―Enough or Not?―


「何しに来たんだ?」
「来ちゃいけねぇのかよ?」
「そんな事は云ってない」
「じゃ、なんだよ?」
子供っぽくムキになって食い下がっているのは自分の方だと、
そんなこと解っていた。
「本日の任務完了報告はもう済んだ筈だが?」
ふっ、と、薄く笑いながらそう云われた時、身体中の血液が
一気に引いて手足の先まで冷え切ってしまったような、そん
な感じがした。
「用事が無きゃ来ちゃいけねぇのかよ!」
メガネの奥で一瞬だけ、困ったように焦げ茶の瞳が揺れた。
そして、ふぅ。。。と、溜め息をつく。
「用事が無い時は皆あまり来たがらない、と思うが。ここは
用事があって呼び出さなければ来ない所だろう?」
その冷静さがムカつくのだと、俺はそう思うのだけど、清寿は
それは違うよ、と云う。
あの冷静さは他人と距離を置くための防御策なんだから、
と、そう云う。
―――三上さんは昔一度失敗してるから。。。
清寿が三上さんのことなら良く知っているというような、そん
な口調で話すのが気に食わなくて、その時は鼻で笑って聞
き流すフリをしたけれど。。。
それってアイツとの事だろう?
そんな事ぐらい、俺にだってすぐに分かった。
「。。。今日処刑した死刑囚が、アイツに似てて、さ」
腰を乗せるように寄りかかっていた大きなデスクの横の所
から、三上さんの背後にある窓の方へゆっくりと歩み寄る。
俺の動きを追うように三上さんがイスを回す。
その時出たギッ、という短い軋みを抑えるようにして、また
PCの方へ向き直る気配がした。
「後ろ姿が、そっくりだった。。。」
入隊して間もない頃は、いつも後ろ姿ばかりを見ていた。
最初は俺の存在なんてすぐに忘れて自分しか見ていな
かった、信じてなかった時生が、時々振り返って声を掛
けてくれるようになったのはいつ頃からだっただろう?
「。。。っ?!」
何か他の事でも考えていたのかもしれない。
俺が背後に近付く気配には気付かなかったようで、後ろ
から急に首に抱きついたら、本気で驚いた様子だった。
「なぁ、三上さん。時生としたみたいに、俺を抱いてよ」
明るい色調の茶色の、柔らかい髪の香りを、顔を埋める
みたいにして嗅ぐ。
「。。。御子柴。お前。。。」
俺の腕の中の身体が強張る。
時生は、こうやって髪の匂いを嗅ぐのが好きだった。
そして耳元で必ず、いつも同じ事を云った。
その言葉を、三上さんの耳元で囁いてみせる。
「それはっ。。。!」
いつも冷徹な男が、珍しく動揺しているようだった。
「それはお前が貰った言葉だ。。。私はそんな存在には
なれなかった。だから奴を止めることが出来なかった。。。」
怒りのせいか、後悔のせいか、小刻みに震える身体を
ぎゅっと、抱き締める。
「だからさ、代わりに云ってやるから」
「お前じゃ代わりにはならない。。。したくない。。。」
「そんなの分かってる。だけどガマン出来ないんだよ」
首元に回されている俺の腕に、三上さんの手が触れて
きた。指先まで冷たくなっている。
「アイツは他人には興味が無かった。俺が居ることが自分
の正義だなんていいながらも、心の中には自分しか居な
かった。いつも、俺を抱いている時も、そうだった。。。」
髪越しに、首筋に鼻を擦り付けるようにすると、ごくり、と
咽喉が鳴った。
「清寿が相手じゃダメなんだ。優しすぎて。大切すぎて。
もっと空っぽに。。。お互い傷付くことが分かっているのに、
ただ快感だけを追うように抱いて欲しい。。。
それで俺は罰せられて、正義の為とは云え人を殺し続け
なければならないという罪の意識から開放されるんだ。
だから、なぁ、お願いだから目を閉じて」
三上さんの全身から力が抜けた。
ふわりと頭が反らされて上を向いた唇を、唇で捉える。
くちづけをしながらメガネを外し、折り畳んでデスクの上
にあった書類の上に、落とすように置く。

