―The Faith is Faithless. 2―


宴の後始末は、死屍累々と重なり合う酔っぱらい達を順番
に全員帰せば完了する。
会場になった特刑部の会議室の片付けは、明日になって
からすればいいことになっている。
日頃の激務で疲労が蓄積している獅洞大臣は大概宴会
の途中で酔っ払って高いびきを掻いて寝てしまい、お開きに
なってから柚原室長が車で送ってゆく。
これは毎年のこと。
三上部長は醜態を晒すまでは呑まないし、五十嵐課長も
足取りが危ないけれどなんとか自分で帰る。
柏原はいつも後片付け前に要領良く帰ってしまうし、今年
は上條も途中で上手く抜けられたらしい。
去年まではこの後始末は御子柴と式部の役目だった。
"花"と云われればキレイだけど、要は後始末要員である。
しかし今年は式部1人でやる羽目になった。
御子柴が先に酔って潰れてしまったからだ。

「笑太君、笑太君。帰るよ」
「。。。ん〜っ」
口の端で、しょうがないなぁ。。。と云うように息を吐いて、
式部は御子柴の身体を腕を引っ張って起こした。
「ねぇ、今日はどっちに帰るの?自分ち?僕んち?」
「ん。。。今日はタマが居るから。。。」
「はいはい。自分ちね」
御子柴の腕を肩に回し、持ち上げるように立たせた。
「。。。でもお前のうちに行く」
式部の肩の力が抜けて、柔らかい笑みが顔に浮かんだ。
「ホントはその方が助かる。顔見られたらマズいもんね」
いくらマスクで顔を隠していると云っても、自分の顔と髪が
印象に残り易いのを、式部は自覚していた。
しかも相手は実態がどうであれ、世間的には敏腕警視。
自分の正体がバレたら、御子柴にまで迷惑をかけてしまう。
そんな事を気にしていたので、ほっとしたのだ。
「も〜っ!重いってばっ。自分で歩いてよ〜!」
担いで立たせたはいいが、寄りかかってくるばかりで自分で
はほとんど歩こうとしない御子柴を引き摺って、外に出る。
「えー?いいじゃん」
式部の髪に鼻先を擦り付けるようにして、御子柴は甘えた
ような声を出した。
「お前、イイ匂いするー」
肩に回された手に御子柴の体重が掛かり、式部は苦しそう
な顔をしてもがいた。
「あーもうっ!いい加減怒るよっ」
そう云いながらも御子柴を投げ出さず、半ば背負うようにして
式部は帰宅した。

「着いたよ、笑太君。はい、横になって」
帰り道では会話は無かった。
もう半分寝ているのかもしれない御子柴を、ベッドの横まで連
れて行って、身体を下ろそうとしたその時だった。

「なぁ、清寿。お前今ホントは誰が好きなの?」

御子柴の突然の言葉に、式部は驚いて動きを止めた。
「え。。。!?」
御子柴は自分の腕に添えられていた式部の手が、一気に冷
たくなっていくのを感じていた。
その手首を掴み、自分の口元まで、呼吸(いき)がかかる位置
まで持ってくる。
「最近、俺に内緒で誰と会ってんの?」
その指の、爪をぺろっと舐める。
「お前さぁ、背中にキスマーク付けられてんの、気付いてない
だろ?」
御子柴の心の中にちりちりと。。。焦燥のように寄せていた、
灼けるような波を言葉にして式部にぶつけた。


それに気付いたのは先日。
御子柴の隣で式部が着替えていて制服のシャツを脱いだ時、
左の肩甲骨の上の一点にくっきりと残されたキスマークに目を
奪われてしまった。
それから気になってチェックするようになった。
この印が現れたのは、最近のこと。
時々、微妙に位置が変わる。
気付いていたら隠すだろうから、多分式部は気付いていない。
わざとそんな、本人から見え辛い位置を選んで付けているんだろう。
御子柴はこんな所に印を付けることはない。
前から抱き合って繋がった時にだけ、目の前にくる綺麗な首筋に
堪らなくなって付けてしまうだけだから。
挑戦的な意図さえ感じるこの印を見る度に、御子柴の中に生じ
たちりちりした波が熱をもって、心を灼くようにアツくなる。


触れ合った式部の背中から、早くなった鼓動が伝わってくる。
緊張して浅くなった呼吸が、御子柴の腕にかかっている。
固まったまま答えようとしない式部の身体を抱えるようにして、
抱き合った格好のままベッドに横向きで倒れ込む。
式部の首を後ろから押さえ込むようにして、御子柴はその着衣
を脱がせていった。
「。。。!」
抗議しようとする口に指を差し入れて、言葉を封じる。
その指を軽く噛むようにして式部は押し出そうとするが、そうする
度に顎を掴む御子柴の手の平に力が入り、口が痺れてきてしま
った。
御子柴がもう片方の手で式部の下腹を探ると、そこはもう熱く
勃ちあがりかけていた。
「こんなんでも感じんの?お前、こんな身体だったっけ?」
握ったり扱いたりして弄んだ後、今度は花芯へ指を滑り込ませた。
御子柴の手を顔から離そうと必死で抵抗していた式部の手が
するりと滑り落ち、御子柴の腕に軽く爪を立てる。
苦しそうに歪んだその顔を、御子柴は冷ややかに見詰めた。
「ね、誰に抱いて貰ってんの?」
「。。。っ。。。ごめん、ごめんっ!笑太くん。。。っ」
口から指を引き抜き、顎から手を離すと式部はしゃくりあげるよう
にして叫んだ。固く閉じられた目からは涙が零れている。
「謝んなくていいから。目、開けて。俺を見て、清寿」
式部の耳朶に、酒臭い息を吹き込みながら、御子柴は囁いた。
びくっ、と式部の身体が一回痙攣したように震え、目がゆっくりと
開かれた。
「俺のこと、好き?」
式部の身体を肩を押さえて反転させて仰向けにし、御子柴は上
からその顔を見下ろした。
式部の潤んだ瞳に映った、優しい笑顔を浮かべている自分の顔
を見ながら、御子柴は柔らかな口調で尋ねた。
「ねぇ、誰の次に、俺のこと好きなの?」
悲しそうに目を細めただけで、式部は答えようとはしなかった。

