―Have a Hangover―
after"The Faith is Faithless"


「〜〜っ!。。。」
目覚めたら視界がどんより歪んでいて、およそ言語とは思えない
唸り声が口から漏れた。
「。。。?どうしたの?」
コーヒーを淹れかけていた手を止めて、清寿が顔を覗きに来た。
「あ゛〜っ、頭イテェ。。。」
窓から差し込んでくる柔らかな朝の光さえも突き刺さるように痛
くて、布団に包まったまま頭を上げることすら出来ない。
にやり。
清寿が笑った。
「笑太君、もしかして二日酔い?」
いつものふわりとした微笑みじゃなくて、ちょっと意地悪な笑み。
「あんなに呑んだ後であんなに運動したから、悪酔いしたんじゃ
ないの?」
あんなに運動って。。。ならお前だって同じだろう?!
云われっ放しも悔しくて、言い返そうと思ったが、頭がガンガン
して声も出せなかった。
「う゛。。。」
同じくらい呑んだハズなのに、清寿はけろり、としている。
それも悔しい。
いつもは心地良いコーヒーの香りも、今日はちょっと重く感じる。
頭から布団の中に潜り、ベッドの上で身体を丸くした。
二日酔いになった事自体が始めてで、身の置き所が無い感じ。
こんなんじゃ今日一日使いモンにならねぇなぁ。。。
本当は休みたかったが、きっと清寿が許してくれないだろう。
でもツラくてどうにもならない。。。
とろとろと意識が遠のきかけた、その時だった。

「。。。っ!!」
身体の上に重みを感じた。
慌てて布団から顔を出したら、目の前に清寿の顔があった。
にっこり。
布団の上から跨るようにして俺の身体の上に乗っている清寿
の顔には、極上の微笑。
「ちょっ。。。!やめろ、清寿っ!!」
両肩を手で押さえられ、身動き出来なくされてから、掬われる
ように唇を奪われた。
食むように、吸うように、清寿は俺にくちづけし続ける。
拒絶する唇をこじ開けて舌が差し込まれ、口の中が探られる。
布団の上から両手も押さえ込まれていて、覆い被さるようにし
て俺の唇を犯している清寿の身体を、除けることも出来ない。
伊達にこの仕事を何年もしている訳ではないので全身で抵抗
しようと試みるが、相手も何年も俺と一緒に居るだけあって、
動きは読まれて完全に封じられている。。。
空気を求めてもがく。
大きく息を吸ったら、俺の顔の周りに流れ落ちている清寿の髪
の、花のような香りが鼻腔に満ちてクラクラした。
こんなに積極的な清寿も、完全に受身の俺も初めてだ。

ヤベ。。。感じてきやがった。。。

やがて二日酔いの頭痛が、痺れたような感覚に変わり、
身体の中心に熱が生じ、勃ちあがってきたのを感じていた。
俺の上に乗っかっている清寿にも、その変化は伝わってしまって
いる筈だ。
羞恥心で、顔面が紅潮しているのが分かる。
呼吸(いき)が浅くなり、喘ぎだすのを抑えられない。
マジでヤバい。キスだけでイカされそうだ。。。
もう少しで理性が飛びそうになったその時に。。。

