―Have a Slight Fever―


その悲しげな喘ぎ声も
その時に呼ぶであろう他の男(ひと)の名前も
この激しい雨の音に紛れて
全部聞こえなくなってしまえばいいのに。。。


「羽沙希、コイツをよろしくな!」
そのひとはそう云い残すと、生暖かい、雨の気配を強く孕んだ
夜の中へ消えて行った。
「まったくも〜。笑太君ってばいつもいつも。。。」
少し俯いて不満そうな口調で云ってはいるけれど、黒髪の間
から見える頬には嬉しそうな笑みが漂っている。
「僕は大丈夫だから。羽沙希君こそ気を付けて帰ってね」
こちらに向けられた美しい微笑は、押し隠しきれなかった笑み
のおこぼれ。。。そんな気がするのはひがみだろうか。
「御子柴隊長に頼まれましたから。家まで送ります」
「大丈夫だって云ってるのに。。。」
「でも、総隊長命令ですから」
少し困ったように微笑む式部隊長に、左手を差し伸べる。
戸惑ったような表情が浮かんだがそれは一瞬のことで、軽い溜め
息をついて、あなたはその手を掴んできた。
「ねぇみんな過保護すぎるよ。僕だってもうリッパな大人なのに」
本気になれば強いのも、芯が強くて本当は怖いひとであること
も分かっている。
けど、自分の近くに居る人達に優しすぎる。
他人(ひと)に優しくする為に自分を疎かにするのを知っているから、
皆があなたに対して過保護になってしまうということに、本人だけ
が気付いていない。
そこがこのひとの長所でもある。
年上の、しかも上司を捉まえて云う言葉ではないけれど、
つい守りたくなる可愛いひと、なのだ。
「早く帰ろ。雨、降り出しそうだよ」
声を掛けられて、我に返る。
手の中にある温もりを握り締めて、法務省を後にした。

「あ〜あ、結局降られちゃったね」
うふふ、と笑いながら、僕にバスタオルを投げて寄越す。
それを受け取って、びしょ濡れになった頭と顔を拭く。
結局雨が降り出す前に帰宅することは出来ず、あと少しという所
で暴風雨に巻き込まれてしまった。

また台風が、近付いてきているのだ。

「服、脱いで。僕ので良かったらとりあえずこれ着てて」
タオルで全身を包み、端から片目だけ覗かせて、あなたは明るく
微笑みながら僕に乾いた服を渡してきた。
濡れた髪から、強い香りが立つ。
南国の花のような。。。
ほんのちょっぴり甘いような、爽やかな香りが。
見惚れていた僕にさり気なく近付いてきて、あなたは呆れたように
浅い溜め息を吐いて、僕の髪を拭きだした。
大きな手のひらが、タオルの上から僕の頭に触れる。
くしゅくしゅと髪を乱し、また撫でつける。
強くも弱くもない絶妙な力加減が、僕の息を熱くする。
目の前にある白い首筋に貼り付いた髪が、大きく開けられた胸元
に見える消えかかったキスマークが、僕の鼓動を早くする。

大きな窓の向こうで、風雨が荒れ狂っている。
雨音が、激しくなっては静まる、を繰り返していた。
心がざわざわするのは台風のせい?
"昨日みたいな夜は、一人だと寂しくて眠れないんだよ。。。"
この前台風が通り過ぎた翌朝、目を真っ赤に腫らせたこの人が、
御子柴隊長にこっそり云っていた言葉を思い出す。
そして、身体の奥に澱みたいに溜まっていく熱を自覚する。

「この雨じゃ帰れないね。泊まってった方がいいよ」

そんなこと、云わないで欲しい。
自分の感情が、抑えられなくなってしまう。
これは、台風の、せい。。。きっと、そうだ。

多分最初に、名前を呼んだ。。。と思う。
驚いたように振り返ったあなたを、夢中で抱き締める。
「あっ!だめ。。。っ」
拒否する声も、責める声も、封じる為に唇を塞ぐ。
言葉を発しようとした形のままの緩く閉じられた歯列から舌を差し
込んで、必死になって口中を犯す。
「んーっ、んっ。。。ん。。。んっ。。。っ」
あなたの固く閉じられた目から涙が流れ落ちては、僕の頬も一緒
に濡らしていく。

もう、戻れない。だから泣かないで欲しいのだけど。。。


離れようとするその唇から投げつけられるだろう言葉に怯えて、
片手で頭を押さえてくちづけをし続け、もう片方の手を太腿の
内側まで滑りこませる。
僕の拙い愛撫にでも反応はあって、立ち上がり出したそこと僕の
欲望を一緒に束ねて握り締め、包み込むように緩く扱くと、溶け
合ってしまいそうになった。
絡めあった舌先で、お互いの喘ぎ声を掬い取る。
最初は抵抗して僕の身体を押し除けようとしていた腕が背中に
回されて、そっとしがみ付いてきた。
抱き合ったまま、ベッドに移動する。
あのひととの情事の余韻が残るベッドの上で、今夜は僕があなた
を抱く。

