―17朝の公園で


「寒いねー」
真直ぐ前に吐き出された白い息が、視界の左端を
曇らせた。
はっ、と、我に返って、歩く速度を落とす。
後ろから追い着いてきた清寿が覗き込んできた。
「何か考え事?」
ふわっ、と、笑った唇の凍えたような色とは対照的な、
上気した頬の赤い色。
「ん。ちょっと」
「そっか」
俺の返事を聞いて、清寿が頷く。
一緒に歩いている時でも、他の事を考えていたりす
ると歩くのが早くなってしまうようだ。
大概清寿は数歩下がって歩いているが、それも俺が
どんどん先に行ってしまうからそうなるらしい。
「寒いね」
先刻と同じ言葉を、もう一度投げ掛けられる。
聴こえてなかったと思ったんだろう。
「ああ、寒いな」
目を細めて肩を上げるようにして、嬉しそうな表情を
して笑った。
「?何だよ?」
瞼までほんのり赤く染まっている。
「これで5回目」
清寿は一歩前に出て、ステップでも踏むような足取
りで振り返りながら言葉を繋ぐ。
「同じこと話し掛けたの、5回目」
ふふふ、と俺の顔を見ながら笑っている。
「それだけ上の空でどこにもぶつからずに歩けるのは
才能だよね」
おっとりした口調で云われるとイヤミでも腹も立たな
いな。
「でも笑太君、ここ、どこだと思ってる?」
ここ?
「お前んちに向かう途中にある公園。。。?!」
違う。
いつも通る近道のあの公園じゃない。
全く見覚えのない景色にうろたえる。
そんな俺の様子を観て笑っている清寿を見ていたら、
流石にちょっと腹が立った。
「気付いてたら云えよ!」
「だってすたすたすた〜ってどんどん歩いていっちゃう
んだもん。声掛けても気付いてくれなかったしね」
手を背中の後ろで組んでくるくると回るようにして俺
の前を行く清寿は、何故かやけに楽しそうだ。
「こんな時間に任務以外で一緒に外歩くって、初め
てだよね」
清寿の身体が回る度、暗い色の髪が顔の輪郭を
縁取る様に広がって、落ちる。
まだ薄闇の残る早朝の公園の、ぴんと張り詰めた
ような冷気の中に、さらさらと優しい香りが広がった。
「徹夜の任務明けだから、呼び出しなければ代休
なんでしょ?今日って。ここまで来ちゃったんだから
そのまま引き返すのつまんないよ」
回るのを止めて歩を緩めて、清寿が立ち止まった。
「朝のお散歩、して行こ」
疲れも眠気も吹っ飛ばす、最強の微笑み。
わざと興味無さそうに、すたすたと横を通り過ぎる。
「清寿、手、出せ」
早足で追い駆けてきて横に並んだ清寿に云うと、
不思議そうな表情で頚を傾げた。
「手?」
はい、と差し出された右手の、人差し指の先を抓ん
で引っ張り、驚いて固まっているうちにするっと手袋
を脱がせて取り上げる。
「何してんの?これじゃ寒いよ?」
素早く左手の手袋を脱いで、清寿の剥き出しにな
った手を握って、俺のダウンジャケットのポケットの中
に引き込む。
絡めた指を強く握り返された。
そして、最高の微笑みを喰らう。
「初めての朝のデート、だね」

こうしていれば俺がぼんやりしてももう大丈夫だろう?

照れ隠しに考えておいた理屈は云い訳にもならなくて、
お前の笑顔の前では全部無効になってしまう。
赤くなっている筈の頬を覗き込まれたくなくて、自然に
足が早くなっていた。


―woh woh―



冬に。。しかも、
一年で多分一番寒い時期に
書いているせいか、
シチュのお題では
寒い設定の話が多い傾向が。。(汗
もっと暖かい(暑い)季節の話も
書きたいけれど。。
寒いっ、寒すぎるっ(泣


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