―Deep Structure―


男同士の恋愛、なんて、ありえない。
例えそれが同性から見ても綺麗だと云われる容姿の持ち主
と、男にしておくには惜しいと云われる美貌の持ち主との間
で、であっても。
ましてや肉体関係なんて絶対にアリエナイっ!と思っていた。
「アノ時の式部は、ヘタなオンナより色っぽいぞ」
先日の特刑部の宴会の席で、かなり酔っ払った諜報課の
五十嵐課長が口を滑らせた時には寒気がした。
監視カメラがあるのが分かっていて、その下でそういう行為を
するのも、覗き見されているのを知っていて平気でいちゃつい
ているのもアリエナイ。
けれど、そんな軽蔑すべき男達は実力では常に自分の上に
居て、今年も超えることが出来なかった。
総隊長の御子柴笑太と、副隊長の式部清寿。。。
特刑の中では第一と第三の差は歴然としていて、与えられ
る権限すらも相当違う。
何もかにもが信じ難い。。。いろんな事が鼻につく。

「これからお食事でもどうですか?」
一日の任務を終えてロッカールームで着替えている2人に声
を掛けた時、困惑したような表情で見返してきたのは、意外
にも式部の方だった。
いつも穏やかに微笑んで困った上司をフォローしている人、と
いうイメージを持っていたので、これは想定外だった。
「。。。上條くん、本気?」
嫌そうに、探るようにそう訊く式部の横で、御子柴がはっ!と
短く笑った。
「今日はこれからコイツんちに行ってごはん食べるんだけど。
お前も来る?」
外で食べてもいいよ!と焦って云っている式部の言葉を制し、
御子柴が誘ってきた。
「ウワサの手料理ですね。この前お弁当作ってきたんでしょう?」
無理矢理作った笑顔を返す。
「よろしければ是非ご馳走になってみたいな」
御子柴がほくろのある口元を上げて微笑んだ。
式部の見開かれた目に諦めの色が浮かび、その唇からひとつ
溜息が漏れた。
「じゃ、どうぞ。ホントは食べてくれる人が多い方が嬉しいし」
いつも通りの、人形めいたキレイな微笑みが僕に向けられた。
云ったからには引くに引けず、肩を並べて歩く2人の後をつい
て式部のうちへ行く。
家具の少ないがらんとした空間に大きな窓と水槽だけが目立
つ、無機質で寒々しい部屋だったので、少し驚いた。
もう少しウェットな人だと思っていたのに、違うようだ。
着いた途端、御子柴がソファの上では無くベッドの上にどかっ
と腰掛けたので戸惑っていたら、キッチンから戻ってきた式部が
くすくす笑った。
「何も無くて驚いた?好きな所に座って」
そう云いながらキンキンに冷えた缶ビールを御子柴と僕に手渡
して、またキッチンへ戻って行った。
「なぁ上條。。。お前何企んでんの?」
ビールを1口ぐいっと飲んでから、御子柴が訊いてきた。
面白そうに、口元が歪んでいる。
「企んでいる?心外な」
ベッドの側面に寄りかかるように床に座った僕は、その顔を
反り返って見上げるように見返し、含み笑いをしてみせる。
「ま、いいや。云っとくけど、俺より清寿の方がいざとなったら
コワイからな。それだけは覚えておけよ」

