―Dawn Purple―


「笑太くん。。。もっと。。。」
「まだ足りない?」
「うん。足りない。。。」
柔らかい唇が首筋を這い上ってきて、耳元で甘く息を吐く。
「もう何回目だよ?身体大丈夫?」
「だめだったら明日休む。病欠にして。だめ?御子柴隊長」
楽しげに、冗談めかして云い返してくる。
「あのなぁ。仕事とこっちとどっちが大事なんだよ」
「もちろん、笑太君と居られる時間の方が大事」
「仕事の時だっていつも一緒にいるだろうが」
「こうやって繋がっていられる時間が、一番大事」
「バーカ」
笑いながら顎を引き寄せて、貪るように唇を求める。
絡めあった舌の付け根を軽く噛むようにされて、繋がりあった
ままの下半身が疼く。
清寿のさらさらの髪を掻き上げるように梳くと、俺の指の間
から良い香りが、零れるように漂った。
これを嗅ぐといつも、清寿が堪らなく欲しくなる。
「もうお前ん中ぐちゃぐちゃだよ。ホントに大丈夫?」
「大丈夫だから。。。やめないで」
うっすらと汗ばんだ腕が、俺の背中に抱きついてくる。
柔らかい唇が左肩の傷に触れてぞくっと全身の肌が粟立ち、
腰の辺りに生じた熱が、次第に高まってくる気配がしてきた。
「どうしたんだよ、今日は?」
「なんで?」
「なんかいつもよりヤバい」
「イヤ?」
こちらの反応を窺うような上目遣い。
清寿の潤んだ瞳に、嬉しそうな顔をしている俺が映っている。
「嫌じゃないけど。。。なんでかなぁ?って思ってさ」
表情を殺し、冷静を装う。
「なんでって。。。それ、意地悪?」
清寿の顔が、ほんの少し翳る。
本当は理由なんか分かっている。
でも云わせてみたい。云って欲しい。。。
本物の笑顔で、ホンモノの言葉を。

相変わらず毎日なんでこんなに?と思うくらい死刑判決が出て
任務が途切れることはないんだけど、それでも比較的落ち着い
た日々が続いていた。
警視庁も同じようで、大きなヤマが立て続けに片付いたので
ちょっとヒマになったんだと、タマはここのところ毎日、そんなに遅
くない時間に帰ってくる。
東都が平和なのは良いことだ。
けれどちょっとだけ、気になることがあった。
「お疲れさん」
任務が終わって三上さんとこに報告に行ってから帰る前、隣の
ロッカーの前で着替えている清寿が、気になって仕方ない。
「うん。お疲れ」
寂しそうな、怒っているような、なんとも複雑な表情。
でもそれを見せるのは一瞬で、すぐに笑みが返される。
ニセモノの笑顔が。
これだけ付き合いが長いと、それが本物か、作りモノの笑顔か
なんてすぐ分かる。
「。。。ごめんな」
反対側に居る羽沙希には聞こえないように清寿の耳元に口
を寄せて小さな声で謝ると、こちらに横顔を見せたまま目が
大きく見開かれてから脱力したように閉じられた。
そしてゆっくり開かれた瞳が、どことなく寂しそうな微笑みを浮
かべてこちらを向いた。
「蓮井警視は元気?。。。だよね。あの人はいつも元気そう。
笑太君、ちゃんとまともなもの食べさせてもらってるんでしょ?」
「う。。。まぁな」
唐突な質問に、焦りながら頷く。
「誰かが一緒に居るっていうのはうざったい時も有るけれど、
いい事だよね」
ここで羽沙希がパタン!とロッカーを閉めて、お疲れさまでした、
と軽く頭を下げて更衣室を出て行った。
その後を追うように清寿もロッカーを閉めて、ドアの方に向こう
とした。
「清寿、お前ちゃんと寝て。。。」
「大丈夫だよ。僕は大丈夫。。。だってばっ」
俺の言葉を途中で遮って、清寿が振り返った。
コイツが大丈夫、という時は大丈夫じゃない時が多い。
続きを云おうとしたら、清寿は花のように綺麗な、形だけの
微笑みを見せた。
「僕今ちょっと蓮井警視が羨ましいの。だからきっとヤな顔し
てる。そんな顔なんて、本当は笑太君に見られたくないんだ。
だからもうそれ以上何も云わないで」
勢いよく前に向き直ると髪がふわりと広がって、甘く香った。
「ばいばい、笑ちゃん。タマちゃんに優しくしてあげてね」
振り返りもせずに軽く手を振りながらそう云って、清寿は更衣
室から出て行ってしまった。
また明日の朝、ここのところずっと続いている、ほんのり目の縁
を赤く染めた、あの寝不足顔を見ることになるんだろうな。。。
引き止めることも追い掛けることも出来ない己を情けなく思い
ながら、力無くロッカーの戸を閉めて帰った。
あれは数日前のこと。。。