綺麗な清寿。
俺の清寿。

御子柴の中の独占欲がちりちりと疼く。
そして己の欲望で、式部を刺し貫いた。
「ぅ。。。あぁ。。。っ!」
足を高く持ち上がれらた姿勢を取らされて、式部が苦しそうに喘ぐ。
最奥まで到達しても更に、穿つように腰を動かし続ける。
御子柴の身体に縋りつこうと伸ばされた式部の腕を、分かっていな
がら放置する。
式部の表情が苦痛から恍惚に変わり、まもなく頂点に達しようと
いう気配が見えた時、御子柴はその首筋に両手を当てた。
かっ!と紫の瞳が見開かれ、全身が強張った。
しかし次の刹那にはその緊張が解かれて、ふわり、と笑みが浮かんだ。
「笑太君になら殺されてもいいって、前からずっと思ってた。だから、
笑太君に銃口を向けられたって笑っていられる覚悟はあるんだ」
繋がっている部分から、お互いの鼓動が伝わっている。
「殺してしまいたいと思うほど怒ってるのなら、殺してくれていいよ」
互いの拍動が同調して、その言葉がウソではないと伝えていた。
「清寿、お前ズルいよ」
御子柴は、式部の首に当てた手を取って、頭を抱え込むように
して抱き締めた。
身体と身体が密着して、互いの熱が伝わり合う。
「そんなに信頼されてたんじゃ、俺が身動き取れなくなる」

本当は知っている。
お前が誰に抱かれているのかを。
この前、部長室にお前を迎えに行った時から分かっていた。
でもあのヒトが相手では自分には分が無い。
そう思って諦めていたけど。。。結局我慢し切れなかった。

「ホントは酔わせて白状させて謝らせようと思ってたのに、先に
自分が潰れちまうなんて。。。あ〜情けねぇ。。。」
そう嘆く御子柴の髪を、式部の指が優しく梳くように撫でた。
「でもね、あの人とは"好き"と違うんだ」
式部の声は頼りなげで、溶けて消えてしまいそうだった。
「お互いの空しさや寂しさを埋めるだけの関係なんだよ」
御子柴の、式部の身体を撫でていた手が止まる。
その後に続くかと思われた御子柴を責める言葉を、式部が云う
ことは無かった。
「でも、もう2人きりで合わないって、約束する」
その言葉の切ない響きに、式部の中に納められたままの御子
柴の茎が反応する。
それを受け止めるように、式部の襞が収縮し、包み込んだ。
「こんなに笑太君が怒るって思ってなかった。。。だから許して」
式部は微笑んでいた。
本当に、嬉しそうに。
この笑顔にいつも負けてしまうんだ。。。と御子柴はまた情けな
くなった。
「お前は俺のものなんだって。なんですぐ忘れるんだよ」
「ごめん。大好きだよ、笑太君」
唇を合わせ、身体を重ね合わせてお互いの名前を呼び合って。。
2人同時に頂点に達した。


今日もその部屋からは、東都の景色が一望出来た。
夕焼けで赤く染まりつつあるこの頃が、唯一この都市が美しく
見える時間だと、式部は思っている。
「。。。以上」
御子柴が歯切れ良く本日の任務完了報告をし終え、三上と
五十嵐に敬礼し、3人で部長室を出る。
「明日から連休だね。笑太君、予定は?」
「とりあえず今日、明日はお前んとこ、行っていい?」
にこっ、と、式部が破顔する。
「どうせ連休なんて無理だからね。羽沙希君も呼び出しかかる
って思ってた方がいいよ」
藤堂に説明するように云った式部の横で、御子柴が大袈裟に
溜息をつく。
そちらに微笑みを向けてから、式部は部長室の方をちらっと振り
返った。

貴方の空しさはもう補われることはない。
でも僕の寂しさは、こうやって満たされていくんだ。。。
でも唯一、たった一つだけした約束は近いうちに果たすから。。。
あの時の、細い月が浮かぶ夜空が脳裏に灼きついてしまっている。

式部はその記憶を振り払うように頭を大きく振ると真直ぐ前を向き、
御子柴、藤堂と肩を並べてロッカールームへと向かった。


―The end―






P.S.
身近にいるAB型の人にリサーチしたところ、
自分がこのシチュエーションに置かれたら
@全く気付かないフリをして本当に忘れる。。
A相手を殺しそうになる位とことん追い詰める
だそうで。。。(^-^;
この作品の前にもう1作、もっとぬるいのがあったんですが、
それはダメ出しされまして。。で、A案を採用。
まだぬるい?まぁそれは笑太がヘタレってことで。。
ここら辺で許してくだせぇ(笑
清惠嬢、ご協力に感謝♪

“たった一つの約束”は、6月イベント本の伏線です。
ヒントはHidden Sentimentの中に。。

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