その時はその言葉を軽く聞き流してしまった。
後で後悔することになるとは知らずに。。。


「泣くなよ、上條。誘ったのも煽ったのもお前だろ?」
泣いてるんじゃない!咽喉の奥まで押し込まれているモノの
せいで吐きそうになって涙が出てくるだけだ。。。
どう誘ったか、どう煽ったかなんて、もう思い出せない。
式部の手料理を食べてアルコールも呑んで、酔った勢いで
“男同士ってどんな感じなんですか?本当にイイんですか?”
“僕でも感じますか?”と、しつこく絡んだような覚えはある。
その時は御子柴が嫌そうな顔をして、式部はさも可笑しそうに
笑った。それだけは覚えている。。。
“じゃ、してみる?”怯んだ一瞬の隙に式部の腕に絡め取られ
ていた。その後のことは良く覚えていない。。。
「いじめちゃダメだよ、笑太君。可哀相じゃない」
同情を寄せるような口調にはもう騙されないぞ。。。
すぐ傍で面白そうにこちらを覗きこんできている、微笑みを湛え
た顔を睨みつける。
「璃宮ってキレイな名前だよね。璃宮くん、って呼んでいい?」
耳朶に息がかかる程近付いてきて、そんな言葉を囁かれる。
五十嵐課長が「声だけでイカされそうになる」と評していた綺麗
な声で。
ベッドの上にぺたんと座りこんだ格好の僕を後ろから抱き締める
ようにして、耳の後ろから首へ、そして背筋へと唇が這う。
サラサラと背中を伝い落ちる黒い髪の感触で、鳥肌が立つ。
こんなのアリエナイ。。。オカシクなってしまいそうだ。
「ふふ、可愛い。こんなになって」
勃ちあがってしまっていたペニスを探り当てられ、扱くように愛撫
されて、先走りの露が滲み出す。
それをくちゅくちゅと弄られて、先を割るように指先が食い込んで
きた時には、快感に悲鳴を上げそうになった。
でも口は大きく猛ったモノで塞がれていて、悲鳴どころか呼吸
すらままならない。
「んっ。。。んんん。。。んふっ。。。」
涙も唾液も止まらなくて、顔がぐずぐずに汚れていく。
羞恥心は砕かれて、欠片も無いくらい粉々にされてしまった。
このまま快楽に溺れて、意識が飛んでしまいそうだ。。。
「璃宮くん、挿れられたいの?挿れたいの?」
甘い甘い囁きが、麻痺しかけている理性を更に壊そうとする。
大きく息を吐き出そうとしたその時、急に呼吸が楽になった。
今まで僕の口を犯していたモノが抜き取られたのだ。
「い。。。れたい。。。挿れてみたい。。。」
うわ言のようにそう答えた僕の顔を、背後から目の前に移動
してきた、紫の、大きな瞳が見詰めていた。
「笑太君、いい?」
視線が上に逸らされて僕の背後に立つ御子柴の反応を見て、
その目線が僕の顔に下りて来て、微笑む。
ほんのりと桜色に色づいた頬に、潤んだ瞳に、魅了される。
不意に、首に片腕が回されてきて身体が引き寄せられ、もう
片方の手で掴まれていた僕のペニスが、式部の中に誘(いざな)
われた。
「あ。。。ふぅ。。。ああん。。。っ」
自分のものとは思えない、甘い声が漏れてしまう。
向かい合って座るような体勢で、式部のアツい体内にゆっくり
と、僕のペニスは飲み込まれていった。
柔らかい肉の中に食い込むように進んでゆくその部分の感覚
が他の感覚を遮断し、僕を支配する。
「璃宮くん。。。動いて。。。っ」
僕の首に強く抱きついている式部の背中を抱き返すように
して、もっともっと深いところを目指すように突き上げる。
僕の動きに合わせて揺れるように動く式部の肌がしっとりと、
吸い付くような質感に変わってきた。
「。。。笑太く。。。ん」
浅い呼吸で喘ぎながら、式部が、僕の背中を支えている男の
名を呼ぶ。
呼吸音が途切れ、僕の肩越しに濃厚なくちづけが交わされ
ている気配がする。
耳が敏感になってしまっていて、音だけで感じてしまう。
「ね、笑太君も。。。してあげて」
ねだるような式部の甘い声。
「無理だろ。。。初めてなんだし」
渋るような御子柴の控えめな声。
「いいんだよ。だって璃宮くんはいつも笑太君のことばかりねち
ねちと苛めるし。。。いつもは相手にする気もしないけど。。。」
式部の声が冷酷に変わり、僕の背筋を凍らせた。
「たまにはお仕置きしてもいいんじゃない?」
ふっ、と鼻で笑うような息が頭の後ろで聞こえ、強張った背中
を押されるようにして前に倒された。
繋がったままの式部の身体に覆い被さるような体位になる。
「はぁ。。。んっ」
結合が深くなり、式部が喘ぐ。少し苦しそうな顔が色っぽい。
「んっ!何す。。。る。。。っ!」
ぼんやり見惚れていたら、突然アナルに指が挿れられてきた。
抗議しようとした途端に、前から口を封じられた。
唇を吸われ、舌が差し込まれてきて絡められてきて、喘ぎ声
を上げることすらも出来なくされてしまう。
その間にも解されて、湿り気を帯びた音を発するようになった
秘所に硬い感触が押し当てられた。
そして一気に侵入してくる。
「あ。。。っ!うんん。。。っ」
太くて大きなモノが擦れて、粘膜に熱が生じる。
「あ。。。熱。。。っ!熱い。。。っ!!」
御子柴のペニスを根元まで受け入れて、身悶える。
「上條、お前の中、すごく締まって気持ちイイよ」
低い声が艶っぽく、耳元で囁く。
御子柴の律動が僕の中を掻き混ぜて一番感じる所を探し
出し、それで更に硬度を増した僕が式部へ、御子柴の動き
を伝えている。
下から聞こえるぞくぞくするような甘い吐息と、背後から聞こ
える荒い息遣い。そして身体が繋がり合う湿った音。
聴覚と下半身の感覚だけが僕の全てになって、どろどろに
蕩け出していた。
「璃宮くん、気持ちイイ?」
もう頷くことも出来ない。ただの肉の塊になり下がっていた。
「ホラ、これが君が軽蔑してた男同士のセックスだよ。どう?」
。。。この快感には抗えない。。。完敗だ。
最初に僕が大きな声を発してイッてしまい、間も無く2人が
指を絡めあったまま同時に絶頂に達して、溶け合った。。。


