―Find a Point of Compromise― 
       after “Mission1


「御子柴隊長は式部隊長の事、どう思ってらっしゃるんですか?」
羽沙希から投げかけられたのは唐突な質問だった。
「んー。。。」
どう答えたもんだろう?
無意識に視線を上に遣る。
暗い夜空からは大粒の雨が降り続いていた。
その雨がコンクリートの庇を伝って、ビルの入口に座り込んでいる俺達3人の足元に
絶え間無く落ちてきている。

ほとんど廃墟と化し、半分崩れかけたようなこのビルの一室でつい先刻処刑を終えた
ばかりで、俺達の制服や髪からは血のニオイが漂っていた。
湿度の高いねっとりとした空気が、それを増幅させている。
このニオイに弱い清寿はすっかり参ってしまっているようだ。
終わってすぐに処理班に連絡したのにまだ到着しないので、現場保存の為ここからは
動くわけにはいかない。けれどその部屋にそのまま居るのは耐えがたかったので、ビル
の外まで出て、入口にあった数段の階段に座って待つことにした。
俺の左側に清寿がしゃがみ込むように座った。
手袋を脱いだ両手で鼻と口を覆っていて、何も喋ろうとしない。
いつまでも立っている羽沙希の袖を引っ張って、右横に座らせる。
そして無言のまま、来た時よりも強くなった雨音だけを聞いていた。

左の背中に重みと体温を感じ、あれ?と思う。
規則正しく、こくん、こくんと清寿の額が肩甲骨の辺りに軽く当たってきたのだ。
居眠りを始めたらしい。
コイツが他人の前でこんなに無防備な姿を見せるのは本当に珍しい。
普段はいつも穏やかで明るくしているけれど、他者とは常に一定の距離を保ってスキを
見せないようにしているのに。
こくん。こくん。
本当はその頭に手を添えて俺の肩に寄りかけてやりたいが、触れると起きてしてしまう
だろう。
下手すると反射的にワイヤーが飛んでくるかもしれない。
仕方なく、そのままにしておいた。
右肩越しに羽沙希がぴょこんと顔を出して覗き込み、目を丸くした。
清寿の不眠症は周知の事実で、居眠りするところなんて見ようと思ってもなかなか見ら
れるもんじゃない。
俺は人差し指を口の前に立てて、声を出さずにしっ!としてみせる。
こく。
無言で頷いて、羽沙希は顔を前に、膝を抱えて座り直した。
まもなく、清寿の体重が完全に俺の左半身に乗ってきた。
微かに寝息も聞こえる。
雨音以外の音が無い、静かな夜だった。
そろそろ処理班も着く頃だけど、もう少し寝かせてやりたい。。。
そしたら、いきなり羽沙希が口を開いたのだ。

「俺にとっての清寿?あー。。。"大切な人"かな?」
絶対に喪いたくない、そういう意味で。と付け加える。
「ちなみにお前も、な」
真面目な顔で云ったら、羽沙希が頬を赤くした。
お!?珍し〜!
そう思ったのが表情(かお)に出てしまっていたのだろう。
俺の顔からふいっと視線を逸らし、羽沙希は口を尖らせるようにして呟いた。
「いえ、そういう意味ではなくて。。。」
ん?じゃ、どういう意味なんだ?
言い出し辛そうに押し黙ってしまった羽沙希を見て合点がいった。
「それは恋愛感情とか、ってコトか?」
羽沙希の顔色が更にぱっと赤くなった。
「。。。やっぱりこの前見てたんだな」
あはは!と明るく笑ってみたが、羽沙希は俯いてしまった。
たった1回の戯れみたいなキス。
でもまぁ羽沙希にしてみれば衝撃的な場面だったのかもしれない。
それにしてもこんな姿を見せるなんてこいつも変わったな。。。なんて、
実はちょっと見当違いの事を考えていたなんて本人には云えない。
「"あれ"は俺が仕掛けたんだ。清寿は関係ない」
羽沙希は目を丸くして俺の方を見た。
「仕掛けた?」
「そう。スキを狙って」
片目を瞑ってみせる。
「なんでそんな?。。。」
それについての説明は難しい。
清寿見てたら衝動的に。。。なんて総隊長としては決して云えないし(笑)
「な、羽沙希。お前彼女とかいないの?」
その質問に、羽沙希は口籠り、頬を紅潮させた。
「あ。。。はい。いません」
「。。。もしかして今まで全くカノジョがいたことないのか?」
「はい。。。興味が無かったので」
俺の中の"からかってやりたい心"に火が点いた。しかも最大火力で。
「じゃ、キスの仕方を教えてやろうか?」
え?!と露骨に顔色が変えて、俺から身体を遠去けようとした羽沙希の左腕を掴もうとして
手を伸ばした。
「コラ逃げるな!総隊長命令だぞ」
「え!?でもそれは聞けませんっ!」
反対側に清寿が寄りかかっているので体勢を変えないようにしたのが仇になって、もう少しの
所で逃げられてしまった。
一瞬で数メートルも飛び退いた羽沙希の、そのいじめられっ子顔がツボにはまり笑いが込み
上げてきた。
全身を震わせて笑いたいのを耐えている俺を見て殺気を漂わせ出した。。。
そんな絶妙なタイミングで処理班と諜報課一班が到着して、羽沙希は無事開放されること
になった。
なんて運の良いヤツだ!
少し離れた所でこちらを睨みつけている羽沙希は毛を逆立てた猫みたいに見えて、思わず
爆笑してしまった。
目を覚ました清寿と処理班や諜報課の連中にアヤシゲに見られても、笑いが止まらず困って
しまった。

くすくすくすくす。
笑太君が諜報課の柏原班長と現場に戻ってしまってから、我慢しきれなくなって吹き出して
しまった。
「?。。。式部隊長?」
「あ、ごめんね。でも可笑しくって」
当人はいつもの無表情に戻っていたけれど、それがまた可笑しくて可笑しくてしょうがない。
「。。。もしかして式部隊長、起きてましたか?」
羽沙希君の無表情な仮面が破れ、先刻みたいな素の顔が覗く。
「うん。途中から」
「どこら辺からですかっ?!」
マズい!ツボにハマってしまった。
未だかつて見せたことのない羽沙希君の人間臭い表情に、悪いと思いつつも笑いが止まら
ない。
「どうした?何笑ってる?」
笑太君が戻ってきて、訝しげな表情(かお)をした。
もうすっかり特刑総隊長の顔で。
「うん?何でもない」
笑いすぎて涙が出てきた。
何だよ〜?というような表情でこちらを見下ろしていた笑太君の耳元で、こそっと囁く。
「笑太君、キス魔??」
見る見る笑太君の顔も赤くなった。
あはははは!
笑い転げる僕と真っ赤になった笑太君、困惑した顔の羽沙希君を、少し離れたところから
柏原班長がじっと見ていたのには気付かなかったけれど。


もう少しこのままでいたい。。それが唯一の願い。
このままでいい。
このままがいい。。。
いつまで?いつまでも。。。


                       ― The end ― 






P.S.
なんとなく、仲の良い第一部隊を
書いてみたくて。。。
羽沙希ってば、きっと、この質問をする前に
何日もぐるぐるしてたんだろうなぁ〜(笑
そんな設定で書いてみました。


Back