「私は。。。思い出したくない」
「でも、思い出してくれよ」
「思い出したいのはお前だろう?御子柴」
今度は俺の咽喉が言葉を飲み込んで、ごくり、と鳴った。

デスクの方を向かされて、端を両手で掴まされる。
先刻俺がやったように、今度は三上さんが後ろから抱き
つくようにして、鼻先で探るように俺の髪のニオイを嗅ぐ。
肌にかかる鼻息が首筋を滑り降りて、制服を脱がせなが
ら、背骨の上を這い降りてゆく。
「ん。。。っ!」
ボトムと一緒にアンダーウェアがずり落とされて、露わになっ
た蕾んだ芯を指先で玩ばれる。
弄られ、開かれて、真っ赤に熟れたようになった粘膜に舌
が差し込まれると、快感で足が震えて膝が崩れそうになった。
「あ。。。ううっ。。。あっ。。。ん」
自分のものとは思いたくない甘ったるい喘ぎ声が出てしまう。
入口の、ドアの鍵なんか掛けてない。
この声が漏れたら、五十嵐に覗きに来られたら、遅いからと
清寿に迎えに来られたら。。。!
緊張感で声を押し殺す。
そうすると却って、自分の背後から立ち上るぴちゃぴちゃとい
う濡れた音が大きく聴こえるような気がして恥ずかしくて身が
竦む。
顔だけではなく全身が、紅潮して熱を帯びてくる。
「もうっ。。。止めてくれ。。。っ」
2本から3本に増やされた指で掻くように中を捏ね回されて、
堪らなくなってそう叫んでしまう。
「桜澤はこうやって責めるのが好きだったろう?こうやって、
じっくりと後ろから愛するのが」
その声は、すごく遠くから聞こえてくるように感じた。
「挿れるぞ」
先端が当てがわれて、一気に奥まで押し込まれる。
「う。。。ああっ、あああーっ!」
抜けそうになるほど浅い所まで引き抜かれ、そしてまた悲鳴
を上げそうになるほど奥まで穿たれる。それを激しく何度も
繰り返されて、その間に何度か精を漏らしてしまっていた。
「止めてくれ。。。お願いだから。。。」
視界の中で床やデスクが俺の放つ白い汁で汚れていくのが
見えて、羞恥心で気が狂いそうになる。
「止めろ。。。時生。。。っ」
掠れてきた声で、哀願するように、縋るように呟く。
「ただ感じろ、御子柴」
云い含めるような三上さんの言葉が、記憶の中のアイツの声
とだぶって聞こえる。

『ただ感じろよ、笑太。
頭ん中真っ白になるくらいに気持ちいいだろ?
俺はさ、例えそれが処刑であっても人を殺す時にエクスタシー
を感じちゃうんだけど、お前そんなの感じたこと無いんだろ?
だからさ、俺はお前が羨ましくて。壊れないように守ってやろう、
って、そう思う』
色素の薄い、淡い色合いの瞳は、どんなに熱い行為の最中
でも冷めていて、そしていつも同じことを云うのだった。
『だから、お前が俺の正義、なんだよ』

「時生は愛されたがってたんだよ。。。」
三上さんの動きが、一瞬止まった。
「そんなの。。。分かっていたさ」
「じゃあ何故?」
「どんなに求め合っていても、叶わないものっていうのはある」
言葉が途切れるのと同時に、俺の身体の一番奥に、熱い
飛沫が解き放たれた。
「ふ。。。うっ」
「私ではアイツを開放してやる事は出来なかったんだ。。。」
まだ固さの残っていた俺自身を捕らえ、するっと扱いて自分の
手のひらの上に射精させて、三上さんはもうそれ以上訊くなと
いうような語調で呟いた。
「もう二度とこんなことは止めてくれ」
萎えた茎を引き抜きながらそう云う声は、泣いているようにも
聞こえた。

「遅かったね、笑太君。三上さんと何話してきたの?」
更衣室で清寿が待っていた。
「先に帰ってて良かったのに。。。」
「うん?なんかね、笑太君が待ってて欲しいって思ってるような気
がしたんだけど。気のせい?」
ふわりと包み込んでくれるような、優しい微笑み。
「実は今日の1件目の処刑の後から様子がおかしかったみたいだ
から。。。心配で待ってた」
涙が出そうになって、ぐっと耐える。
俺のその表情(かお)を覗き込んで一瞬心配そうな顔をしてから、
清寿は明るく笑った。
「さ、帰ろ。今日はうちでいいんでしょ?美味しいもの作ってあげ
るね!」
「。。。もし俺が壊れてしまったら。。。取り返しのつかない過ちを
犯してしまったとしたら、清寿、お前はどうする?」
唐突に投げつけられた質問に、紫の瞳が大きく見開かれた。
それがほんのり潤んで、ゆっくりと笑みの形になる。
「そしたらね、笑太君を殺して、僕も死ぬ」
それが当然であるかのように、さらっと云う。
「ホントは絶対に僕が殺してあげたいんだけど、笑太君強いから、
僕の方が先に死んでしまった時には羽沙希君に託す。彼なら
大丈夫だから」
そう答えてくれた清寿の頭を、ぎゅっと抱き寄せる。
自分がもう少し早くアイツと出会っていたら、俺はこういう存在に
なれたんだろうか?

着替えて外に出たら真っ赤な夕焼けで、今、多分一人部屋で
この空を見ているであろう三上さんのことを想ったら、また、泣き
そうになってしまった。


―The end―






P.S.
何気に裏リクエストが多かった
三上×笑太の話。
この2人の話、となると、
どうしてもトラウマっぽいというか、
PTSDっぽい話になっちゃうなぁ。。
意外に笑太って
脆くて泣き虫だと思うんで、
こういう話になりました。。


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