―Inexact Dream―  after“Mission1”


「あ、そうだ。コレ」
突然手渡された小さな袋の中には、口臭予防用の含嗽液とリップクリームが
入っていた。
ん〜?
意味が分からずきょとんとしている俺を上目遣いに見て、清寿は笑顔で続けた。 
「笑太君。寝起きの口、臭かったよ(笑)」
にこ。
くるん、と瞳を動かして、邪気なぞ全くないような顔で。
あ〜悪かったな!
片頬の筋肉がピクピク引き攣るのが分かった。
そんな俺の顔を覗き込んで、清寿はヤケに嬉しそうだ。
なんか悔しい。
しかもこの含嗽液、一番強烈なヤツだし!
釈然としないまま、リップクリームを手に取ってしげしげと観察。
「俺、リップ苦手なんだよね。。。なんかベタベタしそうで」
えへ。
意味ありげな微笑み。
何だ?その笑いは?
「僕はいつも付けてるけど、この前ベタベタしてなかったでしょ?」
絶句。
あの時の清寿の柔らかい唇と舌の感触が、自分の唇の上に蘇ってきた。
顔に血がカーッと上って、アリエナイくらい赤面しているのが自分で分かる。
ヤバ!意識するよりも早く、身体が反応してしまった。
「笑太君、唇ガサガサだったから使った方がいいよ」
ふふふ。
まさしく、花のような微笑。
でももしかして、これってイヤミ!?
我ながら鈍過ぎる。
「あまり香りがあるとイヤかな〜と思って、薬用リップにしたんだよ」
俺の反応なんかお構いなしに、清寿は喋っている。
「時々唇割れて血が出てる時があるし」
確かに時々、めちゃめちゃ唇が荒れて痛い時がある。
う〜ん。。。"あの時"はどうだったかな。。。?
そこまで考えて、ハッと我に帰る。
俺の頭の中の逡巡を見透かしたかのように、清寿はにこにこ笑っていた。

ホント、俺はこいつには勝てない。

「そんなの忘れた」
出来るだけぶっきら棒に言い返す。
本当は忘れられるワケが無い。バレバレの嘘だ。
清寿は一瞬、へー!と意外そうな表情(かお)をしたが、次の瞬間にはまた
悪戯っぽい笑顔に戻って云った。
「じゃ、触ってみる?」
顔を少し上向きにして、清寿は顔を俺に近付けてきた。
サラサラと、長い髪が肩へ流れる。
「それとも、もう一度キスしてみる?」
ええっ?!
またもや絶句。
極上の微笑みが俺に向けられている。
紫色の邪眼が、俺を射抜く。
これは誘惑?それとも挑発?
顔が燃え出してしまうんじゃないかと思うくらい熱い。。。
どくん。どくん。
心臓が左胸を内側から激しく叩いている。
自分の呼吸音だけが大きく聞こえ、視界が清寿中心に撓んだ。
言葉が途切れ、沈黙。
こちらは心の中でこんなにも葛藤しているというのに、清寿は今にも噴き出し
そうなのを必死に耐えているようで、肩を小刻みに震わせている。
それを見て理性が灼き切れて飛んだ。

えーい!どうにでもなってしまえ!!

突然ぐっと清寿の両手首を強く掴んで、ぐいっとこちらに引いた。
「!? 」
俺の予想外の行動に、清寿は姿勢を崩して前によろめいた。
その身体を受け止めるようにして、唇を奪う。
波打つように、しなやかな清寿の髪が2人の周りに広がって、落ちる。
ふわ。
清寿の香りが広がる。
この前はされるがままになっていた清寿の舌が、今回は俺の舌を求めてゆっくりと
絡みついてきた。
吸い付くような質感の唇。シルクのような舌先。。。
まんまと挑発に乗ってしまった―――また俺の負けだ。。。
本当はこのキレイな首筋に噛みつきたい。
思い切り吸って、俺の印を残したい。
でも、そうしても、清寿は俺のものにはならない。
清寿の心には触れられない。癒せない。
その一番奥にある深い闇を見せる事は決してないのだから。。。

自然に、唇と唇が離れた。
清寿は顔を伏せたまま、俺の胸に額を押し当ててきた。
まだ鼓動が早い。呼吸が整わない。
深呼吸。
けれどこれは逆効果で、清寿の髪の香りを思いっきり吸い込んでしまって下半身
まで熱くなる。
落ち着け!落ち着け。。。
格好良くキメたいのに、このままでは動揺しているのがバレてしまう。
「笑太君。。。手、離して」
まだ掴んだままだった両手首を慌てて放す。
清寿の身体の一部のように動くワイヤーの動きを封じる為に最初に固定部を押さ
えてしまう、という作戦は成功。
清寿はその体勢のまま、顔を上げずに呟いた。
「冗談だったのに。。。」
じゃ、今回は俺の勝ち?
優越感に浸った次の瞬間、清寿の身体がぐずりと崩れ出した。
「。。。!」
確かにあった質量が失われ、色彩さえも失われ、空気の中に飛散してゆく。
何が起こっているのか分からないまま、必死に身体があった辺りを手で掻き寄せ
たが、手のひらには何一つ残らなかった。
「清寿っ!清寿っ!!」
俺を置いて逝かないでくれ。。。


「何?笑太君」
目の前には清寿のにこやかな笑顔。
ものすごい至近距離で、清寿は俺の顔を覗き込んでいた。
バカ!そんなに近付くな!
気まずくて、ふいっと視線を逸らす。
「だって呼ばれたんだもん(笑)居眠りしてたでしょ〜?うなされてたよ。
夢に僕が出てきた??」
ああ!出てきたとも!
夢オチなんてサイアクだ。。。
「もー!仕事中だよ〜笑太く〜ん。ちゃんと目、覚まして!」
清寿の両手がぴたぴたと俺の両頬を打つ。
ダメだ。今俺に触るな、清寿。
向こうに、羽沙希が無表情に立っているのが見えた。
その様子を見て、冷静さを取り戻す。
こいつがもう一人のメンバーで助かった。。。
「で、笑太君。ターゲットの潜伏先の目星は付いたの?」
だ〜か〜ら!そんなに近付くなって!
「う〜んと、諜報課からの資料によると。。。」


――― 俺、やっぱり餓えてるのかな。。。?


             ― The end ―






P.S.
禁断の夢オチ。
一度書いて見たかったので(笑)
Mission1のサイドストーリィです。


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