―08車の中で *vol.1*


「悪ぃな、久しぶりのご帰還だっていうのに」
「どうせ途中まで方向が同じなんだから、気にすること
はない」
三上の運転はその性格通り神経質で緻密だと、車に
乗せてもらう度に五十嵐は思う。
「自分ちに帰るの、何ヶ月ぶりになる?」
「前に帰ったのは9月だったから。。。もう随分前だな」
9月、という言葉に反応して、五十嵐が意味有り気な
笑みを浮かべる。
「今日は“黒髪の君”の代わりに俺ですまんな」
「黒髪の君?」
眉の一筋さえも動かさずに、三上は前方を見詰めた
まま尋ねた。
「知ってんだろ?アンタ自身の浮いたウワサ話」
「ウワサ?知らないな」
かけたカマが空振って、五十嵐はがっかりした。
「三上部長が帰る時は必ず助手席に黒っぽい髪の
美人が座ってる、って、法務省内では知らない者の
居ないくらい有名なウワサ話」
滑るように滑らかに、車はカーブを曲がった。
「アンタが帰った日は目撃情報がどんどん諜報課に
寄せられて大変なんだぞ」
はは!と、三上が珍しく声を上げて笑った。
「ヒマなんだな、諜報課。もっと働くか?」
「いやっ、それは勘弁!今でも目一杯だって」
慌てる五十嵐の顔をしっかりと見て、三上が可笑し
そうに笑った。
「では今夜も目撃情報で盛り上がっているかな?」
五十嵐の目が丸く見開かれた。
「へ?」
「今夜のウワサの中心人物は君だよ、五十嵐君」
意味が分からず目をぐるぐるさせている五十嵐に
向かって、三上はもう一度笑ってみせた。
「私の車の助手席に乗って帰った黒髪の。。。」
「って!ええ?オレーーっ?!」
五十嵐は事態を把握すると動揺し、自分を指差
して大声を出した。
「外が寒くてガラスは曇っていた。だから助手席に
居る者の顔は見えないとしてしても、髪の毛の色
くらいは見えただろう」
三上が冷静に分析して、追い討ちをかける。
「わぁ〜今日は俺が“黒髪の君”かー!!」
「美人かどうかはさて置き、そういうことになるんじゃ
ないか?」
いつに無く楽しそうな口調の三上を恨みがましい
目で見ながら、五十嵐は大きな溜め息をついた。
「ウワサなんてそんなものだろう。多分“黒髪の君”
の目撃情報の半分以上は君のことだと思うが?」
「サイアクだな、それ。。。」
車窓を流れる光溢れ賑わう夜の街の景色を見な
がら発せられた呟きに、失笑が漏れた。

「あ、この辺りで下りるよ。すまなかったな」
道路の端に寄せて車を停めて五十嵐を下ろす時、
三上は微笑みながら声を掛けた。
「明日楽しみだな、五十嵐君」
「ちっとも楽しみじゃねーよ」
走り去る車を見送ってから五十嵐はぶるっと身体を
震わせ、寒くて堪らないという様に首と肩を竦めた。


―リアルな現実 本気の現実―




−04バス停で。。は、
この話の翌朝の話。
三上さんと五十嵐さんは仲が良い
という設定だそうで。。
たまに呑んだりもしてるらしいので、
車で送ってもらってても
不思議じゃないかな、と。
でも肝心な事は喋らない。。
三上さんはそういう人で
あって欲しい(笑

これはvol.1。
ってことは、
vol.2もあります。
こちらは別のパターンで。。


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