―Hardly Edible―


「な?だめ?」
「はいはい、了解。でもちゃんと手伝ってよ?」
「ええ〜?!。。。羽沙希、お前も来るか?」
「笑太君、それズルい!でも羽沙希君、来る?」
任務はあんなにきっちりとこなし、大臣や部長からの信頼
も篤く、凛々して格好いい上司達だけど、普段の会話は
いつもこんな感じだ。
主語が無かったり、目的語が無かったり。。。
いきなり始まって、2人でだけで解っているのに何故か僕を
巻き込もうとするので、いつもいつも混乱させられる。
今回もこっちに話の矛先が向くと思っていなくて油断してい
たから、面食らって目を丸くしてしまった僕の頭を抱え込ん
で、御子柴隊長が嬉しそうにぐりぐりしてくる。
「え?」
「え?、じゃなくてさ。清寿のごはん、食べたくね?」
「。。。ごはん、ですか?」
「そ。食べに来る?羽沙希君も来るなら作ってあげる」
式部隊長が小首を傾げ、にこにこしながら僕の顔の覗き込
んできた。
「え〜なんでだよ〜」
すっと上に伸び上がるようにして、式部隊長は御子柴隊長
の方を見て笑った。
「なんででしょ〜?」
「。。。なんだよ、それ?」
御子柴隊長の表情(かお)が曇り、声が低くなる。
。。。どんなにニブい僕から見ても、式部隊長は御子柴
隊長にヤキモチを妬かせたくて、僕をダシに思わせぶりな
態度をしているだけって解るのに。。。
「いいんだよ、藤堂。マトモに相手すんなって」
別の話題に移りつつある2人の上司の目を盗むように、
横から柏原班長が耳打ちしてくる。
「放っとけ、放っとけ」
「でも。。。」
「いいんだって。アイツ等に付き合ってると損するのは自分
だって、藤堂もそろそろ学習しろよ」
学習しろ。。。って云われても、こんな風に他人と関るのは
初めてで、何ヶ月経っても未だに慣れない。
「。。。その云い方、ヒドくない?」
僕達の会話を盗み聞きして、式部隊長が頬を軽く膨らま
せながら、伏目がちに云った。
「計算無しでそ〜ゆ〜顔が出来ちゃうのが副隊長の怖い
とこなんだよねぇ」
視線を逸らすようにPCの方に向き直って呟いた柏原班長
の頬が真っ赤になっているのを式部隊長の背後から見て、
御子柴隊長はにやにや笑っていた。
「お前もくれば?」
からかうように軽い口調で云った御子柴隊長に、頭の横で
ひらひらと手を振りながら柏原班長は答えた。
「ごめん。先約有るから今回はパス」
「彼女でもいんじゃねぇの?意外と秘密主義だよな」
「一応諜報課一班の班長だからね」
今後は柏原班長が、口角を横にに〜っと伸ばし、冷やか
しているような笑みを浮かべた。
「秘密は秘密。必要な情報しか提供しないよ」
けっ、と、顔を横に振り切って御子柴隊長が短く云った。
「俺らのプライヴェートは全部知ってるクセに。全くヤなヤツ
だよな」
「そんな事云うんならもう少し隠せって。監視カメラの前で
あんな堂々とセ。。。」
振り返って反論してきた柏原班長が僕の方を見て、はっ、
とした表情(かお)をして、慌てて口を噤んだ。
「兎に角!邪魔者にはなりたくないから、遠慮」
前を向き直りながら、柏原班長が云い捨てるように云った。
「。。。邪魔者?」
「羽沙希居たって邪魔になんかならねぇよ。誰が居ようが
居まいがヤリたい時はヤってるから」
式部隊長の顔が一瞬で、頭の先から湯気が出そうなほど
に真っ赤に染まった。
「笑太君っ!そんな事云わなくてもいいっ!」
「だってホントだろ?前に羽沙希が泊まった時にだって」
「わっ!!だめっ!!」
御子柴隊長の口を手で押さえ込んで困った僕の方を見て、
