08. 「そんなもんじゃなくて、むしろお前を食わせろよ」


さっきからいいニオイがしてんのに、キッチンから清寿が
出てくる気配が無い。
普段は手早く料理を作って出してくれるのに、いつも
と様子が違うので気になって、ごろごろしていたベッド
から起き、足音を忍ばせてキッチンへ行く。
「清寿」
「わっ?!」
背後から声を掛けると、清寿は大きく声を上げて体勢
を崩した。
「危ねぇなぁ」
後ろに倒れそうになった身体を抱き留める。
「はぁ、びっくりした。。。」
首の前で組まれた俺の腕に両手を添えて、溜め息
混じりに云う。
「笑太君〜、気配殺して近付いてくんの止めてよね」
危ないなぁ、と呟きながら、カチッと火を消した。
あれ?ちょっと機嫌が悪い?
帰ってくるまではそんなこと無かったような気がする。
「飯は?飯〜」
首筋に鼻を埋めてくんくん嗅ぐ。
「うん。それがね。。。なんか失敗しちゃったみたいで」
耳朶を唇でくすぐる。
くすぐったい、とか、止めてよ、とか。
いつもならもっと嬉しそうにするのに、今日は軽く肩を
竦めただけで笑顔もナシか?
「いいニオイがしてる」
腕の内側に清寿の乾いた唇が軽く触れている。
「ニオイはね。。。でもなんか味がイマイチで。。。」
軽く俯いた顔は髪で隠れて、表情が見えない。
「お前の作ってくれるもんはいつも旨いよ」
耳元で囁いたら、おっきな溜め息が返ってきた。
「今までこんな失敗したことなかったから悔しいって、
こういう気持ち、笑太君にだって分かるでしょ?」
呆れたとでも云いたげな上目遣いで俺を見上げた。
瞳がちょっと潤んでる?
すぐにまた前を向いてしまったから、見えなくなった。
「美味しいものを作ってあげたかったのにな。。。」
やば。。。
キッチンで、新妻風真っ白なフリフリエプロンを付け、
少し落ち込んでいる清寿を後ろから抱いてるという
このシチュエーションに興奮してきた。。。

「そんなもんじゃなくて、むしろお前を食わせろよ」

「そんなもん?」
腕に触れている唇が、ゆっくりと動いた。
本気で怒ると清寿は怖い。
まだ任務中にしか見たことないが、きっと大変な事
になる。
焦って絞り出した云い訳は、我ながら情けなかった。
「。。。ごめん。てか、あのホラ、エイプリルフール?」
さらりと、髪が腕の内側を滑った。
「エイプリルフール??」
身体を回して俺と向かい合うように立つと、清寿は
口に握った拳を当ててくすくすと笑った。
「ふふ。それ苦し〜!」
どうやらこれ以上ご機嫌を損ねずに済んだらしい。
腹の底から深く大きく、安堵の息を吐く。
「笑太君」
「ん?」
「おあずけ。今夜は食事も、僕も、ね」
「。。。っ」
反射的に情けない表情(かお)をしてしまった様だ。
「あははっ!なんて、ウソ。引っ掛かった?」
俺の口の横のホクロを指先で軽く弾いて満足そう
に笑った。
「笑太君っ」
こうなると完全に清寿のペースだ。
「っんだよ?」
無愛想に返事をした俺に、楽しそうに訊いてきた。
「先に食事にする?それとも。。。。」
終りまで云わせずに唇を奪うのが、形勢逆転の
最後のチャンス。
「先にお前をいただくよ」
掬う様に足を抱き上げてベッドへ運ぶ。
「ねぇ、笑太くん」
首にしがみついてきた時に、こっそりこう云われた。
「今日が4月1日で良かったね」
参った。お手上げ。
あれで誤魔化し切れたとは思っていなかったけど。
甘い吐息が悦びの声に変わり、やがて重なって
果てるまで。
今日は徹底的に尽くしてやるしかなさそうだ。


―End―



結局惚れてる方の負け
。。という話?
2人の体格からすると、
お姫様抱っこと云うより
抱きかかえる、みたいな
そんな運び方を想定。
甘いようで甘くない。。
笑太君、腰を大切に(笑
09/04/01Wed.


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