―10雨の中で*R-15*


―――力抜いて。
耳朶に付くほどに寄せられた口から吐息のよう
に発せられた言葉を、唇の動きで追う。

式部は御子柴の肩に両腕を回し、唇を求めた。
絡めた舌はそのままに、唇だけは何度も角度を
変えて愛し合う。
「ん。。。ぅん。。。はぁっ。。。」
腰に回された御子柴の手の微かな動きすらも
愛撫のようで、式部の息が甘い響きを帯びる。

―――もっと欲しがれよ。
囁くだけで、囁かれるだけで、身体の奥が灼け
つきそうに熱く疼く。

身体を押し付けると自然に腰が揺れそうになり、
式部の閉じられた瞼の間に涙の粒が浮かぶ。
御子柴は片手を式部の腰から外し、手のひらを
滑らせるようにして頬から頚までを優しく撫でた。
何回も優しく撫で続けられて、涙が珠になって
光りながら頬を伝って落ちる。
それは地面に達するまでに砕けて、雨に混じって
足元を濡らした。

―――もっと乱れるくらいに。
激しい雷雨で歩いている人は少なくて、ましてや
こんな普段から人通りのほとんどない道を歩く者
など居ない。
2本の傘を重ねあって、その下で抱き合う。
互いを味わう湿った音は、雷鳴と雨音に紛れて
誰にも聞かれることは無い。
結び合っている口元も、多分見られることは無い。

薄く汗ばんだ式部の肌の、しっとりとした質感を
慈しむように、御子柴は胸元に手を伸ばした。
「あぁ。。。あ。。。だめ。。。」
胸の突起を甘く抓られて漏れてしまった声を、
式部は必死に飲み込んだ。
外なのに、こんな。。。!と抵抗はあるのに拒み
きれなくて、式部は御子柴の下唇に甘く歯を立
てた。
「今夜一緒に過ごせないんなら、笑太君お願い、
もうこれ以上煽らないで。。。」
御子柴は下を向いた式部の唇を掬うように追い
詰めて、潤んでいる紫の瞳を閉じさせた。
そして舌を軽く噛み返す。
「俺は清寿が欲しい。いつでも何度でも、清寿
の全部が欲しい」
独白のような呟きの切ない響きに痺れて、式部
は動けなくなった
「清寿、もっと求めて」
腋の下から回された力強い腕に頭を押さえられ
て、拒むことを封じられ、くちづけを交わし続ける。
「笑太君、帰らないで。。。っ!」
叶わないから願い続ける。
願い続けるから叶わないのか。
ならばこのまま雨が降り続けてくれればしばらくは
こうやっていられるのに、というささやかな願い事も、
願うから叶わないのかもしれない。
そう思っても願うことしか出来なくて、式部は最後
の望みを口にした。
「ひとりに、しないで。。。」

一際激しくなった雷鳴と雨音で掻き消され、その
言葉は御子柴に届くことは無かった。


―月のしずく―



このお題で最初に書き出した話は
長くなっちゃったので別の部屋へ。。
本編でも雨降りの日、
やたらと多いような。
そのせいか雨の日が舞台の話は
結構書いてるかも。。
何故かちょっと苦戦した話、でした。



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