―Person with a Cold *笑太編*


本当はとっくに気付いていたんけれど、云い出すのには
タイミング、というのがあって。。。
「ねぇ、ちょっとこっち向いて?」
隣のロッカーの前で着替えだした笑太君に声を掛ける。
「ん?何だ?」
こっちを見た青い目が潤んでいた。
「もしかして、熱、あるんじゃないの?」
前髪が長いから見えづらいし、任務中はマスクをしてい
たから顔が隠れてて確証は持てなかったんだけど。。。
やっぱり顔、真っ赤だ。
「身体、熱っぽくない?」
「あ。。。うん。多分、そうかなぁ〜とは思ってたけどさ」
今日最後の任務はまだ捜査段階で、事件自体も入り
組んでいるので、笑太君はどうしても抜けられなかった。
だから途中で顔が赤いのには気付いたけれど、そこで
熱があるんでしょ?と云うのは憚られて、黙っていた。
「途中から気にはなっていたんだけど云い出せなくて。。。
ごめんなさい」
「ん。。。謝ることないよ。今日のはどうにも抜けられなか
ったからしょうがない」
「僕がもう少ししっかりしていれば。。。」
大きな手のひらが僕の頭の天辺をぽんぽんっと軽く叩いて、
紅潮した顔に優しい微笑みが浮かぶ。
「いや。お前は充分頑張ってくれてる。大丈夫」
そんな言葉を貰った嬉しさよりも、その手のひらがとても熱
いのが気になって、笑太君の首に腕を回して抱きついて、
頬に頬で触れる。
「わっ!冷たい」
「ひんやりして気持ちいいでしょ?」
「ああ。気持ちいい」
僕の身体はいつも冷たいらしくて、いつでも温かい笑太君
は熱帯夜でも、眠る時にくっついていても邪険にしない。
確かにあまり汗を掻かないし、自分で触ってもひやりとして
いるけど。。。それがこんな風に役に立つとは思わなかった。
「お。。。お先に失礼しますっ!」
羽沙希君がまんまるに見開いた目をこちらの視線から背け
るようにして、慌てて更衣室を出て行ってしまった。
「ヤベ。。。羽沙希本気で驚いてたな」
「う。。。うん。ちょっと羽沙希君居るの忘れてたかも。。。」
てへ!と舌を出して笑ってみせたら、笑太君も照れたよう
に笑って、目を閉じながら唇を近付けてきた。
あ、キスされる。。。と思ってこちらも目を閉じたのに。。。
いつまで経っても唇が重なる感触が無かったので、薄目を
開けて様子を伺ってみた。
すると笑太君の顔が真顔になっていて。。。
「今日はダメ。感染(うつ)っちゃうから」
「え〜っ?!僕が風邪ひいた時にはキスしたがるくせにっ。
感染せば楽になるっていつも云ってくれるじゃない」
不貞腐れた口調で云った僕の顔を見て、笑太君は思いっ
きり笑った。
「ダメだって。俺から感染すといっつもお前の方がひどくなる
んだから」
「じゃ、1回だけ」
おねだりしてみたけど、失敗。
笑太君は頭を左右に振ると、首に巻きついていた僕の腕を
解いた。
「今日は自分んちに帰るから」
ずきん!と心臓が鋭く跳ねて、胸が苦しくなる。
この言葉、苦手。聞くだけで寂しくなってしまう。
「蓮井警視、今日は帰ってくるの?」
さりげなく両手で胸を押さえながら、出来るだけ冷静な声を
出そうと努力する。
「う〜ん。。。いや、多分帰ってこないかな?あっちも難しい
事件を2つだか3つだか抱えてるって云ってたから」
「じゃあ、ウチに来なきゃダメ」
笑太君が吹き出して笑った。
「なんでだよ?」
「こっちこそ、なんで?だよ。体調悪いのにうちで一人で寝る
なんて。。。寂しいよ」
可笑しそうに、笑太君の目がもっと細められた。
「それお前だろ?」
「。。。っ!そうかもしれないけど!でもうちに帰ってタマちゃん
居なかったら食事なんて食べないでしょ?」
「今、食欲無いから丁度いいよ」
「丁度よくないよ!食べないと治らないもん」
必死に説得しようとしている僕の顔を見ながら笑い、笑太君
はもう一度僕の頭の上をぽんっ!と叩いてから撫でた。
「ありがとう。でも、お前んち行ったらお前を抱きたくなっちゃう
だろうから、だから今日はダメ。遠慮しとくよ」
「なんで、だからダメ、なの?」
笑太君は苦笑して、僕の頬にちゅっ、と、唇の表面がほんの
ちょっぴり触れたかな?くらいのキスをしてくれた。
「体液から感染っちゃうかもしれないから、しちゃダメなの」
「。。。そんなに笑太君の風邪菌って強力なの?」
そんなの聞いたことないよ、と呟きながら、上目遣いで見返す。
あはは!と今度は本気で笑って笑太君は、僕の頭をぎゅっと
胸に抱き締めた。
「ホントにお前って身体、冷たいよな」
「笑太君はいつも熱いけど。。。今日は特にアツい」
前髪を掻き上げて、額にぴたっと手の平を当ててみる。
「熱上がってきたんじゃない?!早く帰ろう」
手首を掴まれて額から手が離されてたと思ったら、するっ、と
持ち変えられて、手と手を繋ぐ格好になった。
「なぁ、清寿」
「なぁに?笑太君」
「えっちはしないけど、抱っこして寝てもいい?」
今度は僕が吹き出してしまった。
「それ、感染るリスクは同じじゃないの?」
「あぁん?そ〜かぁ?」
「そうだよ!」
真っ赤な顔で顎のホクロの近くを指先でぽりぽり掻いている
笑太君を見て、もう一度吹き出してしまう。
「早く帰ろう。温かくて消化のいい物、作ってあげる」
燃えるように熱い笑太君の手を引っ張って、家路を急ぐ。
「で、早く寝よ。僕が氷枕代わりになってあげるからね」
「。。。余計熱、出そうだな」
笑太君がぼそぼそっと何か云ったようだけど、声が小さすぎて
聞こえなかった。
「え?何か云った??」
何も云ってないよ、というようにふわりと微笑みながら首を横
に振る笑太君の顔が、先刻よりも更に赤味を増したように
見えた。
心配しすぎの気のせい、だといいんだけど。。。


―The end―






P.S.
つい最近、乾は大風邪ひきまして。。
発熱と胃腸症状に翻弄されている間に、
こんな話が降りてきてみました。。
違う意味でビョーキ?(笑
笑太編。。ってことは、
もちろん清寿編も有り。
微熱が出てきたようなので、
それはまた次の機会に。。


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