―The Faith is Faithless. 1―


先日、任務が終わってロッカールームで着替えていて、式部の
身体に付けられた"それ"に気付いてから、御子柴の感情には
漣が立っていた。
ちりちりと心が苛まれるような、小さな波が。

2人きりの時にお前が見せるその極上の微笑みは、本当に俺
だけのものなのか?

御子柴の胸に一度生じてしまった疑念はゆっくりと育っていた。


「笑太君、今日速攻で帰っちゃダメだからね」
「え?何かあったっけ?」
「もしかして忘れてる。。。?今日"親睦会"の日だよ」
それを聞いた途端、御子柴は頭をガリガリと大袈裟に掻き出した。
「。。。親睦会?」
「あ〜羽沙希君はいいの。呼ばれてないんだから帰っちゃった方
がいいよ。来年は多分声が掛かるから。。。」
式部はちょっとだけ困ったような顔で、きょとんとしている藤堂に
云った。

親睦会と云えば聞こえがいいが、特刑部の幹部のそれはただの
飲み会で、この春でもなく夏でもない、という半端な季節に毎年
開催される。
統計的にこの季節が一番犯罪が少ない、と諜報課は云うけれ
ど、それにしては毎年忙しくて、それを理由に第二部隊には上手
く逃げられてしまう。
「毎年思うんだけどさ。。。この宴会って大臣がやりたいだけなん
じゃないの?」
今年も酒宴の中心に居るのは獅洞法務大臣で、大変ご機嫌
が良い様子だ。
それを横目で睨むように見ながら、御子柴は式部に耳打ちした。
「あはは!今更何云ってんの?」
式部が呆れたように目を瞠った。
「そんなの皆知ってるよ。これ、大臣の息抜き会だもん」
はぁぁ。。。と、御子柴は太い息を吐いた。
「年度末が終わって4月からの新年度の体制を整えて、5月に
なんとか落ち着いて、7月からはまた夏で犯罪増えるじゃない?
だから今のこの時期に、って。。。知らなかったの?」
式部からはちょっと困ったような笑みが返される。
「法務省のお偉いさん達と違って、特刑は比較的新しい部だけ
あって上層部の平均年齢低くて自分に近いから楽しいって。
獅洞大臣、毎年楽しみにしてるんだよ」
苦々しい顔で目を伏せて首を軽く左右に振っている御子柴に、
式部は更に追い討ちをかけるように云い続けた。
「でも、その様子じゃこの宴会の為に誰が最初にスケジュール押さ
えられるか知らないんだね」
式部の瞳が御子柴を捉えたまま、くりくりと楽しそうに動いている。
「笑太君、すっごい前に今日空いてるか聞かれなかった?」
カーッ、と御子柴の頭に血が上り、顔面が紅潮した。
「。。。なっ!?」
ぷーっ、とその表情(かお)を見て、式部が吹き出した。
「落ち着いて、笑太君。僕も同じ時期にスケジュール確認され
てるから」
式部の華やかな微笑みに、御子柴の全身から力が抜ける。
「最初に"宴会の花から確保"、って、大臣らしすぎるよね」
「俺達。。。"花"なワケ?」
クソッあのセクハラ大臣の野郎っ!と、小さく悪態をついた御子柴
の耳元に口を寄せて、なりきっちゃうと楽しめるよ!と囁くと、式部
は軽やかな微笑みを残して酒宴の中へ混じっていってしまった。

「つくづく思うんですけど、式部副隊長の方が大人ですよね」

突然横からそう云われて、御子柴は条件反射で声の主を睨ん
でしまった。
そこには両手にビール瓶を持ちにやにや笑っている上條が居た。
「ちなみに僕も"花"ですから」
黙っていれば確かにお前も花だけどな、と、声に出すと何かと
面倒臭いので、御子柴は心の中だけで呟いて溜息をついた。
「上條、お前1人?他の2人は?お前だけ掴まったのか?」
さっ、と笑顔が引っ込み、上條の顔が俯いた。
こういう反応がやたらと正直なところと、要領が良さそうに見え
てあまり良くないところが、何かと突っかかって来られても上條を
憎めない理由の一つだった。
「。。。そんなことより!サボってないでちゃんとお酌して回って
ください」
片手のビール瓶をぐいっと御子柴に押し付けて手渡すと、目も
合わせないまま去って行った。
その後ろ姿に、御子柴は思わず声を殺して吹き出した。

「呑め、御子柴!」
なるべく近付かないようにしていたのに、あまりに何回も大声
で呼ばれるので行かざるを得なくなった。
はっきりと舌打ちしながら横に来た御子柴に、もうかなり良い
加減に酔い出していた獅洞は上機嫌で酒を勧めた。
反対の横には式部が座らされていて、もうかなり呑まされて
いる様子である。
「式部はつまらん。強すぎる」
「そんなことありませんよ〜!酔ってますって」
式部が明るい笑い声で答える。
しかし呂律が怪しくなってきている獅洞とは対照的に、顔色
ひとつ変わっていない。
多分、全く酔っていないのだろう。
そういえば、毎年恒例の花見の席でも、この宴会でも、式部
が酔っている姿、ましてや乱れている姿なんて見たことがない。
プライヴェートで呑む時は、あくまで嗜む程度で止めてしまうし。
「清寿、お前、酒強い?」
獅洞の背中越しに式部の肩を突付き、御子柴が訊いた。
「う。。。ん、多分。酔ったことってない」
その答えを聞いて、御子柴の心に好奇心が湧き上がってきた。

式部を酔わせてみたい、と思った。
そして、確かめたいことがある。

御子柴も酒は強い方なので、絶対に式部には負けない自信
があった。
三上や五十嵐と注しつ注されつで呑まされている式部の横に
こっそりと移動して、御子柴もどんどん酒を勧めてみた。


To be continued






P.S.
三上×式部の不倫シリーズ
(友人関係からもそう呼ばれているらしい。。笑)の
締めくくりの話を書いてみました。
書いてるうちに長く暗くなってしまって、
これでもかなり編集しました。。が、
2つに分けても相当長いです(汗
でもちゃんと終わらせたつもり。。
“2”の方もどうぞよろしくm(_ _)m

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