―Resting Place―


朝早くから何かしてるな、と気付いていた。
料理をしている音と、小さな鼻歌が聴こえていたから。
いいニオイがして、キッチンを歩き回る足音もしていた。
微かに水音がして、アロワナも起きてんのか、と思った。
いつも朝は剥製みたいに浮かんでいるだけなのに。

秘密が無いから、ここでは安心して眠っていられる。
うっかり寝言で任務の事を呟いてしまったとしても、
聞いているのは清寿とアロワナくらいだ。

だらだらと眠っていたら、気配が近付いてきた。
「しょ〜たくんっ」
歌うように、耳元で清寿が俺の名を呼ぶ。
「起きて。今日はお花見に行くって約束だよ」
ん〜。。。?花見?
「。。。そんな約束した。。。か?」
鼻先に、清寿の髪がさらさらと落ちてきた。
「したよ」
覚えてねぇなぁ。。。全然。
「えっちしてる途中だったから覚えてないんでしょ」
終わった途端に気を失ったように眠ってしまうお前が、
そんな約束を覚えてるって事の方が不思議だよ。
「今日早く任務が終わったらお花見!しようねって」
ああ、やっぱり。今日オフじゃない。
「そろそろ起きないと朝ご飯食べてるヒマ無くなるよ」
花見よりそっちが先だろうが。
溜め息混じりに身体を起こす。

キスを返しながら見上げた空は、快晴だった。

「これ。。。?」
「お弁当!」
朝から作ってたのはこれか。
やたらと大きな風呂敷包みを抱えるように持って、
清寿はにっこり微笑んだ。
「持ってやる」
風呂敷の結び目に手を伸ばすとそれを拒むように、
包みが引かれた。
「いいよ」
「なんで?重いだろ?」
「いいって。崩れちゃったら悲しいから」
こいつのことだから、目一杯凝って作ったんだろう。
「それって何人分?」
両手が塞がっている清寿の代わりに、部屋の鍵を
閉めてやりながら訊く。
「もちろん3人分だよ」
またもやにっこりと、満開の微笑み。
「笑太君と羽沙希君と僕の分」
「。。。にしては多過ぎないか?」
「多くないよ。去年は2人で食べ。。。」
唇と結ぶと同時に、笑みも消えた。
「去年も作ってきてたのか?」
「。。。うん。笑太君が先に帰った後、羽沙希君と
2人で食べた」
タマに呼び出されて花見に行った、あの日か?
「だから今年は食べて。去年より頑張ったんだから」
優しい口調は俺への気遣い、寂し気な表情が本音、
だろう。
今日は任務を早く終わらせてでも花見に行ってやる
しかないか。

1件サクッと片付けて、3人揃って早退した。
もう散り始めていたが、まだ一番花が残っている木を
探してその下に腰を下ろした。
清寿が頑張ったというだけあって、花見弁当は豪華
で旨かった。

と云っても行ったのは法務省の敷地内で、特刑部の
入っている建物のすぐ側だ。
「綺麗だからいいんじゃない?」
楽しそうな清寿の向こうで、羽沙希がぼーっとした顔
で頷いていた。
「まぁ。。。そうだな」
毎年見事に花を咲かせるあの桜を見せてやりたいが、
あそこはタマも来る所だから連れて行けない。
「僕はここで充分満足だよ」
上方を仰ぎ見ると、髪がふわっと広がった。
「去年は任務の途中でお弁当を食べただけでさ。
お花見って感じじゃ全く無かったんだ」
清寿の視線の先を追う。
青い空と桜の花。
同じ方向を見ていても同じ物を見ているとは限らない
けれど、今はきっと同じ景色を見て同じ様に綺麗だと
感じていると思う。
「今年は良かった」
振り返り際の微笑みと、満開の桜に目を奪われる。
「笑太君と一緒に来れて」
自然に唇を重ねそうになって途中で気付いて、顔と顔
の距離が数ミリしか離れていない所で動きを止めると、
清寿が囁くように云った。
「羽沙希君なら寝ちゃってるよ」
そう云って竦めた肩越しに、まだ生え揃わない芝生で
疎らに緑色の地面の上で眠っている羽沙希が見えた。
「いつの間に?」
音を潜めて、戯れのようなくちづけを交わす。
「羽沙希はよく眠るな」
清寿は口を押さえて笑いを噛み殺した。
「笑太君もじゃない」
笑太はよく寝ると、アイツにも云われたことがあったな。。。
「なんか僕も眠くなっちゃった」
大きな欠伸をして、目尻に溜まった涙を手で拭った。
「朝早かったからな」
「お腹もいっぱいだし」
そして俺の隣に、ごろんと寝転んだ。
「笑太君。手」
一旦瞑った目を開いて、俺を見上げて云う。
「手?」
頭の横に置いた手の指が、誘うように動いている。
そこに片手を差し出すと指を絡めてきた。
「お前まで寝んのかよ?」
俺の問いには答えずに、清寿は瞼を閉じた。
「手、繋いでて」
指先まで冷え切っている手を握り返す。
安心したような笑みが、口元に淡く浮かんだ。
心と身体に刻まれた痛みの記憶は消えることは無い
けれど、今、この一時だけでもそれを癒してやれたらいい。
お前が俺にとってそうであるように、俺がお前にとってそんな
存在で居られたら、と、願う。

こんな穏やかな気持ちで桜を見られる日が来るとは思って
いなかった。。。

芝生の上に広がった髪の上にも、軽く開いている唇の上
にも降ってくる花びらを眺めながら、少し温まってきた手を
強く握り直した。


―The end―






P.S.
桜散っちゃいましたが。。
今頃ですみませんな桜の話。。

夢樹さん(すばるさん改め)
お誕生日おめでとうございます♪
09/04/11Sat,


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