興奮しすぎて苦しくなり、唇を離して息を吸う。
「はぁん。。。っ」
大きく甘い息を吐き出されて、白い背中が大きく反った。
悲しそうに顔が歪んでいても、それでも美しい、と思った。

「羽沙希くん。。。後悔するかも。。。しれないよ?」

そんなの分かってる。あなたは他のひとのもので。。。
それでもいい。それでも、欲しいと、思ったから。
窓ガラスを叩く激しい雨音のせいで聞こえなかったというフリをする。

あなたが垂らす露で指を濡らし、花芯に注し挿れる。
ひときわ大きくなった喘ぎが、少しだけ悲しみを含んでいるように聞
こえるのは気のせいではないだろう。
入口をゆっくりと解して、指で押し広げなから、中を探る。
しなやかな指が下腹部を撫でている。
そこには既に爆ぜてしまいそうなくらいに大きくなった昂りがあ
って、触れられただけで達しそうだ。
強く閉じられた瞼の上にくちづける。
ゆるゆると目が開けられると、濃い紫色の瞳が、僕を思い遣るように
揺れていた。
誘うような腰の動きに合わせて、中に、挿れる。
浅いところから深いところへ。そしてもっと、もっと奥へ。
熱を帯びて怒張した僕自身が、もっと熱い肉襞を掻き分けて進んで
ゆく感触に酔う。
キツく締め付けられて、苦痛にも似た快感が全身を走った。

「僕ならあなたを一人になんてしないのに。。。」

うわ言のように呟いた、今まで秘めていた本当の気持ちも、風雨の
音に消されてしまって聞こえなかったようだ。
それとも聞こえないフリ、なんだろうか?
奥を穿つ度に身体が波打つ。
腰を両足で挟むように締めつけられて揺らされると結合が深くなり、
意識が飛びそうになった。
背中に回った両腕に力が籠もり、浅く激しい呼吸(いき)が当たる首筋
に甘く噛み付かれて、正気を取り戻す。
白かった肌が桜色に染まり、背中に細かい震えが走った。

「。。。中に出してい。。。いですか?」
「はぁ。。。あぁんっ。。。きて。。。僕もイク。。。っ!」

その身体の最奥に劣情を放ちながら、ひたすらあなたの名前を呼んで
いた。
あなたが誰の名前を呼んだかなんて、もう僕には関係なかった。。。

「羽沙希君、ごめんなさい」
なんであなたが謝るんだろう?
責められるのは、僕、なのに。
「こんなに泣いて。。。」
労るような呟きが、僕を驚かせた。
泣いてる。。。?僕が?
自分の頬に触れると、涙でぐしょぐしょに濡れていた。
そしてまだ、僕の目からは涙が流れ落ちているようだった。
「僕。。。泣いてるんですか?」
悲しげに細められた瞳に、僕の顔が歪んで映っていた。
「最初からずっと泣き続けていたよ。気付いてなかったの?」
ふわふわと、優しい指が僕の頭を撫で続ける。
「ツラい想いをさせてごめん。。。ごめんね、羽沙希君」

この優しさが欲しくて、つい過保護になってしまう。
守りたくて。抱き締められたくなって。。。
そんなツラそうな表情(かお)、させたくはなかったのに。。。


朝の光の中で白い背中が
泣いているように見えた。。。

「おはよ。羽沙希君」
朝日が眩しくて目が開けられないというフリをして、あなたの
顔から視線を逸らした。
テーブルの上には朝食の準備が整っていて、コーヒーの芳しい
香りが漂っていた。
「起きてこっちおいで。ごはん食べよ」
昨晩の嵐が嘘のように、穏やかな陽射し。

でもあれは夢ではない。
僕の手が、唇か、身体が、あなたの感触を憶えている。

朝、僕より先に起きたあなたの、こちらを向いていた背中が泣い
ているように見えて。。。寝たふりをしていたら、二度寝してしま
ったようだ。
「羽沙希君、台風は行っちゃったって。良いお天気だよ」
花のように華やかな微笑みが、こちらに向けられている。

昨夜の事はやっぱり夢だった?
。。。絶対にそんなハズは無い。
心のどこかがざわついて、拍動が早くなる。

「嵐はね、去ったんだよ。昨日の夜のことも全部一緒にどこかに
連れてちゃった。だから全部忘れて。。。もうあんなことはしないで。
お願い。。。僕は大丈夫だから、君が傷付くような事は止めて」

目の前には、いつもどおりの朝の光景。
まるで何事も無かったかの、ような。

傷付けてしまって、すみません。。。

口に出すと否定されてしまいそうなので、心の中でそっと呟いて
からベッドを抜け出して、微笑むあなたの前に座った。


―The end―






P.S.
二都彰梨様に捧ぐ。。
リクエストありがとうございました♪
羽沙式、こんな感じになりました。。
すみませんっっ(汗
先に謝っておきます←小心者
一応“The Aftereffects of Storms”という話が
伏線になっておりますので、
二都彰梨様には2作品進呈いたします。
これでご勘弁を。。m(_ _)m


Back