「2週間来れなかったからな。寂しかった?」
「。。。うん。寂しかった。。。やっぱり意地悪だね、笑太君」
切なげな声と表情(かお)が、ずきっ、と心に刺さる。
「お前さ、ちゃんと眠れてなかっただろ?」
今度は遮ることなく最後まで聞いて、清寿は素直に頷いた。
長い睫が伏せられて、濡れて宝石みたいに輝いていた瞳が
見えなくなる。
「うん。薬飲んでも眠れなくって」
瞼の端から滲み出した涙を舌先で舐め取ると、くすぐったそう
な、本物の笑顔が浮かんだ。
「俺のこと、好き?」
子供みたいに、こくん、と頷く。
「なら、さ、笑って?で、もっと俺のこと、欲しがって」
上気した桜色の頬に、美しい微笑みが浮かぶ。
「笑太君、大好き」
一番欲しかった笑顔と言葉。
「お願い、もっとして。僕の身体に記憶に刻み込むように」
ぎゅっと抱きついてきた身体を受け止めて、さらっと囁く。
「1人の夜にも思い出して自分を慰められるくらいに?」
恥ずかしそうに口元を固く閉ざして、清寿は俺の視線から顔
を背けた。
その反応が可愛くて、もっと意地悪をしてみたくなる。
顔を前に向けさせて、唾液を飲み込む隙すらないような濃厚
なくちづけを与える。
唇を離すと、清寿は大きく息を吸い込んだ。
「覚えた?俺の唇」
血の色の唇が軽く開かれたまま、はぁ。。。と淡い息を吐く。
欲望が抑えきれないくらいに大きくなって、もう弾けそうになって
いる。その脈動が中から清寿に伝わって、互いの拍動が同調
し始めていた。
「動くよ?」
ちゅっ、と、淡いくちづけをして、返事を待たずに動き始める。
最初は浅くゆっくりと。一番感じる点だけを攻めるように。
「あ。。。あんっ。あっ。。。う。。。ぃ。。。いやぁ」
自身の流す露に塗れている清寿の茎を捉え、その先端を扱く
ように弄ると、きゅっと眉間に皺が寄った。
「もう腰、怠いんだろ?足、後ろで組んで」
俺の背中で足を組ませて、両腕を首に掴まらせる。
「しっかりしがみついてろよ」
強く揺さぶるように抜き挿しを繰り返すと襞が強く締め付けてき
て、奥から、前に放った精を溢れさせてきた。
その体液が立てる粘着質な音と甘く艶っぽい息遣いが、俺の
身体の奥に溜まった熱を煽る。
「笑太くん。。。もう離さな。。。い。。。っ」
最奥まで届くように、深く穿つ。
「寂しがらせてごめん。。。」
「いい。。。仕方ない。。。っから。んっ。。。ああっ」
叫ぶような声を上げて達した清寿の身体を抱き締めて、俺も
同時に高みに達していた。。。

「これで覚えられた?俺の全部」
「うん。忘れられなくなるくらいに。ありがとう、笑太君」
清寿が嬉しそうに笑うから、俺も嬉しくなる。
単純?でもそれでいい。人形じゃなくて人間な証拠。
すぅ。。。
意識を失うように、清寿の身体から力が抜けた。
安心したような、穏やかな笑みを浮かべた寝顔にそっとくちづけて、
久しぶりであろう安らかな眠りを妨げないように、傍らにそっと横に
なる。
規則的な浅い寝息と、水槽の中で泡が弾ける音だけしか聞こえ
ない。そんな静かな夜。
先刻まで清寿の髪と同じ色だった空の端が霞むように、瞳と同じ
紫色に染まり出したのを、大きな窓越しにぼんやりと見上げていた。


                ―The end―






P.S.
突如あまあま〜な話が書きたくなって
書いてしまった話です。
猛暑だっつーのに、
ちょっと暑苦しい??(汗
本日(2007/08/13)の明け方近くには
ペルセウス座流星群が見られる
ようですよ。

タイトルは松任谷由実の曲から。
(切ない、別離の歌だったりする。。)
でもこれってユーミンの造語だったのね。。
今回初めて知りました(*.*;


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