―Indispensable Factors―


「ん?どうした」
本日1件目の処刑を終えて諜報課1斑のバンに戻って
きた藤堂が、しきりに頭を捻りながらコルトガバメントを眺
めているのに気付いて、御子柴が声を掛けた。
緑の瞳が、まん丸になったまま上を向く。
「なんだか調子が悪くて。。。なんか感触が重いんです」
「ん?貸してみ」
藤堂から受け取った拳銃をチェックしてから、御子柴は
その手にぽいっと返してきた。
「今撃つ訳にいかないから詳しいことは分からねぇけど、
中、掃除してもらった方がいいかもな。帰ったらメンテに
出しとけよ。武器の不備は命に係わるから早めにな」
いつもデザートイーグルをいじっている手で持たれると、
コルトガバメントですら小さく見える。
「あの。。。」
ん?という表情で、御子柴は藤堂を見返した。
「御子柴隊長は何で常時携帯する武器に銃を選んだ
んですか?」
御子柴は驚いた顔で黙ったが、次の瞬間、こう答えた。
「好きだったから、かな」
にかっ。子供みたいな笑顔。
青い目が細められ、口元から白い歯が覗く。
「ガキの頃から興味あってさ。カッコいいだろ?だからかな」
予想通りの返答に藤堂も納得するしかない。
端整な顔に鍛えられた身体。一見冷めていそうに見える
けど実際はそうでもなくて。。。
そういえばこの人の入隊前の話、特に子供の頃の話なん
て聞いたこと無いな、と、藤堂は御子柴を凝視したまま
考えてしまった。
「お前は?なんで日本刀にしたんだ?」
御子柴の質問で、藤堂の視線が上に泳ぐ。
「えっと。。。養成所でやってみて、一番得意だったから?
です」
ふ〜ん、と、御子柴が見下ろすように藤堂を見た。
「でもお前は実技は満遍なく優秀だったって聞いたけど」
「ええ。とりあえずは。御子柴隊長は違ったんですか?」
「ははっ!実は俺も清寿もそうなんだけどな」
そこまでにこにこと2人のやりとりを見守っていた式部が、
名前を呼ばれたのをキッカケに会話に入って来た。
「笑太君はとにかく撃つのが好きなんだよね。よく射撃場
に行ってるしさ。スカッとするんでしょ?」
綺麗な顔に美しい髪。ふわりとした微笑みに優しい声。
背が高くてガタイもいいけれど、こんな職業に就いている
者には決して見えない柔らかい外見。
式部にはツラい過去があって、保護されるように養成所に
入ったとは聞いているが、藤堂はそれ以上詳しい事は知
らずにいる。
「。。。式部隊長は、何故ワイヤーを選んだんですか?」
突然話を振られて、式部が驚いたように目を瞠った。
「あ、そうだな。俺も一度聞いてみたいと思ってたんだ」
御子柴も顎の下に手を当てて、大真面目な顔で云った。
「特刑隊員内でワイヤー使いってお前だけだろ?何で?」
う〜ん。。。としばらく間を置いて、上方を漂っていた式部
の視線が御子柴と藤堂のところに降りてきた。
「子供の頃から興味あってさ。カッコいいでしょ?」
御子柴の口調を真似てそう云って、ふふふ、と笑う。
「コラ、真似すんな。こっちは真面目に聞いてんのに」
式部の頭を、こつん!と御子柴の拳が軽く打った。
いたぁい!と片目を閉じて、叩かれた所を押さえながら、
式部はまた笑った。
「本当はね。。。あ、でも聞くと後悔するよ?どうする?」
言葉にはそぐわない、満開の笑顔。
そんな顔でそんな事云われても。。。と、藤堂は言葉に
詰まって、返事をするのが一瞬遅れてしまった。
「んじゃ、止めとく」
すると、御子柴が即答してしまった。
「おい羽沙希、アイツはクセ者だからな。真面目そうな顔
して大嘘つくから。くれぐれもあの顔には騙されんなよ。」
