―01畳の上で


パチッ。
突然視界が明るくなって、目が眩んだ。
何回も瞬きをしてやっと見えるようになった周囲の様子から
目を背け、式部は片手で鼻を覆った。
臭気から大方予想はついていたけど、と、溜め息しか出ない。
「電気、まだ来てたんだ?」
耐え難い腐敗臭。
薄い布製のマスク等無いにも等しいくらいの、強烈な悪臭。
足をつく場所を慎重に選んで歩いても、ブーツの先がぐじゅっ
と沈み込むイヤな感触があった。
「ああ。まだライフラインは全部生きてる」
一通り建物の中を見てきたらしい御子柴も、この部屋に一歩
入った途端に眉を顰めた。
「酷いな。これ、何ヶ月経ってんだ?」
御子柴に遅れて部屋に入ってきた藤堂も、今までどんな凄惨
な情景を見てもあまり表情を変えることがなかったのに、今回
ばかりは少し青ざめた。
散乱する死体は全て腐敗しており一部白骨化して、数人分、
としか判断出来ない。
部屋の端で辛うじて人間(ひと)の形を保っている一体が、たった
今式部が処刑した死刑囚のものだろう。
「任務完了。もう限界。苦し。。。」
畳の、屍骸から出た糞尿や組織が融解する時に出た汁を吸っ
て腐った部分を避けて歩み寄ってきた式部の身体を受け止めて、
引き摺るようにして部屋の外に出す。
「良くやった。お疲れ」
ぐったりと全体重を預けてきて肩の上に顔を伏せ、浅い呼吸を
繰り返している式部の背中を撫でながら、御子柴は処理班へ
の連絡を済ませた。
「もう大丈夫。深呼吸してみ」
いつまでもしがみ付いて離れようとしない式部の腰を抱いた格好
で、階下にある玄関の外まで連れて行ってから声を掛ける。
「ニオイが鼻に付いてて。。。自分も臭う気がする。。。」
「お前はニオイに弱いからなぁ」
御子柴は、鼻を両手で押さえ込み長身を縮めるようにして固ま
っている式部の頭をあやすように撫で下ろしながら、鼻から長く
太い息を吐いた。
ふんふんふん。
腕の近くで鼻息がしたので式部が顔を上げて見ると、藤堂が目
を閉じて鼻を突き出していた。
御子柴と式部が息を殺して見守る中、藤堂は式部の身体の
周りを一周するように臭いを嗅いでから、すっ、と、顔を上げた。
「大丈夫です」
緑の瞳が真直ぐ式部の視線を捕らえ、真剣な口調で断言した。
「いつものいい匂いしかしません」
呆気に取られ何も云えずに見返している式部の前で、御子柴が
思いっきり吹き出した。
つられて式部も笑い出す。
「羽沙希君わんこみたい!可愛すぎ〜っ」
諜報課や処理班が現場に到着した時、御子柴と式部は大笑い
していて、藤堂は不思議そうな表情(かお)で頚を傾げていた。
「なんだ?藤堂またイジられてんの?」
くるん、と、大きく目を動かして首を突っ込んできた柏原に、式部
は御子柴から身体を離しながら微笑み返した。
「ううん。羽沙希君が居てくれて良かったって、そう思ってたところ。
だよね?笑太君」
笑いを噛み殺して涙ぐんでいる御子柴に頭をぐりぐり撫で回され
ながら、藤堂は式部の顔を上目遣いで見上げながら尋ねた。
「僕。。。可笑しいですか?」
「ううん、全然!ず〜っとそのままで居てね」
式部に突然ぎゅっと抱き付かれ、戸惑った表情で頬を紅潮させ
ている藤堂を見て、御子柴はこっそり安堵の笑みを漏らした。


―DIVE TO BLUE―



畳の上で。。って。。
『DOLLS』の世界に畳、あるのか?
と、設定がなかなか思い付かずに
お題の1番目なのに書けなくて、
一番苦しんだ話(涙
鼻ふんふん!の羽沙希君は
柴犬の子犬(もしくは豆柴)のイメージで
読んでくださいね♪(笑


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