ふっ、と、清寿の身体が離れた。
おそるおそる目を開けてみる。
清寿は至近距離で俺の顔を見下ろしていた。
「今日の笑太君、お酒臭いからやっぱりヤダ」
紫色の瞳に映っている、情けない表情(かお)の俺と向き合う。
また意地の悪い笑みを浮かべ、清寿が俺の上から退こうとした。
「そんな気になれないから、ここでお終い!」
身体中の血液が一気に逆流し、頭に血が上る。
「清寿、お前。。。寸止めかよっ?!」
反射的に跳ね起きて、ベッドから降りようとしていた清寿の片足
の足首を捉えた。
「ヤダなぁ笑太君、下品〜!!」
バランスを崩してベッドの上に仰向けに倒れた清寿を、今度は
俺が上になって組み伏せた格好になった。
「清寿〜っ!」
「やだって!離してっ」
言葉とはうらはらに、声が笑っている。
「こう見えても俺、結構我慢強い方なんだけどさ。。。
それにしてもして良い事とダメな事があるだろう?!からかう
のもいい加減にしろ!」
怒鳴ったら頭痛が復活して、軽く眩暈がした。
「だって。。。笑太君、昨晩(ゆうべ)怖かったんだもん。。。」
俺の剣幕に清寿は首と肩を竦めてから、上目遣いで見返し
てきた。
「それに結構乱暴だったから痛かったし。。。」
恥ずかしそうに視線が逸らされる。
淡く桜色に染まった頬。唇を噛むように合わされた口元。
そのひとつひとつが俺の罪悪感を刺激するが、元はと云えば
お前が悪かったハズだよな。。。
「だからってコレか?それ、ヒドくないか?」
えへ。
悪戯っ子のような笑顔。
「最後までする?二日酔いでそんななのにデキるの?」
その言葉で、また頭にカーッと血が上る。
「そんなに痛いのがイイんだったら痛くしてやるーっ!」
「やだ〜っ」
俺の腕から逃れようともがきながらも、清寿が笑い声を立てる。
「笑太君!大好きだから優しくして♪」
「お前。。。ほんっとにイイ性格してるよな。。。」
「そんなの組んですぐに解ったでしょ?それに、これでも大人に
なったって思ってるんだけど」
ああ云えばこう云い返すのが憎たらしい。
「お前、絶対外見で得してる」
「自分でもそう思ってるよ」
清寿はこちらの目を見詰めて笑いながら、指先で俺の口元の
ほくろに触れてきた。
「まだ時間有る?」
俺の言葉に清寿が枕元の時計に手を伸ばす。
「うん。まだ大丈夫」
にこ。
微笑みと共に、俺の腕に清寿の腕が絡んできた。
「汗掻いたら残ってるアルコールも出て、少しは楽になるかもよ」
「云ってろ!」
憎まれ口ばかり叩く唇をくちづけで塞ぎ、その身体をとりあえず
優しく抱いてみた。。。


「なんか今日、総隊長ごキゲン悪くない?」
柏原が羽沙希に耳打ちしている。
こっそりやっているつもりなのか、それともわざと聞かせるつもり
なのか、こちらに丸聞こえだ。
「二日酔いだそうですけど」
「。。。ぷっ!かなり呑んでたもんね〜、自業自得!!」
柏原が吹き出す。
どいつもこいつも。。。
俺の周りにはこんなヤツ等しかいないのか。
「途中で止めたらカラんでくるんだもん。参ったよ」
横目で睨みつけるが、頭が痛くて凄味が出ない。
「もうすぐ現場?」
向こうで清寿が、バンを運転している諜報課1班のメンバー
に聞いているのをぼーっと眺めた。
「で、ソウタイチョ、副隊長に訊きたかった事訊けたの?」
耳元で柏原の声がして、はっと我に返る。
「。。。?!」
「その調子じゃ覚えてないなぁ!昨日俺に向かってアツく語って
たのに」
そんなの全然記憶に無い。。。
にひひひひ。
柏原がいつものように、口を横にぐ〜っと広げてにやにや笑った。
「無理ないよねぇ〜。あんなに酔ってちゃ」
「俺。。。何云ってた??」
焦りを隠さない俺の顔を、さも面白いモノでも見るような表情で
じっと見て、柏原は片目を瞑ってみせた。
「他に誰も聞いてなかったから安心しなよ。今度機会があったら
俺が訊いてやるから!」
だから何をだよ!?。。。と聞き返そうとした所で、清寿から声
が掛かる。
「笑太君、何話してるの?現場についたよ」
白い手袋をはめた手が、目の前に差し出された。
「まだ気分悪い?ツラかったら僕と羽沙希君だけで行こうか?」
「大丈夫だよ」
優しく微笑む清寿の顔を見上げながら、ゆっくり自力で立ち上
がる。

もう酒はこりごりだ。。。

こめかみを押さえるようにして溜息をつきながら、清寿と羽沙希
と共にバンを降り、本日のターゲットが潜む現場へ向かった。


―The end―






P.S.
前作“The Faith is Faithless”で
しこたま呑んで酔っ払ってしまった笑太君。
翌朝やっぱり二日酔い。。という後日談。
いわゆる“おまけ”の、おバカな話です(^.^;;
これも6月新刊『Lunch Break』メインの話
(柏原くんが何気に活躍する話♪)の
伏線になっていたりする。。
いろんな意味で楽しんでます(笑


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