耳を手で覆ってナイショ話のようにみせているのはただの
パフォーマンスのようで、式部にも聞こえる声量で御子柴
は藤堂に耳打ちした。
「ひどいなー笑太君!それ云い過ぎじゃない?」
「ふぅん。じゃあ何でだよ?」
「う〜んとねぇ。。。」
「訊かれてから考えてんじゃねぇよ」
ぷっ!と2人して吹き出した。
最初から答える気は無かったらしい。
こういう時のやりとりは、初対面の時と変わらない、と藤堂
は思った。
あの時はこうしてきゃっきゃしている2人を見て"なんだこの
人達。。。これが第一?"って本気で思ったんだったっけ。
藤堂は深く太い息を吐いた。
「では質問を変えます。ワイヤーのメンテって自分でしてる
んですか?」
藤堂の真面目な顔を見て、式部がふんわり微笑んだ。
「そう。自分でしてるよ。このワイヤー自体特注だしね」
カフスに仕込んだワイヤーの先を、少しだけ引っ張り出して
みせる。
「材質から太さ・長さまで、全部自分仕様にしてもらってる
から、メンテ出来るのも自分だけなんだよ」
「練習は?してるんですか?」
藤堂は首を伸ばし、袖口のあたりを覗きこんだ。
「う〜ん。。。でもそれ、マジで聞かない方がいいかもよ」
「それじゃ余計気になるだろうよ」
呆れたように云った御子柴を無視して、悪戯っぽく瞳を輝
かせて式部は藤堂を見た。
「。。。えっとね、実はうちで。。。」
「うちで?」
御子柴の方が反応が早かった。
「うん。うちでね。遠くの物を取るとか。結構便利なんだよ」
式部は冗談ともつかぬことを云って、にこにこしている。
「もしかして。。。だからお前んちって何も無いの?」
「そうだよ。いろいろあったら引っ掛かちゃうじゃない」
御子柴が肩を竦めたのを見て、式部は意味有り気な微笑
みを浮かべた。
「お風呂の時とか寝る時以外は大概身に付けてるから身体
の一部みたいなもんだし、無意識に使っちゃう時も多いんだ
よね〜。反射的にね」
ふふふ、と艶やかに微笑むとしなやかに身体を翻し、式部は
次のターゲットを捕捉中の柏原の方へ行ってしまった。
「御子柴隊長、差し出がましいかもしれませんけど。。。」
上目遣いでおずおずと、藤堂が切り出す。
「なんだ?」
「ケンカする時はくれぐれも気を付けてくださいね」
威力ではデザートイーグルの方が勝っても、瞬発力ではワイ
ヤーには負ける。しかも式部のワイヤーは銃身くらい軽々と
輪切りにしてしまうし。。。
御子柴の冷たい色の瞳が冷静に、藤堂を見下ろした。
「ああ。。。そうする。忠告、さんきゅ」
大きな手で肩をぽんっ、と叩かれて、反動で瞬間目を閉じ
てしまった。
「お前も不法侵入されてる時には気を付けろよ」
柔らかな笑みを残して柏原の横に行った御子柴が、長身
を屈めてPCを覗きこむ。
そして片手を持て余したように、横に並ぶように立っている
式部の肩に自然に回して、髪を一筋弄びだした。
その手を式部は、埃をはたき落とすみたいに軽く払う。
背後からそれを見てくすっ、と笑ってしまってから、この2人
が真剣にケンカしたら止められる自信ないな。。。
そう、こっそり思った藤堂であった。


                     ―The end―






P.S.
笑太が拳銃を、
羽沙希が日本刀を
選んだのはなんとなく
分かる気がするんですが、
清寿がワイヤーを選んだのは
何故なんでしょうねぇ?
そのうち原作者さん、
書いてくれるかな。。
ちょっと期待♪
↑ワイヤー萌え(爆
08/01/19


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