09. 今はこれが限界


「清寿!大丈夫か?!」
「う。。。ん。平気」
「平気ぃ?大丈夫じゃないんだろっ?」
「お願い笑太君、大きな声出さないで。。。」
「。。。傷に響くのか?」
「うん。キツい」

指先から、鮮血が滴り落ちていた。
腕を掴んでいる指の間からも、血が流れ出して
いた。
前髪の間から、苦痛に歪み紫色になりだした
唇が見える。

ノイズだらけの無線に通じてくれ!と念を込めて
インカムマイクに向かって叫ぶ。

「柏原聞こえるか?大至急救護斑呼べっ!」

大口径の銃弾が掠ると、肉が抉れて周囲が
焼け爛れる。
また大きな傷を作ったな。
清寿が着任早々の任務で受傷した腹部には、
大きく深く爛れた形のままの瘢痕が残っている。
更衣室でたまに見てしまうと、ギョッとする様な
傷痕だ。

「へ。。。いき。。。だから。。。」

出血量が多すぎて、止血が間に合わない。
俺の顔を睨む紫色の瞳が、痛みに歪んで
潤んできた。

「平気じゃないだろ?」
「。。。」
「平気じゃないんだろ?!」

清寿が俯くと、長い髪で顔が隠れた。

痛い、と、呻き声を上げればいい。
助けて、と、縋り付いてくればいい。
歯を食いしばって耐えるのがコイツらしいと云え
ばそうだけど、まだ気を許して貰ってない様な
感じがして、焦燥感が胸を灼く。

「。。。よぉ」

聞き逃してしまいそうな小さな呟き。

「あぁ?何か云ったか?」

語調にもイラ立ちが隠せない。

「痛い。。。痛いよぉ」

ポタッ、と、涙の粒が床に落ちた。
埃まみれの床に雫が弾けて、正円形の跡が残る。

「!」
「笑太君。。。」
「何だ?」
「ごめん。もう。。。」

ガクッ、と、全身の力が抜けて、床に崩れ落ち
そうになったところを抱きとめる。
抱き抱えて仰向けにすると、蒼白になった頬に、
顎まで伝った涙の跡がついていた。

「バカ。我慢しすぎだ」
「う。。。」
「力抜け」

抱き上げると振動で傷が痛んだのか溜め息を
ひとつつき、頭が肩に寄り添う様に傾けられた。
軽そうに見えて、筋肉のせいか軽過ぎない体。
細い肩と腰に回した腕の位置を直し、現場を
後にして諜報課が待機するバンへ向かう。

「ごめん。。。ごめん。。。」
「喋らなくていいって」

うわ言の様に繰り返される謝罪の言葉。
やんわりと口を閉じさせようとしたら、優しい笑み
がその顔にゆっくりと広がっていった。

「笑太君。。。大好き」
「はぁ?!」

思わず清寿の身体を取り落としそうになった。
真意を聞き質そうかと思ったが、固く瞼を閉じた
清寿の顔からは完全に表情が無くなっていて、
声を掛けるのは憚られた。

委ねられた言葉の重みに、迷いが生じる。
お互いを認めてはいるが、完全に受け入れ合っ
てはいない。

今はここまでが限界。

これ以上踏み込んでいいのか、分からない。


―つづく



さて。
この先どうなる
んでしょう?
次のお題で
一区切りなハズ
なんですが。。
08/08/02Sat.

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