10. 「お前の側に居たいと思ったなんて無いが、
  お前を側に置きたいと思った事ならあるぜ?」



何を云っても強がりに取られてしまうだろう。
ましてやこの状況ならば。

「銃を下ろせ」

目隠しをされて床に転がされているから、
推測に過ぎないけれど。

「捨てろ」

完全に拘束されている手足に伝わってきた、
硬くて重い音と同時の振動。
猿轡だけでも外そうと噛み続けている歯から、
血の味がしてきた。

「動くなよ」

後頭部に押し付けられた、冷たい銃口。
徐に目隠しが外される。

「清寿!」
「動くなっ!!」

輪になったまま下にずらされた布製の目隠しで、
後ろから首を締め上げられた。

「そろそろ天国が見えて来たかい?」

バカだな。。。
僕達が天国なんかに行けるワケない。

「流石人形、苦しそうな顔もしないんだな」

生きていても、今ここで死んだとしても、
僕がいける所はひとつしかない。
その場所を失いたくないから意地でも笑うよ。
最期まで笑ってるなんてお前はバカだ。
そう云って呆れて。。。泣かなくていいから。

引き金に掛かった指に力が籠もる、微かな音。

笑太君、僕は大丈夫だから。
僕なんてどうでもいいから、任務を優先して。
もしこの口が少しでも自由になったら。
死ぬ前に、もう一度。名前を呼びたかった。
最後にひとつわがままを云いたかった。。。

頭蓋骨に響いた激しい衝撃。
生温かい液体が吹き出る感覚。
崩れ落ちる身体。

「あの状況で笑うなんて。。。大バカだな」

抱き留めてくれた腕の中で、この言葉を聞く。
嬉しい。ちゃんと笑っていられたんだ。
最期ま。。。で?
「あ。。。あれ?!」
「マヌケな声出してんじゃねぇよ」
さっきまで呆れ顔だった笑太君が、笑った。
「僕。。。生きてる?」
携帯を取り出して処理班に連絡すると、
僕の身体を座らせるように床に下ろした。
「おま。。。音、聴いてなかったのかよ?」
頭をするっと撫でてくれたのは、
怪我していないかの確認の為。。だね。
「聞いてた。ゴトンッって。
デザートイーグルを床に投げ捨てた音。。。」
「1回だけだったろ?」
そう云って笑太君はニヤリと笑うと、
猿轡のせいで切れてしまった僕の口角を
ぺろっと舐めた。
「最初、左しか構えてなかったんだよ」
1挺しか持っていないと思わせておいて、
利き手側のデザートイーグルで殺ったのか。
「目の前だろうがなかろうが俺より先に逝くなんて
許さねぇ。だから側に居てやるって云っ。。。」
呆けたように見詰める僕の視線に気付いて、
急に顔を真っ赤にして口籠る。

「お前の側に居たいと思ったことなんて無いが、
 お前を側に置きたいと思った事ならあるぜ?」

照れ隠しに強がってみせるところが可愛いすぎる。

僕は笑太君の側に居たいと思ったことはあるけど、
笑太君を側に置きたいと思ったことなんて無いよ。
でも最期は息が止まる一瞬まで側に居て欲しい。

最後のわがままはそれって、もう決めてあるんだ。


―End―



俺様捧ぐ台詞のお題
なんとかクリア♪
カッコイイ台詞を
俺様ヘタレ(笑)の笑太に
どんな風に云わせるかが
難しかった。。
09/04/28Tue.


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