式部隊長は困ったように眉をへの字にして誤魔化すように
笑った。
「。。。アンタ達さぁ。。。」
横目で2人を見て呆れたような笑みを浮かべた柏原班長
と、胸に抱きつくような格好で口元を塞いでいる式部隊長
の腰に自然に手を当てて目元に不敵な笑みを浮かべて
いる御子柴隊長が対照的で、呆然と見詰めてしまった。
「相変わらず苦労してんね?副隊長」
「いつまでも子供で。。。大変なの分かってくれる?」
式部隊長と柏原班長が、同時に大きな溜め息をついた。
云われている当の本人だけが何故か満足気で、式部隊長
を抱き寄せようとして拒否されていた。
「僕はね、沢山食べてくれる人が好きなんだ」
御子柴隊長から身体を離しながら、式部隊長が僕に向か
って笑い掛けてきた。
「羽沙希君はいっぱい食べてくれるから好き。食べるのが
キレイなとこも好き」
そんな風に綺麗に微笑みながらそんな事云われたら、僕だ
けじゃなくて周りに居る人までどきどきしてしまう。
「羽沙希君おいでよ。一緒にごはん、食べよ」
「は、はい。。。」
「良かった〜っ!」
笑みが弾ける。
「笑太君さ〜、2人分作るんじゃ面倒くさいモノ作れっていう
んだもん!ワガママで困っちゃう」
「作れんだろ?どうしても食いたいんだよ」
「だからっ!作れるけど手がかかるって云ってるのっ」
僕を置き去りにしたまま、会話が続く。
着いて行けなくてぼーっとしていたら、左右の手を各々に握ら
れた。
「じゃ!お疲れ!」
「お疲れ様〜。お先します」
僕を引っ張るようにして部屋のドアまで行ったところで2人が
声を掛けると、柏原班長は吐息混じりに片手を上げて返して
いた。
「あの。。。」
「なぁに?羽沙希君」
更衣室へ向かう廊下を歩いている時に訊いてみた。
「そんなに手のかかる料理って。。。何ですか?」
うふふ、と、式部隊長が微笑んだ。
御子柴隊長が、にやっ、と笑った。
「何でしょう?」
「何だと思う?」
同時に口を開いて、同じことを云う。
こんなところまで気が合ってるなんて、この2人はベストパート
ナーなんだろうな。。。
僕と繋いだ手を大きく振り回すようにして上機嫌で歩く式部
隊長と、その様子を見て軽く微笑んでいる御子柴隊長を見て、
少し羨ましくなってしまった。
藤澤が生きていたらこんな風になれたかな。。。
「羽沙希君?迷惑だったら別にいいよ。帰る?」
式部隊長はこういう時、鋭い。
気付いて欲しくないのに、いつも気付かれてしまう。
「いいえ。お手伝いします」
頑張って作った笑顔だと分かっても、それ以上云わないでくれ
るところも鋭い、と思う。
「それ、お前だけいい子でムカつくな〜!」
僕の頭を掴んでぐりぐり撫で回しながら笑う大きな手のひらの
持ち主を見上げて、温かく見守ってくれている視線を感じて、
優しい気分になった。
僕だけがこんな気持ちになるのは許されるのかな。。。
そう思ったら、またあの水の中に落ちて行く幻覚に襲われそう
になったけれど。。。
今だけ、ほんのちょっとだけだから。。。見逃して。


―The end―






P.S.
『沢山食べてね!』
というタイトルのこの話、
実は秋ぐらいに書き始めて
そのままお蔵入りしていた話で。。
当初の設定では、手のかかる料理は
“栗ごはん”でした。
時期がズレちゃったので
あえて書きませんでしたが。。
冬の手のかかる料理って
何でしょう??(汗
08/01/28


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