごはんも食べないでぼーっとしているだけだ。
こんな時、呆れながらも家事をしてくれる人が居るのはありがたい。
五月蠅いけれど色々家の中のことをやってくれているタマと、タマの
居ない日にこっちに泊まりに来るとまめに面倒を見てくれる清寿には、
こうやって時々心の中で感謝はしているんだけど、伝わっているんだ
かどうだか。。。
口下手なのを治す気は無くて、すっかり諦めてしまっている。
目の前のキッチンで洗物をする、食器と食器が触れ合う音と水が
流れる音を聞きながら、そんなことをとりとめなく考えていた。
「疲れちゃったの?先に寝ててもいいよ」
ぼんやりしている俺を気遣って、清寿が声を掛けてきた。
「もう終わる?」
「もう少しかかる」
「手伝う?」
「いい。笑太君は休んでて」
清寿はエプロン姿で振り返って、笑顔だけこちらへ寄越す。
空気まで優しくなりそうな、そんな微笑みを。
ふぅ。。。
鼻から一回息を吐き、ベッドへ移動してごろん、と寝転ぶ。
目を閉じたけれど、気が昂っていて眠れそうにない。

洗物が終わったようで、キッチンからは何か違う音がする。
「何してんの?」
光を遮るように目の上に交差させた両腕を当てたままで、清寿に
向かって言葉だけ投げる。
「ナイショ」
楽しそうな声が返ってきた。
「ねぇ、連休中呼び出し有ると思う?無いと思う?」
明日から国民の休日で、一応公務員な俺達は非番という事に
なっている。
「分からねぇなぁ。。。」
裁判所が休みでも、既にRot法が適応されて死刑判決が出た
犯罪者は沢山逃げている訳だし、そいつ等に祝祭日なんて関係
ない訳だし。。。
「きっと呼び出し有るよね?明日とか。。そんな気しない?」
カレンダーの上では、明日から世間では3連休だ。
けど俺達は、そんなに続けて休めたことは今まで一度たりともない。
確かに、明日あたり呼び出しがかかりそうな嫌な予感がする。
「あ〜あ、メンドくせぇなぁ。。。」
年に1度くらい、2〜3日でいいからゆっくり休みたい。
うちでは無理でも、ここ、清寿のうちならごろごろしてても怒られない
だろう。
清寿は口では文句を云うが本当は俺に甘くて、大体はしたいように
させてくれる。
そんな事を考えていてふと気付くと、鼻歌が聞こえてきていた。
「。。。マジで何してんの?清寿?」
「ナイショ、って云ったでしょ?だからこっちに来ないでね」
本当に楽しそうな口調。
覗きに行きたい衝動は、先手を打たれて封じられてしまった。
もう一回、鼻から大きく息を吐く。
まな板に包丁が当たる規則的な音。
かちゃかちゃと何かを掻き混ぜているような音。
何を作っているんだろう。。。?
そう思っているうちに、睡魔に意識を攫われてしまった。

「はい。了解しました。30分以内に行きます」
清寿の声で目が覚めたら、もうすっかり朝だった。
窓から降り注ぐ朝日が眩しくて、一回開いた目をまた閉じる。
「笑太君、笑太君!」
電話を切ってから、清寿が俺の身体を揺する。
「あ〜?」
起きてなかったフリをする。
「予想通り呼び出しだよ。早く起きて支度して!」
清寿に両腕を引っ張られ、無理矢理身体が起こされそうになって、
慌ててそれに抵抗した。
「わぁ〜ったよ!自分で起きるからっ」
にこ!と笑って、清寿が手を離す。
「あ〜っメンドくせ〜なぁ」
「はいはい。汗だくなんだから、さっさとシャワー浴びてきて」
頭をがりがり掻きながらぼーっとしていると、また手を引かれて立た
されて、追いたてられるようにバスルームに押し込まれた。
そういえば。。。いつから起きていたんだか、清寿はもうすぐにでも
出掛けられる感じに身支度が出来ていた。

「笑太君、タイムアップ!朝ご飯は抜きだからね!」
バスルームから出てきた途端、そう云われた。
「でも。。。なんかイイ匂いするんだけど」
部屋中に美味しそうな食べ物の匂いが漂っている。
「あ、これ?これね、お弁当」
清寿が満面の笑みを浮かべて、テーブルの上に置かれた包みを
指差す。
昨日の夜作っていたのはこれか。。。と納得。
けれど気になったことが一つ。
「。。。これ、何人前だよ??」
大きな包みが数個。かなりの量だ。
「だって僕達が呼び出されたってことは、部長とか諜報課の人達
とか出勤して普通に仕事してるってことだよね?」
手で早く着替えろと俺を急かしながら、清寿が笑顔で答える。
「休日出勤お疲れさまでしょ?って云うか、あの人達年中ほとんど
休んでないからたまには労ってあげないと、と思ってね」
はぁぁ。。着替えながら、呆れ顔で清寿を見てしまった。
「お昼にみんなで食べよう。今日はお天気いいから中庭で、なんて
どう?」
こういう面倒見が良くて、心配性で、ちょっとお節介すぎるところが
清寿の良いところでもあり、面倒臭いところでもある。
「お前さぁ。。。もし今日呼び出しされなかったらどうするつもりだっ
たんだ?」
その言葉に清寿は、片目を瞑って確信の笑みを投げ返してきた。
「なんか今日は絶対に呼び出されそうな気がしてたんだ。残念な
がらこういう勘は外れないんだよね」
そういう勘はありがたくないなぁ。。。
上を向いて、溜息をつく。
「今日は笑太君が居てくれて助かった〜!ハイ、これ持って」
いくつかの包みを持たされて出勤する羽目になった。
清寿の気持ちがたっぷり詰まったお弁当は、とてもとても重かった。。。


―To be continued―






P.S.
これは6月のイベントで発行する同人誌
『Lunch Break』でメインになる話の前日談。
お弁当持参で出勤した笑太と清寿。。
さて、どんな事が起こるんでしょう?(^-^*

Informationも見てみてくださいね♪


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