―The Aftereffects of Storms―


今夜半、その台風は東都に一番接近するらしい。

「お前、今日はいつもと違う所に寝ろよ」
本日の任務完了報告を終え、明日の任務の説明を受けて、
更衣室に向かう間に笑太君がいきなり真顔で云った。
「はぁ?違う所って。。。何それ?」
発言の意図を掴みかねて、素直に聞き直す。
すると笑太君はなんで分からないんだよ、という表情(かお)を
して、少し後ろを歩いている羽沙希君を気にしたように身を
屈め、僕の耳元に声を潜めて囁いた。
「お前んち窓大きいんだから、気を付けろって云ってるんだよ」
イマイチ意味が分からない。
じーっと、返事もしないで笑太君の顔を見返したら、大きな
溜め息をつかれてしまった。
「だぁから!良くニュースなんかであるだろ?強い風に煽られ
て看板とか折れた木の枝とかが窓ガラス破った、っての」
ああ。やっと云いたい事が分かった。
心配してくれてるんだね。。。
「今夜はあんま窓の近くで寝るなよ」
そう云われてもベッドは窓のすぐ横に置いてある。
あの大きなベッドを1人で動かすなんて、引き摺ればなんと
かなるだろうけど、やりたく無い。
面倒臭いな、というのが表情に出て、それを見た笑太君が
また溜め息ついた。
「出来るだけ窓から遠いところに寝るとか、ソファに寝るとか、
しろよ?」
「。。。うん。努力はするよ」
心にも無い返事をして、笑顔を返す。
真意を見透かしたような表情で上から僕を見下ろして、
笑太君は鼻から呆れたように太い息を吐いた。

でも、いつもみたいに、それ以上は何も云わなかった。


風も雨も帰りにはもう強かったけれど、夜が更けるにつれて
激しさを増してきた。
窓の外を滝みたいに流れ落ちる雨で視界は遮られて、外は
見えない。
こんな日は心がざわざわして、余計に眠れない。
ベッドの上で、ここには居ないひとの気配を引き寄せる。
君の息遣いと声と、筋肉の動きと、汗の香りを思い出しなが
ら、自分で自分を、抱き締める。
「んっ。。。ふ。。。っ」
心の奥に秘めた激情と、外の嵐がシンクロして。。。
泣き声が漏れてしまっても、君の事を思って自分を慰める時
の声が零れてしまっても、激しい雨と風の音が消してくれるか
ら、台風の日は嫌いじゃない。


「清寿」
朝、ロッカールームでいきなり名を呼ばれた。
指で、こっちへ来い、と招かれる。
なんだろう?と思って近付いていったら、突然指が伸びてき
て、目の縁を擦られた。
「目、真っ赤。眠れなかったんだろ」
自分では優しくやってるつもりなんだろうけれど、白い手袋を
はめた指で擦られたら痛いって。
「昨日みたいな夜は、一人だと寂しくて眠れないんだよ。。。
でももう大丈夫だから」
ふぅ。。。と、溜め息をつかれた。
「お前の大丈夫はアテにならないからな。無理すんなよ」
無理なんかしてないよ、と云うときっとイヤな顔をするので、
笑顔を返しておく。
「そういう顔してっと俺が三上さん達に云われるんだからな。
お前の事、皆心配してくれてるんだぞ。分かってるのか?」
笑太君こそ、分かってない。
皆が心配してるのは笑太君の事、なのに。
それに。。。

「僕の中にある嵐なんて、どうせ笑太君には分からないん
だから。。。」

俯いて口元を隠し、声にはしないで唇だけで呟いてみた。

「また台風来てるんだってさ。今年は多いね」
夕方、現場から戻るバンの中で、柏原班長が口を尖らせ
て呟いた。
「ど〜りで。空気がヘンに生暖かいハズだよな。今どこに
いるの?」
「ん〜。。。明日には東都に一番近付くくらい?のとこ」
「また雨かぁ〜!それじゃなくても雨多いのに。ヤダなぁ」
「今夜半から強い雨、風に注意、だって」

また台風が来るのか。。。

向こうで話している笑太君と柏原班長の声を呆然と聞く。
大丈夫ですか?と羽沙希君に心配されて顔を覗き込ま
れてしまうくらい、ぼけーっとしていたらしい。
法務省に戻って3人で報告に行って、着替えて帰ろうとし
たら、当然のような顔をして笑太君が後ろからついてきた。
「?」
「今日はお前んち」
なんでそんなこと、当然みたいに云うのかな?
「寂しい、って一晩泣いて過ごさなくて済むように。な」
耳元で囁かれた言葉で、顔面に血が上る。
「なっ。。。!」
言葉を詰まらせた僕を見て、誇らしげな満開の笑み。
「寂しがりやのクセに。無理すんな」
右の耳朶を掴まれて、ホクロのある口元まで引っ張られた。

「一緒に居て抱き締めててやるよ。それで本当に大丈夫
だろ?」

だめだよ。
そんな事云われたら、涙が出てきそうになる。
羽沙希君も居るのに。。。
そんな僕の様子を観察して楽しげに緩む頬を抓ろうと指を
伸ばしたけれど、あと少しのところで逃げられてしまった。


僕の中にある嵐は、君の腕の中で凪いでゆく。
君の中にもある嵐を、僕の中で受け止める。
音も声も真実も虚栄も、雨と風の音が消してくれるから、
いつもより激しく求め合える。。。
だから僕は、台風の日が嫌いじゃない。


―The end―






P.S.
台風の夜って、
心がざわざわしませんか?
これはドバイに向かう飛行機の中で
降りてきた話です。
(前夜、台風が関東に上陸したから)
BGMは松任谷由実の“TYPHOON”
この曲の歌詞みたいな
どことなく甘い、というイメージで。。

この話は“Have a Slight Fever”
プロローグみたいな話なので。。
リクいただいた二都彰梨様へ
捧げます。。


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