昨夜のことは忘れたい。。。
でも今朝、式部が美しい微笑みを浮かべて僕に云った言葉は、
きっとこの先、ずっと忘れられない。。。
“昨夜(ゆうべ)の事は無かったことにしてあげてもいいけど。。。
君次第。。。かな?”
汚れた身体で眠ってしまったハズなのに、朝になったらキレイに
着替えも済まされていて、朝食までご馳走になってしまった。
「顔色悪いぞ?どうした上條隊長?」
「あ。。。ちょっと寝不足?大したことないですよ」
廊下ですれ違い際に心配そうに訊いてきた五十嵐課長に、
慌てて否定してみせた。
「そうか。ちゃんと自己管理しろよ。あ、そう云えば昨夜、副隊長
のうちに行ったんだって?」
心臓が跳ね上がった。が、必死で平静な表情を保つ。
「え!?そ。。。それ、どうして。。。?」
口調だけは動揺を隠せず、そんな僕を五十嵐課長は横目で
見下ろした。
「さっき会ったら式部がそう云ってた。メシ、美味かっただろ?」
それだけしか云ってないのか。。。?
僕を蔑む言葉もバカにする言葉も続かなかったので、心の中で
胸を撫で下ろしたその時に、
「で?なんで寝不足?」
にやり、とイヤな笑みが向けられて、心拍がもっと早くなる。
答えようとしない僕を見て鼻から息を吐くと、五十嵐課長は僕
の肩をぽん!と軽く叩き、こう云い捨てて去って行った。
「特刑隊員の中で一番コワイのは式部だからな。御子柴を目
の仇にするのは勝手だが、アイツを敵に回すなよ」

僕はしばらく立ち竦んだまま、その言葉を噛みしめていた。


―The end―






P.S.
上條君、苦手。
ハラの中で他人を呼び捨てにしてそうなところが。。
清寿、ちょっと淫乱すぎ?(汗
間に上條を挟んでも結局は2人なんだね!とは、
原稿読んでくれた清惠嬢の感想(笑
自分が精神的にダメージを受けてる時は
こういうイタい話を書いてしまうみたい。。

珍しく、合う背景が見付かりませんでした(T-T)


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